「フランチェスカーナ」とは、1995年、イタリア・エミリア-ロマーニャ州の街、モデナに誕生したレストランだ。現在、イタリア版『ミシュラン』の3つ星を保持し、2016年度には、世界各国の料理ジャーナリストがレストランを選ぶ、「世界ベストレストラン50」でナンバーワンとなった名店。「フランチェスカーナ」のオーナー兼シェフを務めるマッシモ・ボットゥーラ氏は、スペインのあの伝説的なレストラン「エル ブジ」にも在籍した。

「行きたい理由は、やっぱりそういうミーハー精神?」といわれそうだが、そのモチベーションの20%程度は当たっている。なぜなら、久しくイタリアの料理界から世界の頂点に立つシェフが輩出されなかったので、どうしても気になる。イタリア料理を世界にアピールできたのは、グアルティエーロ・マルケージ氏以来。マルケージ氏は、"ヌオーヴァ・クチーナ・イタリアーナ"を提唱し、伝統的なイタリア料理に東洋的な思想をもアレンジした天才シェフ。もう随分昔の話だ。

「フランチェスカーナ」への強い好奇心は、メニューにいくつかラインナップされた奇妙なタイトルの料理が、どんなものか味わってみたいからである。そのなかのひとつに、ボットゥーラ氏の代表的な料理となる『Oops! Mi e'caduta la crostata al limone/おっと! レモンタルト落としちゃった』がある。当店のスーシェフが間違ってレモンのタルトを落としたことが誕生のきっかけだが、そんなことは忙しい厨房のなかではしばしば起こるだろう。しかし、ボットゥーラ氏は見逃さなかった。ドイツの現代美術家ヨーゼフ・ボイスの作品になぞらえて、店の看板メニューとしたのだ。

 美術家ボイスに影響された料理には、『La neve al sole/太陽のような雪』もある。菊芋のピューレにクリーム状の松の実を混ぜ、ポルチーニのジェルなども加える。なんだか、いまにもいい匂いが漂ってきそう。真っ白に調理されたそのひと皿は、ボイスが造形した1965年の彫刻にちなんでいる。

 ほかにもメニューには、ピカソの抽象画に触発された『Camouflage: la leper nel bosco/カモフラージュ:森の中の野兎』。『Una patata che vuole diventare tartufo/トリュフになりたいジャガイモ』や『Un'anguilla che risale il Po/ポー川を遡上するウナギ』などもある。洒落っ気があって詩的な名前の料理は、ボットゥーラ氏が彫刻や絵画などにも影響されながら到達したオリジナルのレシピで成立する。料理を目の前にすれば、食欲よりも、頭をガツンと叩かれるような感覚になるだろう、と私は想像している。

 普段、イタリアを旅しているときは、地元の人たちで賑わう古くからあるトラットリアに寄って、"マンマの味"に浸ることが多い。食べ慣れた"安心できる味"が、旅の途中で心を和ませてくれる。それに比べて、「フランチェスカーナ」の料理は、肩に力の入った言い方をすれば、日常の食から離脱した"感動を与える味"を体験できるのではないか。だからこそ、わざわざモデナまで行きたいのである。

マッシモ・ボットゥーラ氏の著書『Vieni in Italia con me』(PHAIDON)。「オステリア・フランチェスカーナ」の代表的な料理をドキュメンタリータッチの写真などで紹介する。 https://www.osteriafrancescana.it/it
マッシモ・ボットゥーラ氏の著書『Vieni in Italia con me』(PHAIDON)。「オステリア・フランチェスカーナ」の代表的な料理をドキュメンタリータッチの写真などで紹介する。 https://www.osteriafrancescana.it/it
現代美術家ヨーゼフ・ボイスの作品になぞらえたデザート、『Oops! Mi e'caduta la crostata al limone』
現代美術家ヨーゼフ・ボイスの作品になぞらえたデザート、『Oops! Mi e'caduta la crostata al limone』
『Una patata che vuole diventare tartufo』は、ジャガイモからトリュフに変わっていく味や形状の流れを表現している。これも、食べてみたい料理のひとつ。
『Una patata che vuole diventare tartufo』は、ジャガイモからトリュフに変わっていく味や形状の流れを表現している。これも、食べてみたい料理のひとつ。
この記事の執筆者
ヴィットリオ矢部こと本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
Twitter へのリンク