【目次】

【第21回のあらすじ】

「いまよりこの城は羽柴様に差し上げまする」——天正5(1577)年10月、織田信長(小栗旬さん)に播磨(兵庫県南部)攻略を命じられ、羽柴小一郎(仲野太賀さん)、竹中半兵衛(菅田将暉さん)とともに姫路城へと入った羽柴藤吉郎(池松壮亮さん)に、城代(城主の代行)を務める黒田官兵衛(当時は小寺官兵衛孝高/倉悠貴さん)は、不敵な笑みを浮かべこう言い放ちました。

目を見開いて驚く兄弟に、官兵衛はさらに、城主・小寺政基は織田方に従うよう説き伏せてあり、赤松と別所の調略も済ませたと続けるのでした。「これで播磨は織田様のものにございます」。

さてここで、官兵衛のドヤ顔のワケを理解するために、彼らがおかれた状況をざっくりと解説しましょう。

もともと播磨には、赤松家や別所家、小寺家のような、大小さまざまな国衆(地域に根を張る大名や豪族)が存在していました。とはいえ信長と、中国地方を治める毛利家との関係は良好で、播磨国内に戦につながるような対立はありませんでした。彼らのとりまとめをし、信長との連絡係となっていたのが、摂津(大阪府北部と兵庫県の南東部)の大名・荒木村重(トータス松本さん)です。この村重、史実としては「天下一の卑怯者」と称されてきた人物(その理由は後に判明します…)。面倒にさえ巻き込まれずにおもしろおかしく生きていければ…という人生イージーモード。トータス松本さん、溢れ出るインチキ臭さが、いい感じです(褒めてます)!

この情勢を変えるきっかけとなったのは、足利義昭(尾上右近さん)の存在でした。信長に都を追われた義昭は毛利家に接近。毛利領内で政治的な活動を再開したことにより、信長と毛利家の和平が崩れ始めます。ドラマで小一郎が播磨へと赴く1年程前のことでした。

こうして、播磨国内の国衆は織田方と毛利方に分かれ対立が表面化。藤吉郎と小一郎が派遣されたときには、播磨はかなり微妙なバランスの上に立つ、重要な地となっていたのです。しかも毛利方の勢力優勢という情勢のなか、官兵衛は「天下人となるのは織田信長に違いない」と判断し、村重にさえ知らせずに、播磨を「織田勢」としてまとめ上げたのですね。これはドヤ顔になりたくなるのも頷けます。

播磨があっさり手に入りそうなことに秀吉は喜びますが、竹中半兵衛だけは仏頂面。「すべての国衆に(信長様への)人質を」と官兵衛に要求します! そしてこの場面で官兵衛が「私の嫡男・松寿丸を差し出します」と答えたことを、皆さんよ〜く覚えておいてくださいね! 

竹中半兵衛と黒田官兵衛は、のちに「秀吉の両(二)兵衛」と称えられ、互いを認め合う「盟友」だったと伝わります。今回の大河では、「オレって頭切れるでしょ⁉」と言いたげな、イキリ感丸出しの官兵衛と、それにイラッときている半兵衛の対比がおもしろかったですね。実際のふたりの年の差は2歳程なのですが、病弱で戦に出ることが叶わない半兵衛にとって、エネルギーに満ちあふれ、野心を隠そうともしない官兵衛は、羨ましくも眩しい存在であったことでしょう。

とはいえ、官兵衛の知略をあえて試してみるなど、半兵衛には意図がありそうです。「何か急いているのか?」と、藤吉郎も何かを察知した様子。半兵衛は、生意気でやや浅慮ながらも才能あふれる官兵衛を、自分の後継者として育てようと考えているのかもしれません…ほんとは嫌だけど…藤吉郎のために。次回第22回の予告では、倒れ込む半兵衛が映っていましたね…。

それにしても、今回は菅田さんの変顔に笑わせてもらいました。 イケメンの変顔(顔芸?)って、どうしてこんなに味わい深いのでしょう。いなくなったら寂しいですよね、半兵衛…。

播磨攻略は順調にみえましたが、半兵衛は、このまま毛利が黙っているとは考えられず、早急に播磨・備前・美作の国境に位置する上月城と、但馬(兵庫県北部)に位置する竹田城を手に入れるべきだと進言します。そこで秀吉は上月城を目指して西播磨へ、小一郎は但馬の竹田城へと向かいます。小一郎、初の総大将としての戦です! 相対するのは竹田城を治める太田垣輝延(中野英雄さん)。何かにつけて家臣たちを威嚇する、なかなかにブラック気質な城主です。

実は今回、オープニングのタイトルバックで、小一郎役の仲野太賀さんに重ねて、リアル父親である中野英雄さんのクレジットが出ていました。この演出に、SNSは「粋な演出!」「リアル親子競演!」と大盛り上がり。実は中野さんは何十年も大河出演を望んでいましたが叶わず、今回息子が主演の大河にて初出演とのこと。「太賀」という名前も、「いつか大河で主演をはれるように」という願いが込められていたそうです。さぞや感慨深いご出演だったことでしょう!

さて。「血を一滴も流させずに戦を終わらせたい」と、小一郎がとった策は、城の水を干上がらせることでした。城を観察した限り、どうやら井戸は涸れている模様。それならば、外部から運ばれる水の出入りを封じ、完全に水が尽きたときに降伏を勧めれば「勝機はある」と考えたのです。

農民だった小一郎には、人間にとって水がいかに大切か、骨身にしみてわかっていたはず。あくまでも「戦(人斬り)は避けたい」優しさ故の戦術であるのは理解しますが、「もし城主が降伏しなかったら? これってかえって残酷だよね…」と思ってしまった筆者は心が汚れているのでしょうか…。

いよいよ水が尽き、家臣たちが憔悴しきるなか、小一郎は城を取り巻く監視の目を緩めたように見せかけます。水の調達のために城外に出た兵士たちに、投降するよう説得するためです。この工作が功を奏し、見事、城への潜入に成功! 

輝延は家臣に「敵を斬れ! わしを助けよ!」と命じますが、主君の命に従うものはいません。家臣の命を軽んじる輝延を、小一郎は思わず殴り倒します。輝延の口端をつたうひと筋の血…! 「一滴の血も流さずに」は叶いませんでしたが、とにもかくにも竹田城を「ほぼ無血開城」し、初めて城代を任されることになりました。

気がかりなのはドラマ最後のシーンです。磔にされ晒された、無数の屍の前で佇む秀吉。「無血開城」直後のシーンなだけに、その残虐性がいっそう際立ちます。比叡山では女子供の殺戮を拒んだ藤吉郎がここまで変貌してしまうとは。一体、何かがあったのでしょうか。それとも、第一回で躊躇いなく人を切り捨て、小一郎に「わしが恐ろしいのは…兄者じゃ」と言わしめた、あの藤吉郎が、いよいよ本性を現したのでしょうか…?


【「天空の城」攻略が「天下統一」を引き寄せた!】

■「天空の城」は堅固な要塞だった

半兵衛の進言により小一郎が攻略した但馬の「竹田城(兵庫県朝来市)」は、小一郎が初めてもった領国の本拠地となりました。近年では「天空の城」「東洋のマチュピチュ」などと称され、世界的な人気を誇る観光名所として知られます。
古城山(虎臥山)の山頂、標高約353.7メートルに築かれたこの城は、難攻不落の要塞でした。秋から冬にかけてのよく晴れた朝、濃い川霧が発生することで、まるで雲海に浮いているように見える姿は、まさに奇跡の絶景です。

■真の狙いは「生野銀山」

信長がこの地を狙い、羽柴兄弟を派遣した最大の目的は、竹田城のすぐ近く、太田垣輝延の支配下にある日本屈指の鉱山「生野(いくの)銀山」を手に入れることでした。生野銀山は古くから知られた鉱山でしたが、政情が不安定だったこの時期は、恒常的な採掘はできていなかったようです。銀山の管理を任された小一郎は、持ち前の緻密な能力を発揮し、織田家、そして羽柴家に莫大な富をもたらします。そのスケールは「資金に不自由しなくなった」どころのレベルではなく、軍事・政治・そして日本全体の仕組みを変えるほどのインパクトをもたらしました。

■兵隊を「お金」で雇う、常備軍(プロ兵士)の誕生


それまでの戦国大名たちの兵士は、普段は農業をしている「半農半士」が主流でした。そのため、農繁期(田植えや稲刈りの時期)には戦争を切り上げなければならないという致命的な弱点があったのです。しかし、銀山という安定的な軍資金を得た羽柴家は「年間を通じてお金で雇えるプロの兵士(常備軍)」を大量に抱えることができるようになりました。他の大名を圧倒する最大の武器になったことは言うまでもありません。

■常識を逸脱した土木工事に、敵は戦意喪失

秀吉の戦といえば、のちに行う「備中高松城の水攻め」や、小田原攻めでの「一夜城(石垣山城)の築城」など、常識を超越した大規模な土木工事で有名です。これらはすべて、日本中の土木作業員を「高額な日当」で大量に動員できたからこその戦術。たとえ危険な戦場であっても、高い給料がもらえるならと全国から労働者が集まり、数キロメートルに及ぶ堤防や城をあっという間に造り上げてしまったのです。敵を武力で殺すのではなく、「圧倒的な財力で戦意喪失させる」秀吉特有の戦術は、銀山という打ち出の小槌があってこそ成立した戦術でした。

■世界のシルバーラッシュを牛耳る経済大国へ

中世以来、日本は銀の輸出国でした。特に16世紀から17世紀にかけて、世界で流通する銀の約3分の1が日本産だったと言われています。そしてその大部分の生産が島根県の石見銀山や兵庫県の生野銀山によるものだったのです。のちに天下人となった秀吉と秀長は、これらの主要な鉱山をすべて「太閤直轄領(豊臣家の直接管理)」として独占しました。これにより、豊臣政権は国内だけでなく、明(中国)やヨーロッパ諸国との貿易においても圧倒的な主導権を握ることになります。「天正長大判」などを鋳造し、貨幣経済のリーダーとなったことで、名実ともに「天下」をその手に収めたのです。

美しい「天空の城」の陥落は、羽柴兄弟が「経済の力」で天下へと駆け上がっていく、運命のカウントダウンの始まりだったのですね。


【次回 『豊臣兄弟!』第22回「播磨大誤算」あらすじ】

一度は播磨を手中に収めたかに見えた秀吉(池松壮亮さん)だったが、半兵衛(菅田将暉さん)の悪い予感が的中。服属したはずの国衆たちが反旗を翻し、呼応して毛利・宇喜多も挙兵する。しかも折悪く半兵衛の体調が悪化し、秀吉は味方を見捨てて撤退することに。自責の念にさいなまれる秀吉は、ある夜、足を踏み外して頭を打ち、なんと記憶をなくしてしまった! 小一郎(仲野太賀さん)は、秀吉の記憶を取り戻そうと手を尽くすが…。

※『豊臣兄弟!』第21回「風雲!竹田城」のNHK ONE配信期間は2026年6月7日(日)午後8:44までです。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
河西真紀
参考資料: 『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『秀吉と秀長』(NHK出版新書) /『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 前編』(NHK出版) /『NHK2026年大河ドラマ完全読本 豊臣兄弟!』(産経新聞出版) /NHK公式X 大河ドラマ『豊臣兄弟!』 /世界史の窓「日本銀」」(https://www.y-history.net/appendix/wh0801-064.html) :