連載|キャスター・大江麻理子の「行ってみて、聞いてみて」
連載【キャスター・大江麻理子の「行ってみて、聞いてみて」】では、大江さんが気になる現場を訪れ、お話をうかがい、“現場”でしか分からない温度をお伝えします。
今回は【〈第三回〉水彩画家・ 永山裕子さんに習う】をお届け。二部に分けてお送りします。
〈第三回〉 水彩画家・永山裕子さんに習う
描くことで、新たな視点を得る/文・大江麻理子
画家は、この世界をどう見てどう描いているのか
水彩画家の永山裕子さんに初めてお会いしたのは、青山のブルーノートだった。知人が紹介してくれて数人でジャズを聴き、帰るときお店の方に呼び止められた。「鉛筆削りをお忘れですよ」。永山さんは音楽を楽しみつつ暗がりで演奏者のスケッチをしていたのだ。「ひゃあ! お恥ずかしい」とぺこぺこ謝っている姿を見て、すっかりファンになってしまった。
さらに、常に絵を描くことが組み込まれている画家の生活や考え方が気になった。永山さんに絵を習ったら、画家の視点がわかるかもしれない。私は、無謀にもそんなことを考えた。
思い込みを排除し観察に徹する
「絵を描くとき、テクニックも重要だけれど、それよりもっと大事なのは『どうやってものを見るか』なんです」
太陽光が差し込むアトリエで、永山さんのレクチャーが始まった。
「たとえば、リンゴを描いてと言われたら、どう描きます? だいたいの人はくるんと円を描いて上のほうにへたを付ける。でもね、リンゴって丸くないんですよ」
そう話しながら突然果物ナイフを取り出し、床に広げたスケッチブックの上でリンゴをざくざく輪切りにしていく。
「リンゴはバラ科で花びらもがくも5枚。だからよく見ると果実も五角形なの。丸だと思い込んでいると、見たままを描かず円にしちゃう。見たり触ったりして、本来の姿をまずはじっくり観察することです」
いきなり大きな衝撃を受ける。そうか、私はいつもあらゆるものをちゃんと見ていなかった。そこにリンゴがあるなと認識するだけで、観察をしていなかった。何もわかっちゃいないのに、わかったつもりになっていたんだ。
「目の前にあるものの本来の姿をまずはじっくり観察します」(永山さん)
「ちゃんと見ていないのに、見たつもり、わかったつもりになっていました」(大江)
「これから描いてもらうバラも、元々は5枚の花びらが基本で、品種改良で花びらの多いものが増えていったのです。だから基本は五角形だというのを意識しましょう。そのうえで、目の前にある花びらがどうなっているのか、よく観察しながら描いてみてください」
永山さんは、植物を観察していて、フィボナッチ数列を実感するという。フィボナッチ数列とは、「1、1、2、3、5、8、13、21……」と、前のふたつの数字を足すと次の数になるもので、花びらや葉の枚数など自然界の法則に深く関連するとされる数列だ。例外もあるが、ほとんどの花がフィボナッチ数の花びらを有しているという。また、中心から外へ螺旋状に並んでいるひまわりの種も、左回りが21列で右回りが34列、左回りが34列で右回りが55列、左回りが55列で右回りが89列の3通りの組み合わせだけなのだそう。
「この法則を知ったら、描くことや観察することがより楽しくなりました。事前に調べておいて、実際に数えながら描くことで、理科とか数学とか、いろんなものを知るようになったんです」
しかし、観察したからといってそれを忠実に描けるとは限らない。永山さんのおすすめは、手元の紙を見ずに描く方法だ。
「観念的なものを描かないよう、手元を見ずに描いてみましょう」(永山さん)
「そのほうが、見たものを忠実に描けるのですね」(大江)
「たとえば葉っぱを描くとき、私たちのなかに『葉っぱとはこういうものだ』というイメージが強くありすぎるため、手元を見ながら描くと、モチーフの葉っぱをちゃんと見ないで、自分の観念的な葉っぱを描いちゃう。だから、手元を見ず、葉っぱだけを見ながら手を動かしてみるんです。最初はうまくできないかもしれません。でも、そのほうが本来の形を正確に描きとれるんですよ」
観念を捨て去ろう。私も手元を見ず、葉っぱを凝視しながら描いてみた。
「オッケー! ちゃんと形がとらえられています。大江さんは素直なのね」
──第二部へとつづく
- PHOTO :
- 川上輝明
- HAIR MAKE :
- 仲嶋洋輔(ペールマネジメント)
- EDIT :
- 田中美保、濱谷梢子(Precious)

















