「新国立劇場の2018/2019シーズンからのオペラ部門の芸術監督に大野和士氏が就任」。一昨年6月に発表されたこのニュースが、オペラ・ファンやクラシック音楽ファンの注目を集めた。
芸術監督とは、劇場や劇団、芸術に関する祭典などの運営における芸術面での最高責任者のこと。例えば、誰もがその名を知るウィーン国立歌劇場の歴代の総監督には、リヒャルト・シュトラウスやグスタフ・マーラー、ヘルベルト・フォン・カラヤンなど世界的に知られた音楽家が名を連ねる。言ってみれば劇場の顔。芸術監督が誰であるかによって、その劇場のあり方が変わってくる。それほど影響力があるだけに、ワーグナー作品の積極的な紹介などで日本のオペラ界に大きな貢献をし続けてきた飯守泰次郎前監督から大野氏へのバトンタッチがオペラ・ファンの興味を引いたのは当然のことだった。
本場、ヨーロッパの歌劇場でも喝采を受けてきた日本人指揮者
海外で活躍する日本人指揮者は少なくないが、ヨーロッパの歌劇場の第一線で約30年にもわたりオペラの指揮を任された大野和士氏の存在は別格だ。言葉も文化も違うオペラの本場ヨーロッパで、日本人の指揮者が認められるための努力は並大抵のことではないだろう。10年以上前になるが、NHKの人気ドキュメンタリー番組『プロフェッショナル仕事の流儀』に、「がけっぷちの向こうに喝采がある」というタイトルで大野氏がとりあげられたことがある(2007年1月25日放送)。その画面には、厳しい世界で、指揮者としての力量だけで勝負してきた大野氏の姿がリアルにとらえられていた。英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語と、4つの外国語を流暢に操り、自分の作品の解釈を歌手やオーケストラの演奏者たちに伝える場面も印象的だった。その姿を見て大野氏に強く惹かれた人は、クラシックファン以外でも多かったという。
そんな大野氏が、新国立劇場からにオペラ芸術監督の就任の依頼を受けた気持ちをこう語っている。
「そもそも子供の頃から人の声が好きでした。オーケストラの勉強を進めながら、いつかはオペラの指揮をしたい、より人の声について知りたいと思い、バイエルン州立歌劇場に留学し、幸いなことにヨーロッパの劇場で仕事をすることができました。私の中で、オペラづくりに対しての確信のようなものが培われた今こそ、新国立劇場の責務を果たせるのではないかと思ったわけです」(新国立劇場・情報誌・ジ・アトレ5月号より)
そして、いよいよ大野和和士 新国立劇場オペラ芸術監督が率いる2018/2019シーズン・オペラのスタートが始まる!
モーツァルトの不朽の名作『魔笛』で新シーズンの幕が上がる
大野和士 芸術監督による2018/2019シーズンの開幕を飾るのは、モーツァルトの『魔笛』の新制作。モーツァルトの四大傑作オペラといえば後期の4作を指すが、『魔笛』は彼の生涯最後の年に初演されて大成功をおさめた作品。加えて、いずれも哀しみを内包した笑いがあるといわれるモーツァルト・オペラの中でも、『魔笛』は、「おいらは鳥刺し」「パ・パ・パ」など珠玉の音楽が綴る愛と冒険のファンタジーで、オペラ初心者や家族でも楽しめる名作オペラとして親しまれている。
今回の上演は、南アフリカ出身の現代アートの巨匠で、オペラ演出におけるプロジェクションの魔術師として知られるウィリアム・ケントリッジによる話題のプロダクション。ベルギー王立歌劇場(モネ劇場)からの演出を委託され、2005年に初演されたのち、ヨーロッパやアメリカ、アフリカ十数か国で上演され、スカラ座や
大野和士 芸術監督の就任第1作にして、現代アートとオペラの世界で注目されるウィリアム・ケントリッジの演出による『魔笛』を新国立劇場で観ることができるとは! 胸高鳴るスリリングな体験になるにちがいない。
■新国立劇場 2018/2019シーズン
開幕公演:『魔笛』 [全2幕/ドイツ語上演 日本語字幕付]
公演日: 2018年10月3日(水)~14日(日)
会場:新国立劇場 オペラパレス/東京都渋谷区本町1-1-1
問い合わせ先
- TEXT :
- 堀 けいこ ライター