1971年に初めてアニメ化された「ルパン三世」は、視聴者の支持を得ることができなかった。評価が高まったのは、のちの再放送でのこと。その点においては、「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」にも似ている。泥棒が主役という特異な作品のなかで、今もアイコニックな存在であり続けるのが、ルパンの乗るクルマだ。原作漫画の雰囲気を漂わせつつ、独自の世界観を見せた初期アニメシリーズを中心に、印象を残した名車の魅力を解説する。
暇つぶしに犯行を計画する「貴族」を描いたアニメ第1作
今期、最新アニメシリーズが放映中の「ルパン三世」。今や国民的キャラクターと言えるほどの知名度を誇るが、初めてアニメ化された当時は視聴率が振るわず、打ち切りの憂き目に遭った。だが、大人になった我々が心から楽しめるのは、間違いなく第1シリーズの、それも前半のエピソードだ。
超絶的な頭脳を駆使して莫大な資産を蓄え、退廃的な日々を送りながら、暇つぶしの一環として大胆な盗みを働くルパンは、まるで貴族。そして本心を巧みに隠して悪女ぶりを発揮する峰不二子は、フランス映画のミステリアスなヒロインをほうふつとさせる。
彼らを中心に巻き起こる、エロティックでスリリングな物語は、必要最低限のセリフで構成され、大人のハードボイルドとして観る者の想像力を掻き立てる。これに「スキャットの女王」と称された歌手、伊集加代子の郷愁を誘う歌声や、耳に残るソウルフルなチャーリー・コーセイのシャウトが加わり、無国籍でブルージーな世界が形づくられていた。
国際A級ライセンスを持つルパンの愛車
子供向けアニメの枠を優にはみ出していた初期ルパンを象徴する小道具が、クルマだった。国際A級ライセンスを所有し、F1グランプリにスポット参戦するほどの腕前を誇るルパンの愛車は、メルセデス・ベンツ SSK。フェルディナンド・ポルシェが設計した戦前の高性能2座スポーツカーを、ルパンはフェラーリのV12エンジンに換装して乗り回す。最新のラグジュアリー・スポーツカーではなく、敢えてクラシカルでプリミティブな「マシン」を普段使いするところが、いかにも貴族的だ。
ふるわぬ視聴率を改善するために、コミカルで明快なエピソードが増えた第1シリーズの後半からは、最新シリーズにも登場するフィアット・500に乗る。愛らしいスタイリングは子供にわかりやすいうえ、作画が楽という理由もあった。ほかに第1シリーズで印象的だったクルマに(ルパンが運転していないものも含む)、フェラーリ・312B(第1話「ルパンは燃えているか…?!」)、メッサーシュミット・KR200(第2話「魔術師と呼ばれた男」)、ジャガー・Eタイプ(第4話「脱獄のチャンスは一度」)、ルノー・4CV(第6話「雨の午後はヤバいぜ」)、トライアンフ・TR4(第9話「殺し屋はブルースを歌う」)、ジャガー・マークII(同・前)などがある。
クルマと女を本気で描いたから面白い!
再放送を見ていた当時小学生低学年の筆者に、これらのクルマがどんなものなのかはわかる由もなかったが、大人はかくも渋く品格のあるクルマを愛するものなのだという認識はあったように思う。それよりも、個人的には敵に捕まりブラウスのボタンを外された不二子が、くすぐりマシン(!?)の責め苦を受けるシーンや、同じく捕まった不二子が下着姿で吊るされるシーンのほうが心に残っているという事実!
クルマと女…。初期ルパンは、大人の世界を本気で見せる作品だったのだ。
- TEXT :
- 櫻井 香 記者