肌にはまだ夏の湿りを感じながら秋の声が聞こえる頃、繊細なレースが爽やかな新涼の喜びを運びます。端正で、贅沢で、イノセントで、どこか懐かしくも新しいレースの魅力に動き始めた秋の気配を重ねて…。
「Precious」9月号では【秋風にレースは囁く】と題し、俳人・小津夜景さんの句と共に、大政 絢さんがレースの装いを纏いました。
今回は「ボッテガ・ヴェネタ」のフローラルレースをあしらったドレスの着こなしをご紹介します。
「しばらく花の形をしていた」句と文=小津夜景(俳人)
この町の九月は暦ほどには秋らしくない。午後の海辺にはまだ水着の人がいて、遊歩道は日が暮れてからもしばらく熱を持っている。それでも風だけはもう夏のものではない。腕や首筋を撫でていくとき、その爽やかさの奥にほんの少しさみしさがある。
そんな日は、レースという布のことがよくわかる。
レースは肌を隠さない。さりとて、肌を多く見せるわけでもない。糸と穴とを交互に置きながら、見えるところと見えないところを細やかにつくっている。
昔、祖母の箪笥の中に、茶色い紙に巻かれた白いレースがあった。幅は手のひらほどで、小さな花と葉が繰り返し編まれていた。
「カーテンの余りよ」
祖母は言った。
その家には大小いくつもの窓があった。庭に面した縁側の窓、流しの上の曇りガラス、階段の途中にある、開けても隣家の壁しか見えない細い窓。ひとつずつ確かめながら家の中を歩いてみたけれど、どの窓にも、花と葉のレースのカーテンは掛かっていなかった。
「捨てたの。あなたが生まれたころ」
祖母は惜しくもなさそうに言った。用のあったものはなくなり、用のなかった余りだけがこうして残っている。子どものわたしには、それがなんだか奇妙に思えた。
その余りをもらって、ぬるま湯で洗った。畳みぐせのついていた花が、湯のなかで少しずつほどけた。白いものだから汚れなどないように見えたのに、湯はじきに、かすかな色を帯びた。
乾かそうとベランダに掛けると、レースは風にふれた。普通の布のようには揺れない。風を正面から受けるのではなく、大方は穴から通してしまって、残ったぶんだけで揺れている。なるほど、涼しい布だと思った。
祖母のレースがその後どうなったかは覚えていない。確かに使ったはずなのに、どう使ったのかも、どこで手放したのかもわからない。気づいたときにはなくなっていた。
祖母についても、わたしはたくさんのことを忘れた。あんなに長い時間を一緒に過ごしたのに、声の高さも、歩く速さも、笑ったときの顔も、もう正確には思い出せない。けれども、失われてしまった穴にふれると、光や影のようなものを通して祖母のいたことが感じられる日がある。そんなとき、記憶とは残っているものを集めて昔の姿をつくり直すことだけではない、なくなったものが自分の中にどんな輝きを残しているのかを感じることも、たしかに記憶なのだ、と思う。
九月の光は穴を通る。
通り抜けた光は壁に差し、しばらく花の形をしている。
雁渡る頬をかすめし音もなく
モダンなトリミングでフローラルレースを大人の甘さへ
青空を仰ぎ見れば、少しひんやりした風が、レースを通して吹き抜ける。そんな季節に纏いたいのが、この前身頃にフローラルレースをあしらったミディ丈のドレス。繊細なフルレースの甘さに、トリミングによるシャープさが加味されて、モダンでクリーンな佇まいに。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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- PHOTO :
- 長山一樹(S-14)
- STYLIST :
- 高橋リタ
- HAIR MAKE :
- ヘア/西村浩一(VOW-VOW)、メイク/YUMI ENDO(eightpeace)
- MODEL :
- 大政 絢(Precious専属)
- EDIT&WRITING :
- 藤田由美、安藤奈津(Precious)

















