少量生産の高級スポーツカーブランドでありながら、いまアストンマーティンは7年で7台のニューモデルを投入する積極策に出ている。その第一弾がDB11であり、そしてヴァンテージと今回ご紹介するDBSスーパーレッジェーラが登場した。なかなか目にする機会のないクルマだけに、その特徴をみなさんと共有するのは容易ではないが、いち早くハンドルを握ったライススタイルジャーナリストの小川フミオ氏による解説を通じて、英国スポーツカーならではの個性を感じ取っていただきたい。
英国流スポーツカーの「美学」
英国ではよく「アストンマーティンは男のクルマだ」と言われた。
とりわけ1950年代から60年代のモデルは、ステアリングホイールの操作には腕力を要し、ブレーキングも大きな踏力を必要とした。
体重の軽い人間には操作できないようなクルマを駆ってレースをすることは、まさに体力をつけた男のスポーツだったといえる。
ほんと、全身の力を込めてステアリングホイースを回さないと、小さな曲率のカーブではクルマが外側へ飛び出しそうになる。アストンマーティンもそういうクルマだった。
いまのアストンマーティンは、そこまで特殊なクルマではない。ドレスを着た女性がパーティ会場に乗りつけるのにも、なんら不便はない。
アストンマーティンになにか特別なものがあるとしたら、それは英国流スポーツカーの「美学」と呼べるものだろう。
2018年夏に発表された新型車「DBSスーパーレッジェーラ」(以下DBS)は、日常生活でもガンガン楽しめるスポーツGTという、アストンマーティンのよさが詰まったモデルだ。
スポーツカー好きに乗ることを勧めたい、バランスのいいクルマだ。2プラス2というシートアレンジも実用性が高い。
「アストンマーティンに必要だったのは、モデルマトリックスを整理することでした」
試乗会場になった南ドイツの保養地ベルヒテスガーデンで、チーフエンジニアのマット・ベッカー氏が説明してくれた。
DBSは、新しく構成された3台によるラインナップの中間に位置する。マイルドでGT的性格が強いのは2017年に発表された「DB11」。このクルマのシャシーを使って、あとの2台が開発された。
最もスポーティなのは、2018年春発表の新型「ヴァンテッジ」。こちらはAMGと共同開発したV8エンジンを使いながら、シャープな操縦性を特徴とする。
DBSは(さきに触れたように)スポーツGTという位置づけだ。5.7リッターV型12気筒エンジンに8段オートマチックを組み合わせて後輪を駆動する。伝統的な高級GTのセオリーどおりのメカニカルレイアウトを採用。
「脚まわりは固くなりすぎず、かといってソフトではスポーティな操縦性が楽しめません。そこで入念なチューニングをほどこしました」
ベッカー氏はそう語る。
豊かな歴史を凝縮したDBS
試乗すると、突き抜けるような加速感と、ダイレクトな反応のステアリングがみごと。低速から高速まで、あらゆる速度域で楽しい。つまりよく出来たスポーツカーなのだ。
スタイリングもアストンマーティンに期待されるエレガントさとアグレッシブさをうまくバランスさせた魅力を持つ。
同時に、三次元の立体的造型をされた大型グリルや、上下幅を薄くした前後のランプ類が、しっかり新しさを感じさせる。
インテリアもかなり雰囲気がいい。ポルシェと違うのはアストンマーティンには、いい意味でのけれん味というか、華やかさがあることだ。
レースカーのようにアルカンターラを多用した仕様もあれば、幾何学的なパターンを配したミラノデザインウィークで出合う家具のような仕様も。
英国は伝統的にスポーツカーを好む土地といわれる。DBSには、これまでほぼスポーツカー一本槍でここまでやってきたアストンマーティンの豊かな歴史が凝縮している感がある。
大きな排気量をもつ多気筒エンジンの余裕あるトルクと、シャープなハンドリングと、それでいて優雅なたたずまい。矛盾するような要素をみごとにきれいにまとめあげている。
伝統にばかりよりかかるのでなく、新しいものを生む能力を持つ英国。「英国では変人でも天才であれば尊敬される。だからすごいものが生まれる」。米国の著作家ピーター・N・キャロルは著書「70年代アメリカ」で大意そう著述している。
アストンマーティンを作っているひとは変人ではなさそうだが、間違いなく天才的な楽しさをもったスポーツカーである。
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- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト