【目次】
【第17回のあらすじ】
大河ドラマ『豊臣兄弟!』も、いよいよ第17回を迎えました。開始早々視聴者を驚かせたのは、武田信玄(高嶋政伸さん)の登場シーン。画面下にスタッフクレジットが次々と表示され、しかもオープニングのタイトルバックもなしという、異例の演出でした。「これは…何かすごいことが起こるに違いない…!」と、いやがうえにも期待が高まります!
元亀3(1572)年10月、足利義昭(尾上右近さん)の要請に応じた武田信玄が、2万5千の兵を率いて遠江へ侵攻。12月には「三方ヶ原の戦い」で徳川家康(松下洸平さん)を打ち破ります。これに勢いづいた義昭も信長(小栗旬さん)討伐を掲げて挙兵しますが、快進撃を続けていた武田軍は、なぜか突然、甲斐(山梨県)へ引き返してしまいます。
その理由は…信玄の急死です。しかも、お餅を喉に詰まらせて、という、英雄・信玄の死を描くには、かなり呆気なくも斬新な設定で。筆者などは「え、信玄…餅…死…いいの?」などと、山梨県民の気持ちを慮るあまり、激しく動揺してしまいました。
さて、信玄の死によって後ろ盾を失った義昭と、運よく命拾いをした信長と家康。これにより、義昭による信長包囲網は崩壊。天正元(1573)年7月、義昭は信長により京を追放され、室町幕府は終焉を迎えました。
右近さん、美丈夫で品があり、魅力的な義昭でした。そして、光秀(要潤さん)の慟哭が悲しい…。
これまで光秀が味わってきた難苦の数々をまとめると…
・公方さま(義昭)に忠誠を誓う
・公方さまの命により、織田家に間者(スパイ)として侵入
・信長に疑われ、その疑念を払拭するために、不本意ながらも延暦寺で女子どもを焼き討ちにする
・公方さま、焼き討ちに激怒。「お前を織田に行かせたのは失敗だった。戻ってこい」と言われる
・公方さま、信長に敗れる。信長の命で、公方さまとの思い出深い二城御所を破壊する
・京を追放される公方さまには会えず。信長曰く「十兵衛(光秀)はもう、わが物にございます故」
光秀は信長の懐に入り込んだことで、織田の家臣としての役割もこなさねばならず、しかも義昭と信長からそれぞれ汚れ役を押しつけられて、次第に居場所を失っていきます。義昭への忠義と、リアル上司である信長への畏怖。信長の圧倒的なカリスマ性に、死と隣り合わせの恐怖を感じ続けた彼の精神的ダメージはいかほどであったか…これぞまさしく、「本能寺の変」へのカウントダウンと言えましょう!
こういった予測、期待の高まりこそが、視聴者全員がごくおおまかな粗筋は「史実として知っている」大河ドラマならではの、楽しみ方なのですね! 戦国大河初心者の筆者にも理解できました!
信玄の死によって勢いを盛り返した信長は、天正元(1573)年8月には、再び矛先を北近江の浅井・朝倉へ向けます。
朝倉義景(鶴見辰吾さん)は小谷城を救援すべく着陣しますが、織田軍の猛攻を受け情勢が不利になると、すぐさま一乗谷へ撤退してしまいます。命からがら一乗谷に戻った義景は、信長に奪われるくらいならと城下に火を放とうとしたところを、朝倉景鏡に斬られます。これにより、100年以上続いた越前朝倉氏は滅亡しました。
こうして、孤立無援となった小谷城。浅井久政(榎木孝明さん)は自害。信長に市(宮崎あおいさん)の助命嘆願をした小一郎(仲野太賀さん)と藤吉郎(池松壮亮さん)が、長政(中島歩さん)との和睦交渉の使者として、本丸へ入ります。
小一郎は「侍の誇りなど捨て、無様でも生きのびてくれ!」と長政を説得しますが、長政は「信長を倒し天下を掴もうとした己の野心」を告白し、武士としての誇りを貫く道を選びます。市に茶々、初、江の3人の娘を託して城から送り出し、ついに朝倉家に続いて浅井家も滅亡の道を進むのでした。
戦国時代、敗軍の将に残された道は、切腹(自刃/じじん)、討死、斬首、流刑、臣従(配下になり従うこと)など。自ら死を選ぶか、あるいは(当時の価値観としての)生き恥をさらすのか。この2択は、敗者に待ち受ける残酷な運命だったと言えるでしょう。
浅井久政や長政が選択したように、敵に討たれる前に自ら切腹して果てることが、武士の美学とされていた時代です。生きて虜囚(りょしゅう/捕虜)の辱めを受けるくらいなら、自死した方がプライドは守られると考えられていたのです。
それにしても、市が長政の介錯をすることになるとは驚きました。しかも、豊臣兄弟ふたりが語る物語に、背中を押されるようにして。こういうかたちの愛もある…という令和流の解釈なのでしょうか。そういえば、浅井家に嫁入りする以前、市が信長の前で刀を振っていたシーンがありましたね…あれも伏線だったということですね。
そして気がかりなのが、長政の長男・万福丸の安否です。いやしくも浅井家の嫡子。「探しても見つからない」など、藤吉郎の言葉をそのまま信じてよいものか。実は史実としては、万福丸はかな〜り残忍な最期を迎えるのですが、まさかのフェイドアウト? 「何よりも命を大事に!」という小一郎の視点を貫く令和の大河がどう描くのか。注目したいところです。
そしてそして、もうひとつ。小一郎の妻・慶(ちか/吉岡里帆さん)どうなった? 結婚してから3年くらいは経っているはず。あんな宙ぶらりんな状態で「木下家の嫁」として過ごしているのでしょうか…? こちらも気になります!
【「甲冑」は命を賭した究極の戦国ファッション】
今回の放送では、夏生大湖さん演じる本多忠勝が初登場したことも、SNSで話題となりました。忠勝は徳川四天王のひとりで、草創期の徳川家を武勇で支えた家中きっての武闘家。生涯で57回参加したとされる合戦では、ただの一度も負傷しなかったというエピソードも有名です。
ドラマでは「三方ヶ原の戦い」のシーンで、家康の臣下として戦う様子が描かれましたが、ひときわゴージャスな兜と全身黒ずくめのビジュアルが、異彩を放っていましたね。お気づきでしたか?
■本多忠勝のアイコン「鹿角脇立黒漆塗兜」
「鹿角脇立兜(かづのわきだてくろうるしぬりかぶと)」は、 頂部が尖った突盔形(とっぱいなり)と呼ばれる鉢(兜の頭を覆う部分)に、鹿の角をモチーフにした「脇立」と獅噛(しかみ)の「前立」を特徴とした兜です。
「脇立」とは、兜の立物(飾り物)のひとつで、兜の鉢の左右に立てて装飾としたもの。兜のシルエットを威風堂々と見せます。「前立」は兜の前部、額の上あたりにつける飾りもので、武将の個性や信仰の象徴です。獅噛は、獅子の頭部を模様化したモチーフで、周囲を威嚇するような形相をしていますよ。
命を賭けた戦場で、黒々とうねりながら頭上に伸びる2本の角と、金に輝く獅子の眼光は、見る人によっては神々しくも禍々しくも映ったのではないでしょうか。
■戦国時代の「甲冑」はどうして派手派手?
「甲冑(かっちゅう)」とは武士が戦闘の際に着用し、身体を保護する武具の総称です。一般的に、頭にかぶる「かぶと」(兜・冑)と身体にまとう「よろい」(甲・鎧)、付属具の小具足 (こぐそく/腕、すね、首を守る) の3つで構成されています。ドラマの舞台となっている、信長台頭の時代に、集団戦や鉄砲に対応するため、より軽量で動きやすく、全身をフルカバーする「当世具足」へと進化しました。
一方、「鹿角脇立兜」のようにデコラティブな兜、いわゆる「変わり兜」が登場したのは南北朝時代で、兜の正面に鍬形や半月、日輪、月輪などの「前立」をつけることから始まりました。
戦国時代になって、ポルトガルやスペインの品々が入ってくるようになると、自分の存在感を示すために奇抜なデザインの「南蛮胴(なんばんどう)」や「南蛮兜」を身につけることが流行します。戦国武将にとって、戦場は究極の「晴れ舞台」でした。大きな手柄を立てると、突然の大出世も夢ではない時代。戦場で「いかに目立つか」というリアルな視点は、非常に重要な戦略のひとつだったのですね。
兜が派手に派手にと進化(?)したもうひとつの理由は、敵に対しては威嚇、味方に対しては志気を高める効果が求められたため。確かに、忠勝の「鹿角脇立黒漆塗兜」も、その異形ぶりと忠勝自身の闘争力の高さの相乗効果で、「あの兜が最前線にでてきたからには、今日の戦は勝てるに違いない!」と味方軍をおおいに鼓舞する効果があったことでしょう。
戦国時代の甲冑については、今後も何回かに分けて解説していきます。これから『豊臣兄弟!』を見る際には、武将たちが身につけた甲冑のディティールにも注目してみてくださいね。すでに藤吉郎の兜の前立には、あの有名な〇〇がついていますよ!
【次回 『豊臣兄弟!』第18回「羽柴兄弟!」あらすじ】
秀吉(池松壮亮さん)は織田家家老に昇格し、北近江を拝領。領地に長浜城を築いて城持ち大名となり、小一郎(仲野太賀さん)と共に羽柴姓を名乗る。
小一郎は城下の統治を任されるが、人手が足らずてんてこまい。半兵衛(菅田将暉)から、子飼いの家臣を増やすべきだと助言され、有能な家臣を求めて選抜試験を行うことに。多くの志願者が集まる中、石田三成(松本怜生さん)、藤堂高虎(佳久創さん)ら個性的な若者たちが最終試験に残る。
※高嶋政伸さんの【高】は「はしごだか」が正式表記です。
※宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。
※『豊臣兄弟!』第17回「小谷城落城」のNHK ONE配信期間は2026年5月10日(日)午後8:44までです。
- TEXT :
- Precious編集部
- WRITING :
- 河西真紀
- 参考資料: 『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 前編』(NHK出版) /『NHK2026年大河ドラマ完全読本 豊臣兄弟!』(産経新聞出版) /NHK公式X 大河ドラマ『豊臣兄弟!』 /『変わり兜 戦国のCOOL DESIGHN』(新潮社) /『戦国武将 群雄ビジュアル百科』(ポプラ社) /『家紋・旗・馬印 FILE』(Gakken) :

















