銀座の一等地に戦前から店を構える「よし田」には、戦後たくさんの著名人が訪れた。女将の矢島一代さんに常連客の名を聞くと、吉田茂の息子で評論家、小説家であった吉田健一のほかに、その師にあたる河上徹太郎、白洲次郎、小林秀雄、高見順、野坂昭如などそうそうたる名前が並ぶ。

料理と接客に多くの文豪が魅せられた、上質な居酒屋のような蕎麦屋「よし田」

お銚子から始まり、肴は海苔に板わさ、玉子焼き

卵3個を使ってふっくら焼き上げた、名物玉子焼き¥800。だしのきいた甘くない味が男性に好評。日本酒(菊正宗)¥600。

「戦後間もなく店を再開したものの、蕎麦粉が扱えなくて、母は闇市でお酒を仕入れて銀座でもいち早く出していました。それを知って文士の方々がいらっしゃるようになったのです。当時は飲み屋といったほうがぴったりくる感じでした」

新潟出身の先代女将のつくる田舎風のつまみとともに、訛りの残る話し口調も有名人たちにかわいがられた理由だったらしい。それを愛したひとりの吉田健一は週に2度は訪れ、小上がりの床柱にもたれながら一杯やっていた。銀座で夜ごと飲み明かした彼にとって、ここは気の置けないなじみの店だったのだ。

彼が書いたエッセイで「よし田」をほめている箇所は少ないけれど、裏返すとそれは店に対する親近感の表れだ
と考えていいだろう。

  • コロッケそば¥1,000。揚げたてのコロッケは、まわりがサックリしていて中はふんわり。食感も面白い。
  • 肩肘張らない店は、だれもが酒と肴を楽しめる、上質な居酒屋のようでもある。
  • 暖簾ひとつにも、長い時間の積み重ねが感じられる。

こちらには店の代名詞のようになっている名物メニューがある。それはコロッケそば。このコロッケはパン粉をまぶして揚げたものとは異なり、鶏ミンチと山芋、小麦を練り合わせて揚げたつくねのような食感のもの。開発したのは戦前、日本橋浜町にあった今はなき「よし田」。このコロッケそばを愛した有名人も少なくないという。その味わいは、昔からのよいものを頑固なまでに守り通してきた、老舗の矜持のようなものさえ感じさせてくれる。

よし田
東京都中央区銀座6-4-12 KNビル 2F
TEL:03-3571-0526
営業時間:[月~金] 11:30~15:00 17:00~22:00  [土・祝] 11:30~15:00 17:00~21:00
定休日:日曜休
アクセス/地下鉄「銀座」駅より徒歩5分。 ※価格は税抜きです。

※2009年春夏号取材時の情報です。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2009年春夏号、文士が愛した寿司屋と蕎麦屋より
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小西康夫