芝居と所作が合致する瞬間に自分の成長と喜びを感じて
その動きは、実に軽やか。ジャケットを無造作に肩に掛けたり、ラフに椅子に腰掛けたり…。カメラ前の柄本 佑さんが見せる、力が抜け、飄々とした姿は、映画『木こ挽びき町ちょうのあだ討ち』で演じる田舎侍・加瀬総一郎そのものを彷彿とさせた。
直木賞・山本周五郎賞をW受賞した話題作『木挽町のあだ討ち』が映像化。江戸・木挽町の芝居小屋の前で起きた仇討ちの顛末を知るべく、加瀬はさまざまな目撃者の証言を聞きにわたり、やがて真相を解明する…というミステリーだ。
「非常に人情深いストーリーですし、時代劇の形を借りてはいるけれど、現代の感覚でも入り込みやすい作品です。気を張らずに観てもらうのが、ベストだと思いますね」と、佑さん。時代劇といえば、一昨年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の藤原道長役も印象深いが、現代劇と比べて、演じる難しさはあるのだろうか。
「時代劇は、難しいところと楽しいところが同時にある感じです。やっぱり時代劇は、決まった所作がすごく多いので。歩く動作ひとつでも『侍は手を自然に握って』と、所作指導の先生から教わるけれど、日常生活で、手を自然に握って歩いたことなんてない。昔はそれにとらわれて、芝居どころじゃなかった記憶もありますが、でもそういう難しいことに挑戦すること自体が、楽しい。演じていると、自分がやりたいお芝居と所作がフィットする瞬間があるんです。そういう実感が生まれるとうれしいし、自分の成長も感じる。難しさと楽しさは、非常に密接な関係ですね」
物語の舞台である木挽町は、今の東銀座。奇しくも、父である柄本 明さんの出身地だそうだが、佑さんとって、銀座とはどんな街だろうか。
「好きですね、建物や街の感じが。銀座って敷居が高い気がするけど、その実どんな人が来てもいいよっていう懐の深さというか、ただラグジュアリーなだけじゃない、親しみやすさもあるんじゃないかなって。銀座には、映画を観に行くことが多いです。以前は4丁目と東銀座の間の地下に『銀座シネパトス』っていう大好きな映画館があって。地下鉄が通るたびに音が聞こえるようなところだったけど、そこに通ったりしていました。映画館の並びは飲み屋で、地上はいわゆる“銀座”なんだけど、ひとつ潜ると古びた感じが残っていたんです」
難しいことに挑戦する。そのこと自体が楽しいんです
撮影は京都の撮影所にて敢行。佑さん曰く「東京の次に、なじみのある街」だそう。
「映画の歴史に触れている感覚があって。僕は映画が好きだから、往年の大御所監督と実際に仕事をされてきたスタッフや職人の方が現役で働いているのは、とてつもなく“胸アツ”な場所なんです。街としては都会、だけど大きな鴨川があって、ちょっと行けば山もあって…その空気感が、とてもいいです」
仕事だけでなく、街歩きをすることもある。お気に入りの場所は、蓮華寺。
「規模は大きくないですが、雰囲気がすばらしい。建物に入るとすぐお庭が現れて、いつまででも、その庭を見ていられるんです。なんだか、自然とそこにあるという感じがして、押しつけがましくないんですよ。僕は、仕事のオンオフがあまり器用にできるほうじゃないのですが、でも蓮華寺にはそういった、気持ちを一度切り替えられる豊かさがありますね。とても素敵な場所だから、皆さんもぜひ訪れてみてほしいです」

原作では、加瀬総一郎という人物像はほぼ描かれていないが、映画では“刑事コロンボ”を思わせるキャラクターとして登場する。ただ、佑さんは刑事コロンボではなく、『必殺仕事人』の藤田まことさんをイメージしたとか。「だけど撮影では監督から『今のコロンボっぽかった、よかったね』なんて言われました。脚本の段階から、監督がそうなるように仕組んでいたんだと思うんですよね」
ダメな自分を楽しめると俳優の仕事はおもしろくなる

今年、40歳を迎える佑さん。順調にキャリアを積んでいるように思えるが、この先を、どう見据えているのだろう。
「常にあるのは、小学生のときからの“映画監督”という夢。これまでも短編の自主映画は何本か撮っているけれど、長編を、という思いがあって。次のことは、それを終えてからですね。俳優としては、今どの地点にいるかということは、考えたって仕方がないので、考えてないです。うちの親父を見ても、まだ苦労していますし。俳優はみんな、歳を重ねても心は若いままで、そこに対して悩んだり、いじけたりするんじゃないかな。でも、それでいいという気がします。僕自身もまだまだだと思いますし、やっぱり感覚は、芝居を始めた14歳のときのまま。今は目の前のことに、邁進するしかないんじゃないでしょうか」
ダメな自分も楽しめるようになると、俳優という仕事も、少しずつ面白くなっていくのでは、と佑さん。
「どんな作品にしても、“ここで当てなきゃ次がない”時代だったりするから、なかなか失敗できないのも、しんどいなって思います。映画って、かつてはものすごい数のシリーズをつくっていたから、もちろん大傑作もあるけど、ちゃんとつまらないものもある。でも、それって大事なことで。次があると思えるからチャレンジもできる。何かに挑戦しようとして失敗することは、すごく豊かな環境だなと感じます。だから本当は、何をするにしても“良し悪し”ということはなくて。評価を気にするところから逸脱して、そのときの自分のアンテナの動く方向に行けたら、うれしいですね」
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