【目次】
世界的に注目される「ミソジニー」問題
エンターテイメント界で高まり続ける「ミソジニー」への問題意識
昨今、耳にすることも多い「ミソジニー(=女性蔑視)」というワード。特に海外のエンターテイメント界では「ミソジニー」に対する問題意識が年々高まっています。
2025年3月にNetflixで配信されたドラマ『アドレセンス』は、13歳の少年が同級生の女生徒を殺害するというセンセーショナルな内容もさることながら、ミソジニー的思想やその背景にあるSNS文化を扱い、世界中で大きな話題となりました。
また、ハリウッドをはじめとするエンタメ界では、女性の権利を訴える姿勢を明らかにするセレブリティも多く、その言動が大きな注目を集めています。こうした動きはエンタメ作品・社会文化双方において、 “ミソジニーをそのままにしてはいけない”という潮流を示していると言えるでしょう。
「ミソジニー」と「フェミニズム」
近年のハリウッドでフェミニズムが再び大きな注目を集めるきっかけのひとつとなったのが、2017年に表面化した、映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによるセクシュアルハラスメントおよび性的暴行の告発です。この問題が報じられたことで、SNS上ではハッシュタグ「#MeToo」を使った告発が世界的に広がり、社会的なムーブメントとなりました。
女優やエンターテイメント業界に関わる女性たちが、自ら経験した性暴力や性差別を声に出し、長年ハリウッドに根付いていたミソジニー的な構造が明るみに出ることとなったのです。
この動きはアメリカにとどまらず、ヨーロッパやアジアにも波及。日本でも、職場で女性にハイヒールの着用を求める慣習に異議を唱える社会運動「#KuToo」が話題となり、女性の身体的負担やジェンダー規範に対する問題提起が広まりました。
「ミソジニー」とは
「ミソジニー」とは、女性に対する蔑視・嫌悪・偏見を意味する言葉で、古ギリシャ語 misoguníā(“女性を憎む”)に由来します。関連語として、男性に対する蔑視・嫌悪を示す「ミサンドリー」、女性らしさや女性を好む態度を示す「フィロジニー」などがあります。
また、女性への性差別をなくし男女平等を目指す思想・運動として「フェミニズム」、男性が社会的・文化的に受ける性差別や固定的な性役割からの解放を論じる「マスキュリズム」も、ジェンダー問題を考えるうえで重要な用語です。
インターネットを中心に広がる「インセル」「マノスフィア」文化
性差別の解消や多様性の尊重を目指す動きが世界的に広がる一方で、インターネット上のコミュニティやSNSでは、逆にミソジニー的な思想が勢いを持ち始めているという側面があります。
Incel(インセル)は、「望んでいるにもかかわらず恋愛・交際・性的関係を結べない」と自認する男性たちを指し、その一部には女性や女性の権利を敵視する過激な思考が見られます。また、こうしたコミュニティ群をひとまとめに「Manosphere(マノスフィア)」と呼ぶこともあり、オンライン上の男性向けフォーラムやSNSにおいて、フェミニズム批判・女性蔑視・“伝統的性別役割”回帰の主張などが散見されます。
さらに、こうした文化的背景はドラマ作品などでも取り上げられており、例えば Adolescence(Netflix配信)では、インセル文化とマノスフィア思想の影響が描かれ、社会問題として議論を呼んでいます。
このように、オンライン上での男性の孤立・敵意・偏見が極端化する傾向が一部で観察されており、ジェンダー論・オンライン安全・教育の観点からも注視すべきテーマとなっています。
「ミソジニー」「フェミニズム」問題を取り上げた作品8選
ここからは、「ミソジニー」「フェミニズム」問題を取り上げた「映画」「テレビドラマ」をご紹介します。
『アドレセンス』(2025年)
Netflixオリジナルドラマ。13歳の少年による女生徒殺害事件を通して、ミソジニー、インセル、マノスフィアといった現代におけるジェンダー問題を扱った作品。物語の舞台となったイギリスをはじめ世界中で話題となった。犯行を行った少年ジェイミー役はオーウェン・クーパーが演じ、史上最年少でエミー賞助演男優賞を受賞した。
あらすじ:ある夜、武装した警官が就寝中のミラー家に突入。13歳の息子ジェイミー(オーウェン・クーパー)を同級生の女生徒殺害容疑で逮捕するという。父エディ(スティーヴン・グレアム)をはじめ、家族はパニックに。ジェイミー自身も必死に容疑を否認するが、犯行の瞬間を捉えた監視カメラの映像を見せられ、罪を認める。事件の背景を捜査していた警部補ルーク(アシュリー・ウォルターズ)は、被害者の女生徒がジェイミーのことを「インセル」というネットスラングで嘲笑していたことを知る。
『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(2022年)
マリア・シュラーダー監督。ミーガン・トゥーイー、ジョディ・カンターによるノンフィクション『その名を暴け ―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』を原作とした作品。#MeToo運動が広がるきっかけのひとつとなった、ハーヴェイ・ワインスタイン事件を報道した女性たちの戦いを描いている。出演は、キャリー・マリガン、ゾーイ・カザンなど。
あらすじ:ニューヨーク・タイムズ紙の記者ジョディ(ゾーイ・カザン)は、ハリウッドの大物プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインが日常的にセクシュアルハラスメントや性暴力を行っているという情報を得る。同じく記者のミーガン(キャリー・マリガン)と共に被害者への取材を試みるが、示談の際に結んだ秘密保持契約によって誰も口を開こうとはしない。ふたりは妨害行為を受けながらも、事態を明るみにすべく取材を続けていく。
『アシスタント』(2020年)
キティ・グリーン監督。ドキュメンタリー映像作家である監督にとって初となる劇映画作品で、#MeToo運動に影響を受け製作された。主演は、ジュリア・ガーナー。
あらすじ:名門大学を卒業したジェーン(ジュリア・ガーナー)は、映画プロデューサーを夢見て有名エンターテイメント企業に就職する。会長のジュニア・アシスタントとして朝から晩まで働くジェーンだったが、仕事内容は雑用ばかり。理不尽な扱いが重なるなか、美人の同僚が宿泊するホテルに会長が出入りしていることを知ってしまう。
『バービー』(2023年)
グレタ・ガーヴィグ監督。世界的に人気のおもちゃバービーを題材とした作品。主演は、マーゴット・ロビー。華やかな世界観の背景にフェミニズム的メッセージを内包していると評判をよんだ。
あらすじ:さまざまな種類のバービーとケンが幸せに暮らす、完璧な世界「バービーワールド」。あることがきっかけで不安を感じるようになった定番バービー(マーゴット・ロビー)は、問題を解決するために現実の世界へと旅に出る。持ち主の女の子サーシャ(アリアナ・グリーンブラッド)を探し当てたバービーだったが、人間の世界は理想と違っていて…。
『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』(2020年)
アメリカで放送されたテレビシリーズ。1970年代のアメリカで起きた、男女平等に関する憲法修正条項を巡る激しい論争を題材とした作品。フェミニストで知られるケイト・ブランシェットが、正反対の立場ともいえる反フェミニズム政治活動家フィリス・シュラフリー役を演じたことも話題となった。
あらすじ:1970年代、アメリカ。保守派の政治活動家フィリス・シュラフリー(ケイト・ブランシェット)は、男女平等憲法修正条項、通称ERAの議会通過を目指すフェミニストたちに対抗。保守派の主婦たちを巻き込み、壮大な反フェミニズム運動を展開していく。一方、黒人女性初の下院議員シャーリー・チザム(ウゾ・アドゥーバ)たちによるERA賛成派の運動も活発化。1972年に法案が可決されたことをきっかけに、女性たちの分断は激しさを増していく。
『スキャンダル』(2019年)
ジェイ・ローチ監督。2016年にアメリカで起きた、FOXニュースの創始者ロジャー・エイルズによるセクシュアルハラスメント告発を描いた作品。出演は、シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーなど。
あらすじ:FOXニュースの元人気キャスター、グレッチェン・カールソン(ニコールキッドマン)は、CEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)によってセクシュアルハラスメントを受けていたことを告発。メディア界の大物のスキャンダルに、世間は騒然となる。一方、FOXの看板番組でキャスターを務めるメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)もまた、過去にロジャーによるセクシュアルハラスメントを受けていて…。
『グロリアス 世界を動かした女たち』(2020年)
ジュリー・テイモア監督。1960年代に活動した女性解放運動家グロリア・スタイネムによる自伝『My Life on the Road』が原作。主役のグロリアの青年期をアリシア・ヴィキャンデルが、壮年期をジュリアン・ムーアが演じた。
あらすじ:大学卒業後、出版社に就職したグロリア(アリシア・ヴィキャンデル)。留学中のインドで目の当たりにした、男性によって虐げられる女性たちの状況を記事にしたいと志願するも、女性であることを理由にファッション担当に回されてしまう。プレイボーイクラブへの潜入取材が評判をよび、いつしか女性解放運動家として知られていったグロリア(ジュリアン・ムーア)は、1972年、女性が主体となる雑誌「Ms.」を創刊する。
『未来を花束にして』(2015年)
サラ・ガウロン監督。1910年代のイギリス婦人参政権運動を描いた作品。出演は、キャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム=カーター、メリル・ストリープなど。
あらすじ:1912年、ロンドン。洗濯工場で働くモード(キャリー・マリガン)は、女性参政権を求める活動家のイーディス(ヘレナ・ボナム=カーター)に出会う。リーダーのエメリン(メリル・ストリープ)の演説を聞き、徐々に活動に参加し始めたモード。しかし、それをよく思わない夫から一方的に離婚を言い渡され、息子にも会えなくなってしまう。
「反ミソジニー」「フェミニズム」を主張するセレブリティたち
ハリウッドを中心に、フェミニストとして活動するセレブリティや、反ミソジニー的な発言をしている有名人をご紹介します。
キーラ・ナイトレイ
フェミニストとして立場を明確にし、さまざまな場面で積極的に発言をおこなっているキーラ・ナイトレイ。その姿勢は作品選びにも表れており、2018年に主演した映画『コレット』では、性差別と闘った作家のガブリエル・コレット役を演じたほか、2020年には『彼女たちの革命前夜』でミス・ワールド開催に抗議した女性活動家を熱演し、話題となりました。
ビヨンセ
2014年、MTVビデオ・ミュージック・アウォードのステージで「FEMINIST」という言葉を掲げてパフォーマンス。代表曲である『Run the World (Girls)』や『Single Ladies』をはじめ、女性の強さや自立を讃える楽曲も多く、そのカリスマ性をもって女性の権利向上運動をけん引しています。
ジェニファー・ローレンス
映画会社の社内メールが流出したことを発端に明らかとなった、男女間の出演料格差問題。自身の出演料が男性出演者よりも低く設定されていたことに対して、女性に対する差別であると厳しく批判しました。
また、映画のプロモーション活動で着用したドレスに批判が起きた際には「着用は自分自身の選択」として、安易な批判こそが性差別のもとになると反論しています。
ジェーン・フォンダ
1970年代から、社会活動家としてさまざまな問題に取り組んできたジェーン・フォンダ。2001年に自身が離婚したことをきっかけに、女性の権利向上活動にも力を入れはじめました。80歳を迎えた今も熱心な活動をおこない、DV被害者支援や女子割礼禁止を訴えるなど、ハリウッドきってのフェミニストとして活躍は多岐に渡っています。
アシュレイ・ジャッド
ハーヴェイ・ワインスタインへの告発を最初におこなった女優のひとり。業界紙へのインタビューで告白した内容は大きな衝撃を与え、#MeToo運動が広がるきっかけとなりました。複数回の性的暴行被害に遭っていることから、暴力の撲滅を訴え、国連人口基金の親善大使として活動するなど、女性の権利を守るための活動を広くおこなっています。
アリアナ・グランデ
楽曲『Positions』のミュージックビデオではアメリカ大統領役を演じ、現代女性のあるべき姿を体現。近年では、過剰なリップフィラーやボトックスをやめたことを公言。年齢を重ねることを好意的に捉える姿勢を示しています。
ケイト・ブランシェット
女性の地位向上に関し、さまざまな場面で言及してきたケイト・ブランシェット。2018年のカンヌ国際映画祭では審査委員長を務め、業界内における男女間格差についてスピーチ。慈善活動にも熱心で、映画界きってのオピニオンリーダーとして多大な影響を与えています。
テイラー・スウィフト
ラジオDJによるセクシュアルハラスメント被害を告発し、賠償金1ドルを求める裁判に勝訴。自ら声を上げることで、若い女性たちに被害を訴え出る勇気を与えました。また、30歳という年齢が結婚を考えるきっかけになるかという質問に対し「男性に対してはその質問はしないはずだ」と返答。女性差別的な発言に対し毅然とした態度をとったことも話題となりました。
エミリー・ラタコウスキー
モデル、女優として活躍するエミリー・ラタコウスキーもフェミニストとして知られるひとり。#MeToo運動やアメリカのアラバマ州で可決された中絶禁止法などにも、積極的な発言をおこなっています。
シャロン・ストーン
#MeToo運動の際には、自身が受けた性差別や映画関係者から性的関係を求められたことなどをカミングアウトしてきたシャロン・ストーン。フェミニズム運動が盛んではなかった時代から女性の権利を主張してきたことも知られ、それが原因で男性から「難しい女」という評価を受けてきたことも、自伝で綴っています。
ジーナ・デイヴィス
2004年にジーナ・デイビス研究所を設立。メディアにおけるジェンダー表現を調査、分析し、性別による偏りや男女格差是正に向けて働きかけています。ハリウッドにおける「40歳の壁」にも言及し、年齢を重ねた女優には脇役しか用意されないことについて苦言を呈しました。
リース・ウィザースプーン
映像制作現場における男女平等を推進すべく、自ら映像制作会社を起業。#MeToo運動をきっかけに、セクシュアルハラスメント被害者が訴訟を起こす際の援助を行う基金を設立するなど、行動力をもってフェミニズム運動をリードしています。
アリッサ・ミラノ
ハーヴェイ・ワインスタインによるセクシュアルハラスメントが明るみになった後、SNS上で団結を呼びかけたアリッサ・ミラノ。被害の内容を詳細に公開することはできなくても、ただ「Me Too」とコメントすればいいと発言し、その動きがSNS上で広がったことで世界的な#MeToo運動へと繋がっていきました。
ロビン・ライト
大ヒットシリーズ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』で、当初主演を務めていたケヴィン・スペイシーと同額の出演料を求めたことが話題に。その後、ケヴィン・スペイシーの降板によってロビン・ライト演じるクレアが主役となったことも象徴的な出来事として捉えられています。
エマ・ワトソン
2014年、女性の地位向上を目指す国連の組織で親善大使に任命されたエマ・ワトソン。ジェンダー平等を実現するためのキャンペーン「HeForShe」に関してスピーチをおこない、フェミニストとしての立場を明確にしました。
「反ミソジニー」からすべての性差別の解消へ
「ミソジニー」という思想は、女性に対する差別にとどまらず、「インセル」や「マノスフィア」といった新たな性差別的思想の要因にもなりえます。特定の性別への偏見は、極端な対立を生み、性別間の分断だけでなく、人権侵害にもつながる危険性をはらんでいます。また、多様性が強く求められる時代においては、「男性」「女性」だけを対象にした考え方を見直す必要性も指摘されています。
女性総理大臣が誕生し、重要な閣僚ポストに女性が任命されるなど、新しい未来に希望が高まる今。改めてミソジニー的構造を問い直し、女性の権利向上を図るとともに、男性性に対する偏見・差別を含めた、あらゆる面での平等を意識していくことが求められています。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- Getty Images

















