ラグジュアリーとは対極にある専用装備

ひとえにオープンカーといってもさまざまな呼び名があり、ラグジュアリー色の強い4座モデルはカブリオレやコンバーチブル、対して2座、または2+2のスポーツカー系はロードスターやスパイダーと呼ぶことが多い。ポルシェにはソフトトップを備えた「ボクスター」があるが、それを敢えて非・自動化したうえで軽量化・高性能化を図ったのが「ボクスター・スパイダー」だ。そのつくりは実に潔い。ソフトトップは通常のボクスターよりも小さく、手動開閉式だ。ほかにもドアのインナーハンドルがベルトタイプだったりと、ラグジュアリーな近年のポルシェモデルに慣れた人は違和感を覚えるかもしれない。

車高を低めたレーシーなスタイリング

だが、ポルシェは元来モータースポーツを「走る実験場」ととらえ、積極的にレース勝負を行なってきたブランド。とくにル・マン24時間に代表される耐久レースでは高い実績を挙げており、ピュア・スポーツカーたる「ボクスター・スパイダー」は、ポルシェの伝統に則した設計なのだ。エンジンは「911カレラS」の3・8リッターユニットを積み、トランスミッションは6MTのみ。足回りには専用のチューニングが施されたサスペンションを備え、車高は標準モデルよりも20㎜低い。スタイリングではフロントバンパー部に大きな開口部の空気取り入れ口が付き、迫力を感じさせる。さらに、座席の背後に搭載されるエンジンとその後ろにあるトランクまでを一体で覆う、ふたつのふくらみをもつアルミ製リッドが、スパイダーであることを主張する。

オープンで走ることを前提としたスポーツカー
 

いかにも軽そうな薄いスポーツバケットシートに身を沈め、切れ味の鋭い水平対向エンジンのパワーを6MTで自在に操るのは最高のドライビング体験だ。トルクフルな大排気量ゆえ、シフトダウンしないまま回転が落ちてもアクセルを踏み込めば容易に加速する扱いやすさも兼ね備えている。さらに、走行モードを「スポーツプラス」にすると、アクセルを戻したときの排気音がいっそう強調され、気持ちが昂る。それはソフトトップを閉めた状態でもわかるレベルだが、雨が降らないかぎり、オープンで走ることが望ましい。なぜなら慣れれば1分ほどでできるとはいえ、格納に若干手間のかかるソフトトップはおまけみたいなものであり、通常はオープン状態で走るのがこのクルマの正しい使い方なのだ。硬派で潔いポルシェを望む方には最高のパートナーになることを保証する。

〈ポルシェ ボクスター・スパイダー〉
全長×全幅×全高:4414×1800×1262㎜
車両重量:1315kg
排気量:3799cc
エンジン:水平対向6気筒DOHC
最高出力:375PS/6700rpm
最大トルク:420Nm/4750~6000rpm
駆動方式:RWD
トランスミッション:6MT
価格:10,120,000円(税込)
(問)ポルシェ カスタマーケアセンター (0120-846-911
(撮影/小倉雄一郎)

この記事の執筆者
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。