フェラーリは、いつも我々の心を熱くする。日本でも既にお披露目された「ポルトフィーノ」は、だがしかし、未だに公道で見かけることはない。それもそのはずで、発表(受注開始)から納車まで、長い期間を要するのが、ラグジュリアリーの常識なのだ。ディーラーに行っても「即納車アリ!」なんてことは、まずない(言い切れないが)。というわけで、いち早く海外でハンドルを握ったエディターの山口幸一氏に、その味をリポートしていただこう。
圧倒的に洗練されていた! フェラーリ「ポルトフィーノ」
フェラーリの創業者、エンツォ・フェラーリが、もともとアルファ・ロメオのワークスドライバーだったことをご存じの方は多いだろう。彼は、レースで勝つためにフェラーリを興した。だから、フェラーリのホームグラウンドはサーキットなのである。
しかし、ことプロダクトカーについては、官能的とさえいえる優美なフォルムをまとったグラマラスなクーペを創業時より手がけ、世界中の富裕層を魅了しつづけてきた。スティーブ・マックイーンの元妻、ニール・アダムスが、マックイーンに贈ったことで知られる「250GT ベルリネッタ ルッソ」や、ジョン・レノンが所有していた「330GT 2+2クーペ」のように。
イタリア北西部のリグーリア海に面した、風光明媚な高級リゾート地、ポルトフィー。その名を冠した最新のオープントップ2+2シーターも、まさにそんな先達の流れを汲むラグジュアリーなGTである。
最大の特徴は、先代モデルである「カルフォルニアT」でフェラーリが初めて採用したリトラクタブルハードトップにより、流麗なファストバッククーペとエレガントなスパイダー、2つのボディタイプを1台に融合させていることだ。
今回、試乗会場となった南イタリア・バーリのリゾートホテルで対面したポルトフィーノは、カリフォルニアTと比して、圧倒的に洗練されたデザインをまとっていた。
つぶさに観察すると、Aピラーから流麗な曲線を描きながらリアデッキに溶け込むルーフラインや、繊細な面構成で明暗のコントラストを浮かび上がらせるボディサイド、そしてアスリートの筋肉を思わせるボリューム感あふれるリアフェンダーまわりなど、一段とデザインに磨きがかけれていることに気づく。その姿は、クーペとスパイダーいずれの状態でも、息を飲むほどに美しい。
まるで「タキシードとアンコンジャケットの融合」
走り出すと、まず印象的なのが車内に横溢する上質感だ。例えば3.9リッターV8ターボは、シャープな吹け上がりと天井知らずのパワーを誇りながら、タウンスピードでは最高出力600psの超高性能ユニットであることを忘れてしまうほどにジェントルな振る舞いを見せる。
上質な走りに一役買っているのが、乗り心地の良さだ。試乗コースの路面は概して荒れていたのだが、剛性が高められた新設計のボディとしなやかな足回りが、路面からの入力を適度におさえてくれるのだ。
特筆すべきは、オープンエアドライブ時の快適性である。例えば、アウトストラーダを制限速度の130km/h程度で走っても車内への風の巻き込みはわずかで、助手席の人との会話も楽しめるほどに静かなのだ。これならば、アルミ製の優美なルーフを積極的に開け放ちたくなるだろう。
一方、走りの舞台がワインディングロードに変ると、フェラーリの名に恥じない胸のすく刺激的な走りを披露してくれる。フェラーリのラインナップではGTカテゴリーに属する優美なポルトフィーノだが、サーキットを出自とするブランドのDNAは息づいているのだ。
ラグジュアリーなGTと、第一級のスポーツカー。ポルトフィーノは、その二役を見事に演じきる。あるときは洒脱なスーツに身を包む華麗なる大富豪を、あるときはレーシングドライバーを演じるスティーブ・マックイーンのように。たとえば、フェラーリをドライブするのは、いわゆるハレの行為だが、ポルトフィーノは、上質な走りやイージーなドライブを受け入れる懐の広さなど、高い日常性も備えている。いわば、ブリオーニのタキシードと、ボリオリのアンコンジャケットを1着に融合させたような、極めて希有な1台なのだ。
スティーブ・マックイーンは、日々どこへ行くにも前述した250GT ベルリネッタ ルッソのステアリングを握ったという。ポルトフィーノもまた、時には早朝のワインディングロードへ、また時にはラグジュアリーな海辺のリゾートへと、シーンを問わずステアリングを握ってこそ、その真価が発揮されるのだ。
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- TEXT :
- 山口幸一 エディター