待望の日本版発売から1年。第2弾となる2018年版は瀬戸内を加えた、東京、北陸の3エリアを網羅したことになる。東京、富山、石川、福井、岡山、広島、山口の老舗から新店までの470余りを紹介する黄色い『ゴ・エ・ミヨ』だ。
ガイドブックで見つける旅もある
もう一方の赤い『ミシュランガイド』の日本版は、2007年発刊だから10年先輩ということになる。空前のミシュランブームに日本中がわいたことは記憶に新しい。ミシュランが星でレストランをランキングするのに対し、本書は20点満点とする点数表記(フランスはなぜか20が大事。80をフランス語で4×20と言うことを知った時の驚きは覚えてます? 90なんて4×20+10!)ということ。
ミシュランが伝統的でクラシックな料理を評価するのに対し、本書はどちらかというとモダンで新しみを評価する傾向があることは有名で、そしてなにより、両書共にわたしたちを「美食の旅」に誘ってくれる。
本書の第1弾、東京・北陸版発売の影響は大きかった。北陸新幹線開業以来、金沢に注目が集まり、金沢市内の有名店は1~2か月前には既に満席という状況だった。それを本書の第1弾が後押ししたことは間違いない。本書でも「屈指の名店」と評価する「乙女寿司」(石川)の、新鮮な白子、うなぎきゅうり巻き、青そい、ノドグロは本当に素晴らしかった。乙女の理由も得心。ガイドブックで見つける旅もあるのだなと少し感動した。
旅の目的は年老いたときに思い出話をするため
20代30代の頃の旅は、理由など必要なかった。ここではないどこかを探すだけだった。しかし、40を過ぎる頃だっただろうか。旅の理由を探すようになった。
リニューアルしたばかりの大分県立美術館や富山県立美術館にも、そこに立つことを目的に行った。高松市役所にも、金沢の小さな美術館にも千利休の茶杓を見るために行った。
トーナメントを終えたばかりのゴルフコースを訪ねて、ずいぶん飛行機に乗ったものだ。
夜はもちろん美味と美酒の渉猟。
そして、そのうちに、食のためだけに旅をするようになった。
本書でも17点という高得点の評価を受けている「季節料理なかしま」(広島)との出合いは素晴らし旅だった。
羽田空港から広島行きに乗り、リムジンバスで広島市内へ。オバマ大統領の見た景色を見たかったのだ。かつて丹下健三が夢想した通りだったろうか。原爆資料館には、修学旅行の生徒だけでなく、欧米人と思われる外国人が目立った。原爆ドーム近くから発着する船で安芸の宮島へ。川面から望むヒロシマシティー。こんな小さな旅もテンションをかなり上げるのだ。
そして夜。「季節料理なかしま」がもし東京銀座にあれば、おそらくお会計は2倍、いや3倍は下らないのだろうなと想像しながら、作家物や骨董の器でいただく料理は格別だった。
高校時代、古文の先生の雑談を思い出した。「旅の目的は年老いたときに思い出話をするためなんだ」と。お能の何かの演目に旅の意味を問われて、旅人が答える下りがあるらしい。ガイドブックから始まる旅もまた、上等の、忘れられぬ旅になり得るのだ。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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