子供たちのアイドルから時代を象徴するミューズへと成長
ゼンデイヤ。ジンバブエの「ショナ語」で「感謝する」の意味。正式な名前は、英語でゼンデイヤ・マリー・ストーマー・コールマン。
アフリカ系アメリカ人の父親と、ドイツ系・スコットランド系の母親の間に、米国カリフォルニア州オークランドで誕生。1996年9月1日生まれなので、ちょうど30歳を迎えたばかりだ。結婚したのではないかとネットを賑わせている「スパイダーマン」で有名なトム・ホランドも同年齢だ。
今年6月に、トムがゼンデイヤをミドルネームの「マリー」と呼んでいるのが発覚した際には、「あのゼンデイヤが、マリーという隣にいるような普通の名前?」といった、驚きの声が多く聞かれた。
ワンフレーズの呼称で通用する芸能人は大物しかいない。例えば、「マドンナ」「ビヨンセ」「シェール」など。そういえばスーパーモデルの走りである1960年代の「ツイッギー」もそう。
そんな一人に名を連ねたゼンデイヤ。ディズニー・チャンネルで人気を博した少女が、21世紀を代表するファッションアイコンとして、目にも留まらぬ早業でいつの間にか頂点に立っている。まるで魔法をかけられたシンデレラのように。
今や、彼女がドレス姿で登場したレッドカーペットシーンはファッション誌で必ず報道されると言っていいほど、圧倒的な存在感だ。ファッションの祭典「メットガラ」で、2024年に共同議長を務めている。彼女が来場することがすでに話題であり、そこにいるだけでイベントの価値が上がる。
そして、ベストドレッサーというだけではなく、フェミニストであり、インターセクショナリティ(※)を意識していると公言する多様性の象徴としても注目されている。そういった「時代のメインストリームのミューズ」という意味合いも含めて、堂々たる風格だ。
そして予想を裏切らず、辺りの気配を支配するほどぶっちぎりのサプライジングスタイルで、登場する。
映画『DUNE/デューン 砂の惑星』のプレミアで見せた伝説的な「ティエリー・ミュグレー」のロボットドレスや、『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』のプレミアでは、ツアーすべての会場で、蜘蛛の糸をモチーフにしたシースルードレスやレース飾りで登場するなど、観客が喜びで踊り出したくなるようなウィットに富んだ、ユーモラスでゴージャスなドレスアップを見せてくれた。
しかも最近は、2017年公開の映画『スパイダーマン:ホームカミング』以来、『スパイダーマン』シリーズで共演しているトム・ホランドと一緒に、仲睦まじい夫婦というよりもバディと呼びたいほど、魂が繋がった幸せな様子で現れるから、好感度や親しみやすさも爆上がりだ。何か「幸せ感」を運んでくれるのだ。
ヴィンテージドレスを個性的に着こなす姿も注目の的に!
有名ブランドのお仕着せのドレス姿でありきたりのポーズを取るのではなく、独創性のある、それでいてその場に最もふさわしい服を選び取っている。Z世代をはじめとする「ゼンデイヤに夢中」現象に拍車をかけている理由の一つではないだろうか。
だから、「これは一体どこの服?」という注目度も高まる。名だたるメゾンが、ゼンデイヤをアンバサダーに起用したいという気持ちはよくわかる。
だが、彼女が選ぶのはいつも、ブランドものであっても過去のアーカイブからであったり、ヴィンテージが中心で、時には知名度は高くないが、彼女にぴったりの個性的な服を作るデザイナーからであったりと、まず他の人と決して被らないというのも興味をかき立てる。
有名老舗ブランドをあえて避けるのは、まだ今のようなカリスマ性がない時期に、体よく、散々に貸し出しを断られたからだというエピソードがある。多分それは本当だろう。
そして、ゼンデイヤのスタイリングを担当するロー・ローチは。その悔しさを忘れてはいず、今は、先方から申し出があっても氷のように「NO」と言い続けているらしい。かえってそれが、ゼンデイヤのアイデンティティを築き上げるきっかけになったというのも、皮肉だが、面白い話だ。
ちなみに「ルイ・ヴィトン」は当時からサポートしてくれたこともあり、2023年からアンバサダーに就任している。
豊かな才能、抜群のプロポーション、愛すべき人柄の最強バランス
180センチを超す身長とほっそりと長い手足という恵まれたプロポーションは、まるでアンドロイドなのではないかと思うほどの完璧さだ。かつて彼女の母親が「白人というには白くないし、黒人というには黒くない」という言葉で、複雑な人種ミックスがハリウッドで活躍することの難しさを示唆していたのだが、これを見事に「唯一無二」のアピールポイントに変えたゼンデイヤの自己プロデュース力には、感嘆する。
そして、プロデューサーや監督を目指すと公言しているその姿勢には、強さと知性が窺え、単なるスターの枠を超えたエグゼクティブ級のビジネスセンスを感じる。
スーパーアイドルであるゼンデイヤの肩書きは幅広い。女優、歌手、ダンサー、しかもどの分野でもダントツの記録保持者だ。
小さい頃から、メイシーズなどの百貨店のモデルやコマーシャルに登場していたのだが、まず女優としては、14歳のときにディズニー・チャンネルでデビュー。ダンスと友情を描いたコメディドラマ『シェキラ!』に、オーディションを経て抜擢され、ディズニー・チャンネル過去27年間で最多の、初回放送視聴者記録を築いた。
以来の快進撃は一つ一つ上げるまでもないが、受賞歴は数知れず。16歳のときに出場した米国ABC放送のダンスコンペティション番組『ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ』では、最年少の出場者でありながら、アルゼンチンタンゴでそのシーズン初の10ポイントを獲得。続くサルサでも、出場者初の30ポイントというパーフェクトスコアを叩き出している。
人気を不動のものとしたテレビドラマ『ユーフォリア』では、2020年に史上最年少で、そして2022年にも「プライムタイム・エミー賞」のドラマ・シリーズ部門主演女優賞を受賞。2023年には同役で「ゴールデングローブ賞」のドラマ部門主演女優も受賞した。
歌手としてもヒットチャートを賑わせているが、これもまたシングル曲がゴールド認定、プラチナ認定を受けている。さらには彼女をモデルとした、ドレッドヘアで「ヴィヴィアン・ウエストウッド」の白いドレスを着たバービー人形が発売されたというのも、特筆すべきトピックスだろう。
近々の話題は、トムとの婚約から結婚だが、芸能界ではありがちな、パパラッチに囲まれて大きなダイヤモンドの指輪を見せびらかすわけでもなく、突然の入籍発表でもなく、淡々と身内で済ませているかのような手順を踏んだクラシックさが、浮ついた感がなく清潔感すらあって共感を呼んでいる。
また、最新作映画『オデュッセイア』のワールドプレミアでも、役柄の女神アテナを思わせるヘアスタイルや、「スキャパレリ」のオートクチュールのドレスをランウエイで発表の数時間後に着用して登場し、会場を沸かせた。
21世紀のスターには、美しさと同時に親しみやすさが求められる。その点、ゼンデイヤには仲間のような親しみを感じると同時に、聳え立つような手の届かない才能にも圧倒されるのだ。その二面性の落差がミステリアスで、さらにファンを魅了するのだろう。
かつてディズニーアイドルだった少女は、未来を背負いながら、これからもさらなる高みを登っていくに違いない。
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- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- PHOTO :
- Getty Images
- EDIT :
- 谷 花生(Precious.jp)

















