70年代スーパーカーの追憶

1970年代に日本で爆発的ブームを巻き起こしたスーパーカーは、自動車好きにもそうでない者にも、強烈なインパクトを残した。空力性能を向上させる(と謳われた)エアロパーツをまとったスタイリングは地を這うように低く、ボンネットの下やキャビンの背後に収まる多気筒エンジンは猛獣のような雄たけびをあげた。エンジニアやデザイナーの理想を徹底的に追及した、高価で希少なスーパーカーに実用性など望むべくもなく、あるのはただひたすら独創的で、スピードをイメージとして具現化した「自動車芸術」だった。多くは排ガス規制やコスト高、あるいはブランドそのものの存在が消滅するなどして「絶滅」したが、その魂は70年代から飛躍的に進歩した技術を以て、現代のスーパー・スポーツカーに宿っている。

ル・マンで活躍するアウディの先進技術を搭載

現在、スーパー・スポーツカーは、高度な技術をもち、モータースポーツへの挑戦を続ける一部のブランドによってつくられている。スーパーカー時代から連綿と続くイタリアンブランドは特に有名だが、今回紹介するアウディ・R8は、21世紀になってから誕生したスーパー・スポーツカーで、2世代目が2016年春に日本へ導入されたばかり。近年、ル・マン24時間で圧倒的な速さを誇るレーシングカーの技術を随所に盛り込んでつくられた初代R8は、低重心化されたV8、V10エンジンを積み、伝統の4輪駆動システム「クアトロ」を採用。アルミ製のボディで構成されたスタイリングはミニマルな印象の強い、実にモダンなクルマだった。今でもイタリア系のスーパー・スポーツカーは押し出しの強いスタイリングを特徴としているが、アウディはレーシングカー譲りのパフォーマンスを理詰めでデザインしたのが画期的だった。

よりシャープに、逞しく進化!
 

 
 
 
 

そして2世代目となった最新のR8は、さらなる進化を遂げている。ボディはアルミに加えCFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)も取り入れた複合素材となり、V10エンジンは出力の異なる2種類をラインアップ(610ps・540ps)。スタイリングは先代を踏襲しているものの、ディテールがよりシャープになって、同じくモデルチェンジしたスポーツクーペのTTとの関連性を強く感じさせるようになった。とはいえ、大出力のエンジンを積んだ走りはR8ならではのもの。今回は540psモデルを一般道で体験したが、ターボチャージャーの助けを借りぬ自然吸気エンジンならではの、アクセルの動きに微塵のブレもないレスポンス、回転を増すごとに背後から湧き上がる咆哮、路面の段差を超えたときの、クルマ全体から伝わってくる確かな剛性感は、レーシングカーの世界観に限りなく近いものだった。それでいて普段使いにも耐えうる快適性をも備えていて、中低速でのクルージングも楽しい。70年代のスーパーカーはプロでも乗りこなすのが難しいと言われたが、R8は誰もが快適にスポーツドライビングを楽しめ、もしサーキットを攻めることになっても、最新の電子デバイスがドライバーのテクニックを補完してくれる。なによりも、怒涛のパフォーマンスを精緻なボディに秘めたジェントリィな佇まいがいい。現代のスーパーカーは、紳士にも広く門戸を開いているのだ。

〈アウディ・R8 V10クーペ 5.2FSIクアトロ〉
全長×全幅×全高:4425×1940×1240㎜
車両重量:1690kg
排気量:5204cc
エンジン:V型10気筒DOHC
最高出力:540PS/7800rpm
最大トルク:540Nm/6500rpm
駆動方式:4WD
トランスミッション:7DCT
価格:2456万円(税込)
(問)アウディ コミュニケーションセンター ☎0120-598106

この記事の執筆者
TEXT :
櫻井 香 記者
2018.2.11 更新
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。