プジョーのもうひとつの顔
日本におけるプジョーの存在感は、正直いってそれほど大きくない。それは1989年に日本法人が設立されるまで販売代理店がたびたび変わっていたことが一因だ(しかも日本法人が販売に本腰を入れ始めたのは2003年以降)。それでもイタリアの名門コーチビルダー、ピニンファリーナがデザインしたミドルセダンの「505」(1979~1991年)、同じくピニンファリーナがデザイン協力した小型ハッチバックの「205」(1983~1998年)は日本でも人気を呼び、フランスならではの質実剛健なつくりと上品なデザインを好む層に支持されてきた。一方、そうしたイメージは決して間違ってはいないものの、ヨーロッパではル・マン24時間やラリー世界選手権での華々しい活躍を背景に、スポーツカー好きにも人気が高い。このほど中核モデルの「308」に高性能バージョンが登場したので、日本ではいまひとつ馴染みのないプジョーのもうひとつの「顔」に迫ろうと思う。

 

モータースポーツ部門が仕立てた特別なクルマ

プジョーが新たにラインアップに加えたのは、「308GTi 270 by プジョー・スポール」。プジョー・スポールとはプジョーのモータースポーツ部門で、スポーツドライビングの要となるエンジンを中心に、徹底したチューニングが施されている。ベースとなる1・6リッターエンジンから最高出力で35%アップ、最大トルクも20%アップしているほか、トランスミッションを経てタイヤを駆動させる手前にあるファイナルギアも大きなものに変更され、加減速においてエンジンの力を効果的に引き出せる仕様になっている。足回りも同様で、サスペンションを専用チューニングしたほか、19インチのタイヤ&ホイールを装着し、フロントブレーキも赤く塗られた高制動キャリパー(ブレーキパッドを押さえつける部分)と大径ディスクで構成されている。

街でさりげなく乗るには最高

レーシングテクノロジーが投入された効果はてきめんで、アクセルを踏み込んでいくと、強大なパワーが姿勢変化やタイヤの空転によって失われることなく、がっちりと路面をとらえて加速していく。また、このクルマは前輪駆動だが、ハイパワー車にありがちなトルクステア(左右輪の駆動力に違いが生じること)も抑えられていて、あらゆる速度域、そしてカーブでハンドルを切りこんでいくときも自然な操作フィールを維持する。つまり、「パワフルでいて上質」なのだ。この素晴らしいパフォーマンスが最も真価を発揮するのはタイトなカーブが続くワインディングロードだが、週末の遊び限定にしておくのはあまりにももったいない。日常の速度域でも十分に気持ちいいのだから。スポーティなドレスアップパーツをまといながら品格を保つスタイリングも含め、大人の男がさりげなく乗るには最良のクルマだ。日本やドイツ製の高性能車ではなく、あえてフランス製のホットなハッチバックを選ぶ「粋」なジェントルマンは、少なくないはずだ。

〈プジョー・308GTi 270 by プジョー・スポール〉
〈プジョー・308GTi 270 by プジョー・スポール〉

全長×全幅×全高:4260×1805×1455㎜
車両重量:1320kg
排気量:1598cc
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
最高出力:270PS/6000rpm
最大トルク:330Nm/1900rpm
駆動方式:2WD
トランスミッション:6MT
価格:436万円(税込)
(問)プジョー・コール ☎0120-840-240

この記事の執筆者
TEXT :
櫻井 香 記者
2018.2.11 更新
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。