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マツダ「ロードスター RF」で行く、時空を超えた旅
ライトウェイトスポーツカーを復権させた初代「ロードスター」の功績
今回、紙幅の関係で取り上げることができなかったクルマも多いが、そのひとつが、マツダ「ロードスター」である。1989年、ユーノス「ロードスター」の名で颯爽とデビューした初代モデルをご記憶の方は多いはずだ。1950~60年代にかけて、イギリスやイタリアで人気を博したライトウェイトスポーツカーが、ニーズの多様化や排ガス規制の波にもまれて次々と姿を消していった80年代の終わりに、突如として現われたユーノス「ロードスター」は、かつて幌を開けて風と景色を楽しみながら、胸のすくようなスポーツドライビングを体験した往年のファンのみならず、パーソルナルな移動手段として、仲間と共に限りある時間を共有するコミュニケーション・ツールとして、そしてなによりもスポーツカーへの夢を抱き続けてきた若い世代にとって、最高のプレゼントだった。
「ロードスター RF」で東京~伊豆をドライブ
あれから28年。4世代目に進化した「ロードスター」の、それも電動開閉式ハードトップを内蔵した「ロードスター RF」を駆り、東京から伊豆半島の伊東まで、往復300kmの旅にでかけた。伊東を目的地とした理由は後述するが、ソフトトップの標準モデルではなく、ハードトップモデルを選んだ理由のひとつは、筆者が年をとったせいである。金はなくとも時間だけは十分すぎるほどあった初代モデルの時代なら、ひたすら一般道を走り続けたに違いないが、50歳を目前に控えた身としては、さすがにそこまでの気力・体力はないし、時間的余裕もない。移動の大半が高速道路である以上、屋根を閉めた状態で走ることが主体ということで、おのずと選択肢はハードトップモデルとなったわけだ。ただ、ひとつ断っておくと、ソフトトップモデルとて、屋根を閉めた状態での静粛性は以前のモデルと比べて格段に良くなっているし、高速走行で不便さを感じることはまずない。「ロードスター」は4世代に渡る進化の果てに、古典的なオープンカーとは比較にならないほどの快適性を備えるに至ったのだということを、強調しておきたい。
GTの快適性を備えた電動開閉式ハードトップ
とはいえ、やはりハードトップモデルの快適性は想像以上で、高速走行中でも屋根を閉めていると、オープンカーを操っているということを忘れるほど。現行モデルは先代よりもホイールベースを短縮し、初代に比べてわずかに4.5㎝長いだけだが、路面の継ぎ目などで足が過剰にバタつくようなことはなく、なによりも標準モデルよりも排気量の大きい2リッターエンジンの余裕は、このクルマをGT的なキャラクターへと変貌させている。GTといえば当然、長旅にも対応しうる荷室空間が不可欠だ。「ロードスター RF」の屋根は美しい開閉動作で(しかもスイッチ操作のみ!)効率よく収納され、標準モデルと同等の荷室容量を確保している。具体的には機内持ち込みサイズのスーツケースふたつが余裕で収まる広さであり、荷物のパッキング術を熟知した旅慣れた紳士には十分すぎるほど。なお、「ロードスターRF」はベースグレードの「S」、充実装備の「VS」、スポーティな装備を配した「RS」の3つが選べ、今回の旅に選んだのは「VS」の6MT仕様。特に気に入ったのは、レザー本来の質感を生かしたナッパレザー製のシートで、適度な張りと十分なクッションが味わい深い、ラグジュアリーな装備だ。
マイペースで走る楽しさを知る
東名高速道路を下車し、箱根のワインディングロードが迫ってきたのを見計らって屋根を開ける。東京の最高気温が30度近くまで上昇するという、5月にしては暑い日にも関わらず、湿度が低いおかげで気分は上々だ。「ロードスター RF」は、屋根を構成する後ろの部分を残しつつ、頭上が広く開く構造。風の巻き込みは少なく、ショートストロークのMTの、主に2~4速を使って、起伏と曲線に富んだ箱根~伊豆のワインディングロードをマイペースで駆け抜けるのがなんとも楽しい。「マイペースで」というのは、「力まず」と言い換えてもいい。大きくパワフルなスーパースポーツカーと違い、「ロードスター RF」はあくまでも実用域での気持ちよさを味わうためのクルマだ。攻めて攻めての繰り返しで限界を試すことだけがスポーツドライビングではないということを、このクルマは教えてくれる。
「ロードスター RF」と対を成す「三浦按針」
箱根~伊豆のワインディングロードを下り、伊豆半島の海岸沿いに出ると、ほどなくして目的地に着いた。旅の宿は、今年4月にオープンしたばかりの、「星野リゾート 界 アンジン」だ。全室オーシャンビューの建物は、もともと老舗の温泉旅館だったものを、星野リゾートが建て替えたもの。施設名にある「アンジン」は、江戸開府直前に現代の大分県に漂着後、徳川家康の命を受けて、日本初の西洋式帆船の建造を伊東の地で指導したイギリスの航海士、ウィリアム・アダムスこと三浦按針にちなんでいる。ロビーや客室には廃船の木材を再利用したオブジェをはじめ、随所に海や船旅をテーマにしたデザインが施され、命がけの旅の果てに日本で生涯をまっとうした異国の名士の面影と併せ、海と旅のロマンに浸れる気持ちのいい宿だ。旅の目的地をここに選んだのは、西洋の先進技術を日本にもたらした三浦按針と、古き良き欧州製ライトウェイトスポーツカーの魅力を蘇らせたマツダ「ロードスター」が、時空を超えて"対"を成しているように感じられたからだ。初代「ロードスター」の登場後、欧州の自動車ブランドからも同様のコンセプトを持つモデルが続々と登場した。海と陸との違いこそあれ、日本流の技術とデザイン哲学で世界に大きな影響を与えたマツダの功績を、東京~伊東間のロングドライブで再確認したかったのだ。
東洋的な美を突き詰めた「日本車の到達点」
宿では一足早く着いていた、マツダの中山 雅氏が出迎えてくれた。中山氏は「ロードスター RF」のチーフデザイナーである。氏曰く、スタイリングを煮詰めるにあたっては、「肉感的な西洋のデザインではなく、出し過ぎず、おとなし過ぎずの東洋的な美しさを追求した」という。前述したように、マツダ「ロードスター」は初代から一貫してショートホイールベースの設計を継承してきた。モデルチェンジのたびにボディや排気量を拡大するクルマが多いなか、この「変わらない勇気」は日本の誇りである。もちろん、変わらないのは基本コンセプトのみの話で、軽快感を保ちながらも動力性能を磨き上げ、誰もが自分のペースでスポーツドライビングを楽しめると同時に、「ロードスター RF」ではGTとしての魅力をも備えている。出発点こそ欧州への憧れを意識したクルマではあったが、今では他に類を見ない(そもそも同じモデルでソフトトップとハードトップを揃えていることが珍しい)モデルへと昇華したのだ。「ロードスターRF」もまた、日本車の到達点なのである。
夜は伊豆の旬の食材にイギリスのエッセンスをまぶした料理をいただきながら、中山氏と語り合った。話題は「ロードスター RF」のみならず、昭和50年代に大ブームを引き起こしたスーパーカーから大衆文化にまで及んだ。聞けば、「ロードスター」のオーナーは以前から平均年齢が高かったそうだが、現行モデルが登場してからは若い世代が購入する例も目立つという。それは実に喜ばしいことだし、さまざまなクルマを乗り継いできた紳士も、今一度このクルマの魅力に触れて欲しいと切に願う。マツダが長年に渡って熟成させてきた至高の逸品を味合わずに、"贅沢なるモータリング・ライフ"は語れない。
〈マツダ・ロードスター RF VS〉
全長×全幅×全高:3915×1735×1245㎜
車両重量:1100~1130kg
排気量:1997cc
エンジン:直列4気筒DOHC
最高出力:158PS/6000rpm
最大トルク:200Nm/4600rpm
駆動方式:2WD
トランスミッション:6MT/6AT
価格:357万4800~359万6400円(税込)
問い合せ マツダコールセンター TEL:0120-386-919
〈星野リゾート 界 アンジン〉
住所: 静岡県伊東市渚町5-12
問い合せ TEL:0570-073-011(界予約センター)
http://www.hoshinoresort.com/resortsandhotels/kai/anjin.html
- TEXT :
- 櫻井 香 記者