レストラン界のオリンピックともいわれるベストレストラン50アワード、その「アジアのベストレストラン50」受賞式が、3月25日に香港で開催されました。

会場となったケリーホテル香港(九龍)は、シャングリ・ラ グループの5つ星ラグジュアリーホテル。ルーフトップバーからのハーバービューの素晴らしさでも有名です。

実は香港では、3月は「アート・マーチ(芸術の3月)」と題され、アジア最大級の現代アートフェア「アート・バーゼル香港」などの様々な文化芸術イベントが開催されています。世界中から集まるラグジュアリー層に向けて、香港の食文化をアピールするという目的も兼ねての今回のアワード開催だったとのこと。

香港は旅の目的地としての魅力を街全体として高めていこうと、「アジアのベストレストラン50」のほかにも昨年秋には「世界のベストバー50」の開催地となるなど、世界のラグジュアリー層トラベラーへのアピールに力を入れています。ベスト50アワードに関して言うと、2025年の「世界のベストホテル50」の1位は「ローズウッド香港」が獲得し、「世界のベストバー50」の1位は「バー・レオーネLeone」(香港島)が獲得しています。それに加えて今回の「アジアのベストレストラン50」を「ザ・チェアマン」が獲得したことで、更にラグジュアリー層トラベラーの注目が集まってきそうです。

今回、香港で今、最も注目のアート・バーであるバー「ペリドットPeridot」での特別ディナーが開かれました。昨年末にオープンした「ペリドット」は、「アンビルドの女王」として有名な故ザハ・ハディッド設計の独特の流線系デザインのスタイリッシュなバーです。レストラン、ホテル、バーと魅力的なスポットが次々と誕生しているのです。

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香港で話題の最新アート・バー「ペリドット」。香港では魅力的なレストラン、バーが次々と誕生。

1位は「ザ・チェアマン」、2位は「ウィング」|香港のレストランがワンツー・フィニッシュ

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2026年「アジアのベストレストラン50」1位に返り咲いた、香港「ザ・チェアマン」のモダン広東料理。

さて、今年の「アジアのベストレストラン50」1位に輝いたのは、香港の「ザ・チェアマン(The Chairman)」、2021年以来の首位を奪還しました。地元の新鮮な食材を使った、伝統的な広東料理の技法で生み出される洗練された料理で知られています。2位は同じく香港の「ウィング(Wing)」で、広東料理にフレンチの技法を融合させたイノベーティブ中華。3位のタイ・バンコクの「ガガン(Gaggan)」は、昨年度を含めて5度1位に選ばれている名店で、ファインダイニングに独自のエンターテイメント性を加えた「食のオペラ」を体験させるレストランとして知られています。

国・地域別では、最多はタイでバンコクのレストランが9店ランクイン。次が日本で、東京で7店、大阪で1店の合計8店がランクインしました。次いで、香港、シンガポール、中国本土がそれぞれ6軒、韓国が5軒となりました。

日本の最高位は大阪の「ラ・シーム」の13位でした(最高位は2022年の6位)。「ラ・シーム」は、奄美大島出身の高田祐介シェフが、出身地・奄美大島の食材(柑橘類など)や和の素材(葛、湯葉、味噌など)を取り入れ、「香り」を体感させるような独自の感性で表現するモダンフレンチ。2020年にはアジア全域のシェフたちの投票で選ばれる「シェフズ・チョイス賞(Chef's Choice Award)」も受賞しており、シェフ仲間からも高い尊敬を集めています。

実は大阪の「ラ・シーム」が「日本のベストレストランとして13位入賞」と読み上げられた時、受賞式会場には驚きのどよめきが響きました。というのも、今まで何軒もベスト10内に入り続け、一昨年2024年には「セザン(Sézanne)」が1位を獲得しベスト10内に4軒も入っていた日本のレストランが、2013年のアワード開始以来初めて「ベスト10に入らなかった!」という驚きです。

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日本最上位13位「ラ・シーム」(大阪)の高田祐介シェフ(左)と、28位「MAZ(マス)」(東京)のサンティアゴ・フェルナンデス・シェフ(右)。

50位内の日本のレストランは、以下になりました。

16位「セザン」は、日本の食材や調味料を駆使した緻密で軽やかで洗練されたフレンチ。21位「茶禅華(さぜんか)」は「和魂漢才」をコンセプトに、中華と和食を融合させています。28位「Maz(マス)」は、「世界のベストレストラン50」で1位になったペルー「セントラル(Central)」のヴィルヒリオ・マルティネス・シェフが監修する店で、ペルーの多様な食材と日本の旬の素材を融合させたイノベーティブ料理。31位「フロリレージュ(Florilège)」、33位「明寂」、34位「クローニー(Crony)」と続き、37位には日本の誇るレジェンドである成澤由浩シェフの「NARISAWA」が14年連続でランクイン(2013年は1位)しています。

ベスト10内から初めて東京のレストランが全て消えてしまった理由とは?

受賞式の後、会場で、ベストレストラン50の日本チェアマンに就任された浜田岳文さんにお話を伺いました。浜田さんは世界中の食を探求し続ける「世界一のフーディ(美食家)」としても知られています。

「私は、今年の上位に日本のレストランが入らなかったことは、全然、気にしていません。世界のフーディの人たちは、日本では、今は東京のレストランよりも地方の店を探しているのです。ベスト50位内には入りませんでしたが、50位から100位の中には、93位に山形県の『出羽屋』が入り、更に金沢の2店、82位に『片折』、92位に『レスピラシオン』がニューエントリーしました。このような地方の店にも、わざわざ足を運んできてくれているのです。これは日本でしか起きていないことですから」

浜田さんは「ディスティネーション・ダイニング(その地を訪れること自体が目的となるレストラン)」で、その土地でしか味わえない料理を楽しむために旅をすることを提唱されています。

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右から2人目が日本チェアマンの浜田岳文さん、右端が中村孝則さん。日本酒「獺祭」の鏡開きでパーティがスタート。

確かに、日本以外の国・地域は、首都などの大都市に集中してます。

100位内のランキングで見ると、タイの14軒は全てバンコクですし、都市国家の香港とシンガポールは当然ですが、韓国の14軒もソウル以外は1軒のみです。しかし日本では、51位以降では、北陸や東北など、東京以外の地方のガストロノミー「ローカル・ガストロノミー」が7軒も選出されているのです(東京を含めると合計17軒でアジア最多)。

以下に列挙しますと。60位:Goh(福岡)、76位:チェンチ (Cenci)(京都)、81位:ヴィラ・アイーダ (Villa Aida)(和歌山)、82位:片折 (Kataori)(金沢) 、92位:レスピラシオン(Respiración)(金沢)、93位:出羽屋 (Dewaya)(山形県西川町)、97位:レヴォ (L'évo)(富山県南砺市)となります。

ベストレストラン50アワードの前・日本チェアマンで美食評論家・コラムニストの中村孝則さんは、こう解説します。

「私の個人的な見解ですが、このアワードに関しては、入賞数を国別ではなく都市別あるいは地方別で論じるべきだと思っています」

実は、日本は東京以外の都市・地方数では最も多くて7か所もあります。日本の豊かなローカル・ガストロノミーの多様性と層の厚さが、アジア全体で高く評価されているのです。

「そもそもが、旅先で行くべきレストランを発掘することが、このベスト50アワード本来の目的で、そうしたローカルを含めたレストランを応援することが理念でもあるからです。今回、30位にカサウリ(インド)の『Naar(ナー)』、39位にペナン(マレーシア)の『オー・ジャルダン (Au Jardin)』、45位にウブド(インドネシア)の『ロカヴォール NXT』という3都市・地域が初めてンクインしたのも、その文脈にそったものでしょう」

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「50BEST TALKS」討論会に登壇した30位「Naar(ナー)」(インド・カサウリ)のプラティーク・サドゥ・シェフ。ヒマラヤ山麓の避暑地にあるディスティネーション・ダイニング。

出羽三山の修験者のための「山の恵み」を「出羽屋」に味わいに来るラグジュアリー層

93位に初めてランクインした山形県の「出羽屋」は、出羽三山(月山・羽黒山・湯殿山)を訪れる修験者のための宿として始まり、創業100年近い歴史を持つ老舗の料理旅館です。修行を支えるための「山の恵み」として、春夏は山菜や野草、秋はキノコ、冬は熊や鹿のジビエなどの「山の旬」を体験できます。月山の麓にあり、決してアクセスが良い場所ではありませんが、世界のフーディから、わざわざ足を運ぶべき正に「ディスティネーション・ダイニング」として注目を集めているのです。

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93位にニューエントリーした「出羽屋」(山形県西川町)の地元の山菜を使った料理。8席限定のシェフズテーブルが人気。英語でのSNS発信もしています。

実はこの日本のローカルへのラグジュアリー層トラベラーの注目ということでは、バーでも同様な動きが見られます。昨年の「アジアのベストバー50」では、熊本の「夜香木(Yakoboku)」が25位に、奈良の「ランプバー(LAMP BAR)」が46位に入るなど、日本のローカルにあるバーが高い評価を受けています。前述したバー「ペリドット」のスペシャルイベントのテーマも、実は日本のローカルである「鹿児島」でした。鹿児島の焼酎と鹿児島産の柚子や紅芋を使ったカクテルを味わうことが、香港の最先端アート・バーの呼びものになるのです。

「日本のローカル・ガストロノミーはこれから益々注目を浴びていくと思います。そのための新しい動きが各地にありますが、例えば新潟県では、地元の食材を使う地元のシェフを育てるために『新潟ガストロノミーアワード』をスタートしています」(中村さん)

それには今年34位にランクインした「クローニー」の春田理宏シェフなど東京のスターシェフも協力して、海外のラグジュアリー層向け対策なども行ない、世界基準の次の世代を育てていこうとしています。

世界のラグジュアリー層トラベラーの美食の旅は、「予約の取れないレストラン」へ何軒も通うことではなく、「その土地ならではの季節の料理を味わう」ことへと変わって来ているのかもしれません。世界のラグジュアリー層トラベラーが注目し始めている日本のローカル・ガストロノミーの旅へ、あなたも出てみてはいかがでしょうか?

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EDIT&WRITING :
福田 誠
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