連載|キャスター・大江麻理子の「行ってみて、聞いてみて」

連載【キャスター・大江麻理子の「行ってみて、聞いてみて」】では、大江さんが気になる現場を訪れ、お話をうかがい、“現場”でしか分からない温度をお伝えします。

今回は【〈第五回〉西陣織の老舗「HOSOO」潜入取材!】をお届け。前編、後編の二部に分けてお送りします。こちらは前編です。

大江麻理子さん
(おおえ まりこ)キャスター。1978年福岡県出身。2001年テレビ東京に入社。バラエティ番組から政治経済番組まで幅広く担当。経済ニュース番組『WBS(ワールドビジネスサテライト)』メインキャスターを11年務めたのち、2025年に退社。現在はルビ(ふりがな)の使用推進をはかる一般財団法人「ルビ財団」の理事も務める。
細尾真孝さん
(ほそお まさたか)株式会社細尾 代表取締役社長。1978年京都府出身。元禄元(1688)年に創業した西陣織の老舗、細尾の12代目。音楽活動や大手ジュエリーメーカー勤務を経て、2008年細尾に入社。海外展開を積極的に行うと共に、着物に最適な生糸をつくるための蚕や日本古来の自然染色を復活させるなど、着物文化の原点を大切にする取り組みを続けている。

〈第五回〉 西陣織の老舗「HOSOO」潜入取材!

日本の美を、未来へ繋ぐ/文・大江麻理子

まさに温故知新!海外で感じた原点の大切さ

染色された蚕「セヴェンヌ」の生糸
細尾さんたちが復活させた蚕「セヴェンヌ」の生糸を日本古来の植物で染色。右から、丸葉藍(まるばあい)、ニホンムラサキ、日本茜、黄檗(きはだ)、丸葉藍と黄檗を合わせた緑色。

西陣織の「細尾」の名前を聞くと、海外の名だたるブランドとのコラボレーションを思い浮かべる方も多いだろう。しかし、細尾の12代目、細尾真孝さんの視線は、外に向けられているだけではない。同じかそれ以上に、内側、つまり着物文化の原点に向けられている。

「原点回帰のきっかけはなんでしょう?」大江
「海外展開でしょうね。僕たちの価値はなんなのか、とことん考えました」 真孝さん

「HOSOO」12代当主の細尾真孝さんと大江麻里子さん
伝統を継承しつつ、現代らしさがあるオリジナル着物を制作。

「海外展開をしたことが、原点回帰の大きなきっかけになったと思います。外に出ると、自分たちは何者かを突き詰めて考えることになる。何が僕たちの価値なのか。存在意義はなんなのか。考えて辿り着いたのが、歴史とか、日本古来の素材とか。そういう原点を守ることが未来への道を拓くという発想だったんです」

細尾が海外を目指したのは、真孝さんの父、真生(まさお)さんの代からだ。真生さんは大学卒業後、すぐに細尾に入ったわけではない。伊藤忠商事に入社し、ミラノへの海外赴任を経験した。そこで西陣織を海外に広めたいという思いを強くしたそうだ。息子の真孝さんは、父の赴任で幼少期を海外で過ごしていたこともあり、海外にあまり垣根を感じていなかったようだ。そして父と同じように、細尾にすんなり入らず、ミュージシャンとして音楽活動をしたり、大手のジュエリーメーカーに勤務したりしてから実家に戻っている。こうして親子2代にわたって「外」を経験したことが、細尾にとって大きな転換点になった。

西陣織が海外で苦戦する理由は、着物や帯に使うことが前提となっていて織物の幅が狭いからだ、ということに気付き、それまでの32cmから大きく幅を広げ、世界のテキスタイルの標準幅である150cmのものを織ることができる機械を独自に開発した。

「そんな機械はどこにも存在しなかったので、自分たちでつくるしかありませんでした」と真孝さんは笑う。それ以来、“クリスチャン・ディオール”、“シャネル”、“ルイ・ヴィトン”、“グッチ”など、海外ブランドとの仕事が飛躍的に増え、もちろん日本でもさまざまなシーンで細尾の織物が使われるようになった。

「未来にタイムスリップした感覚になる茶室ですね」大江
「つくる過程で茶の湯文化を突き詰めて考えました」細尾さん

「HOSOO」12代当主の細尾真孝さんと大江麻里子さん
組み立て式の茶室「織庵(おりあん)」。壁には障子をイメージして紗(しゃ)の生地を使用。まさに古(いにしえ)と現代が融合した空間。
「HOSOO」を訪れた大江麻里子さん
左/組み立て式の茶室「織庵」。畳も染色されている。掛け軸は、細尾に昔からあった絵柄をピクセルアート化したもの。右/茶室の壁には、オランダ人テキスタイルデザイナー、メイ・エンゲルギールさんと開発した紗の布地「Shoji Fabrics」を貼っている。照明をつけると明るく近未来的になり、消すと外光がほんのり差し込む「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」的な空間に。私がいるのは水屋(みずや)。

京都にある細尾の旗艦店には、和と洋が融合した、モダンなアイテムが並んでいる。

「理想は、ワードローブのなかに和服と洋服が並んでいて、両方が同等に選択肢となる世界。なかでもバッグ類は和洋どちらにも合わせられるようにデザインしています」

「和洋どちらにも合わせられるデザインですね」大江
「理想は、和服と洋服が同等に選択肢となる世界です」多英子さん

「HOSOO」の店内
西陣織のバッグは、和装にも洋装にも合わせられるモダンなデザイン。

案内してくださったのは、真孝さんの妻で副社長の多英子(たえこ)さん。実は私、結婚する前の多英子さんを知っている。もう15年以上前の話だが、当時は東京で外資系化粧品会社の広報担当をなさっていて、敏腕なうえお人柄がよいことで知られていた。細尾の大躍進には、多英子さんの存在が欠かせなかったはずだと踏んでいる。

「HOSOO」副社長の細尾多英子さんと大江麻里子さん
真孝さんの妻で副社長の細尾多英子さんと。シルクを何度もブラッシングして起毛させたブランケットは極上の肌触りで、ずっと撫でていたくなる。昔は植物の実のトゲで布を起毛させていたそう。
「HOSOO」の店内
テーブルウエアも充実。日本古来の素材である麻(ヘンプ)のテーブルナプキンは、洗うほどに柔らかくなる。西陣織の六角形スタイリングマットは箔の部分が光り、存在感がある。
「HOSOO」の店内
左上/信玄袋(しんげんぶくろ)や数奇屋袋(すきやぶくろ)は現代風にアレンジされてシンゲンバッグ、スキヤバッグに進化。パーティシーンにぴったりの華やかさ。右上/シルクを使ったウィメンズのプレタポルテコレクション『HOSOO Couture』を2023年から展開。下/寝具もシルクを使ったものが多い。

「たくさんのプロジェクトが同時進行しているなか、どのように管理をしているのですか?」と真孝さんにたずねたら、「主にオタクっぽいことは僕が、あとは多英子さんがどっしり構えてやってくれています」と夫婦で微笑み合いながら教えてくださった。

「HOSOO」の店内
左上/山科家(旧公家)の30代、山科言親(やましなときちか)さんと制作した有職文様(ゆうそくもんよう)の反物(たんもの)。右上/京都旗艦店のラウンジで供される「かさね色目」のマカロン。色や味は季節によって変わる。左下/旗艦店2階にはギャラリーがあり、アーティストとのコラボ企画展などが定期的に開催される。展示は「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe」展(8月末終了)でのコラボ作品。右下/千家十織(せんけじっしょく)の塗師(ぬし)、13代中村宗哲(なかむらそうてつ)さんが監修した付け下げ。「さまざまな場で使えるよう、上品な柄に、刺繍などで華やかさを加えています」(真孝さん)

【DATA】「HOSOO FLAGSHIP STORE」

ショップ_1
 

TEL:075-221-8888
時間:10:30〜18:00 祝日・年末年始休
URL:hosoo.co.jp/showroom/flagship/
住所:京都府京都市中京区柿本町412

PHOTO :
川上輝明
HAIR MAKE :
仲嶋洋輔(Perle)
EDIT&WRITING :
田中美保、濱谷梢子(Precious)