スポーツカーはパフォーマンスだけでは語れない
テクノロジーの進化は、スポーツカーにかつてないパフォーマンスをもたらしている。エンジンはより効率的に大きなパワーを生み出すようになり、ボディの素材やそれを支えるフレームはアルミやカーボンファイバーを含む複合素材の登場で、軽量・小型・高剛性化を果たした。また、トランスミッションはマニュアル操作よりも素早く変速できる2ペダル式のデュアル・クラッチ・トランスミッションが普及し、誰もがスポーツドライビングを楽しめるようになっている。スポーツカーづくりを得意とするブランドはみな、これらの条件を満たした高性能車をリリースしており、限界性能を引き出すのはプロドライバーでないと難しいほど。従って一般ドライバーである我々が、パフォーマンスに不満を感じることはまずない。むしろ際立っているのは各ブランドの個性だ。近年、スーパースポーツカーではイタリア勢の存在が際立つが、モータースポーツ発祥の地であるイギリスにも創業113年を迎える名門があることを忘れてはならない。アストンマーティンだ。

創業以来、スポーツカーをつくり続けてきた名門
映画「007」シリーズでもおなじみのアストンマーティンは、創業以来スポーツカーだけをつくり続けてきた。少量生産にしてイギリスらしいクラフツマンシップが発揮された仕立てと硬派なドライブフィールは熱狂的なファンに支持され、1950~60年代につくられた「DB」シリーズは、いまだに多くが現存しているといわれている。実車をみるとわかるが、いつの時代のモデルでも、重厚感と気品にあふれている。どこか貴族的なのだ。それは最新モデルでも変わることはない。去る2016年6月、東京・渋谷でアストンマーティンが登場するイベントが開催された。題して「THE BLACK TIE NIGHT」。セレクトショップのナノ・ユニバースとラグジュアリーで独特の個性を放つジュン・ハシモトとコラボレーションし、大人のパーティシーンを提案することを目的としている。会場前にはアストンマーティンが誇る12気筒モデル、「V12ヴァンテージ」(写真)と4ドアの「ラピード」が登場し、参加者によるナイトクルーズが行なわれた。

アストンマーティンは大人のパーティーでこそ映える
最新モデルはいずれも伝統をふまえたデザインのフロントグリルだけでなく、美しいスタイリングはよりモダンで流麗さを増し、道行く人の心を捉える。ややタイトでレーシーなコクピットはパネルの素材や操作ボタンのデザインに至るまで実に上質で、嫌味がない。黒とパープルをあしらったインテリアも、ほどよく遊び心が効いた絶妙な配色だった。世にスポーツカーは多々あれど、タキシードが似合うのはジェームズ・ボンドの影響を抜きにしてもこのブランドだけだ。だからこそ、絶対的なパフォーマンスを体験してもらうことよりも、最高のクルマと過ごすラグジュアリーな時間の創造に力を注ぐイベントとしたのだろう。「THE BLACK TIE NIGHT」は、今後東京だけにとどまらず、名古屋や大阪でも開催されるという。大人の男にふさわしい装いと立ち振る舞い、そして状況に応じたジェントリィなドライブテクニック。アストンマーティンのオーナーには、そのすべてが求められる。

 
 
この記事の執筆者
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。