新連載|キャスター・大江麻理子の「行ってみて、聞いてみて」
新連載となる、キャスター・大江麻理子の「行ってみて、聞いてみて」では、大江さんが気になる現場を訪れ、話を聞き、深掘りし、“現場”でしか分からない温度を伝えします。
今回は【〈第一回〉建築家・坂 茂さんと見つめる、能登の“今”(前編)】より、第二部をお届けします。
能登と万博どちらの古材も無駄にしない/文・大江麻理子
坂さんたちは瓦だけでなく、古い日本家屋で使われていた木材も集めていた。能登はその昔、日本海回りの商船「北前船」で栄えた商業の町で、財をなした商人たちは立派な木造住宅を建てた。大木を梁や柱にふんだんに使い、その表面には漆を塗った。「ここにあるのは宝の山。こんな大きな梁は今ではもう手に入らない。表面を削ればいくらでも綺麗になりますよ」
「これだけ立派な木材を捨てるなんてもったいない」坂さん
「復興住宅に役立てるんですね」大江
保存するためには細心の注意を払い、丁寧に解体しなければならない。瓦と同じように時間と労力をかけ気の遠くなるような作業を繰り返し、坂さんたちは貴重な古材を集めて回った。「捨てて瓦礫にするほうが簡単で安上がり。でも僕は、ものを無駄にするのがいちばん嫌いなんです」
では、集めた瓦や古材を坂さんはどう活用していくのか。「戸建ての復興住宅に再利用しようと考えています。瓦屋根にし、古材を大黒柱として家の真ん中に据える。ちゃんと能登の歴史を引き継いだ復興住宅を造りたいんです」瓦や古材は、能登で時間をかけ培われてきた文化と歴史の象徴でもある。それが地震で失われ、まったく新しいものに置き換わったら、能登の過去と未来が断絶してしまわないか。そうならないためには、過去を記憶するものを使って、物語の続きを紡いでいけばよいのだ。
「万博の大屋根リングも珠洲市で再利用するのですね」大江
「珠洲にとって誇りになるようなことがしたい」坂さん
1月26日、坂さんの姿が珠洲市役所にあった。大阪・関西万博の大屋根リングに使われた木材を珠洲市の復興公営住宅に再利用するための連携協定の調印式だ。珠洲市は坂さんの助言を受け、大屋根リングの木材譲渡先が公募された際に手を挙げ、およそ1200本を無償で譲り受けることになったのだ。設計を担う事業者は今後公募で決まる。もちろん坂さんのチームも応募する予定だ。記者会見で坂さんは「ただ復興住宅を造るだけでなく、住む方、そして珠洲市にとって誇りになるような、新しい歴史になることを一緒にやっていきたい」と語った。
会見の後、珠洲市の泉谷満寿裕市長にも話を聞いた。泉谷市長は地震で崩れた見附島を見て泣いたという。「いまだに辛くて見附島を見られない人もいます。何もかもが変わってしまったところから本当にみんなで力を合わせて頑張った。震災から2年が過ぎ、珠洲に今必要なのは希望。そのために万博のレガシーも使って最先端の復興を成し遂げたいんです」
能登の過去と未来が断絶しないよう、瓦や古材が記憶を繋ぎ、新たな物語を紡ぎ始める
建築家として、坂さんは建物の存在意義を真剣に考えている。人々に愛され、ずっとそこにあってほしいと思われなければ、後世まで残る建物にはなれない。歴史を継承しつつ、新しい歴史をつくっていく建築。それこそが今能登で求められ、模索されている。
【取材後記】
「僕、子どもの頃テレビで『サンダーバード』を見て、将来これになりたいと思ったんです」。事故や災害で困っている人たちを世界のどこでもスーパーメカで助けに行く、国際救助隊の人形劇。ああ、坂さんの被災者支援の原点はそれだったのかと、腑に落ちました。
坂さんにとってのスーパーメカは、自ら開発した建築の素材や構造、そして湧き続けるアイディアです。災害が起きたら、坂さんのチームはすぐに駆けつけ快適な居場所をつくり上げていきます。もちろん坂さんたちの出番が少ないに越したことはありません。しかし、災害はどこかで必ず起きるもの。そんなときにリアルサンダーバードがいてくださることに感謝の気持ちでいっぱいになりました。
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- PHOTO :
- 川上輝明
- EDIT :
- 田中美保、濱谷梢子(Precious)
- 文 :
- 大江麻理子

















