クルマには服と同様いろいろなスタイルがある。セダンやハッチバックやクーペはグローバルなスタイルだが、英国で好まれるファストバックも魅力的だ。アウディはじつはこのスタイルを好むメーカーで、2018年9月に日本発売された「A7スポーツバック」はいい出来だ。

古典的なスタイルに新しさをバランスよくブレンド

ボディサイズは全長4970ミリ、全幅1910ミリ、全高1415ミリ。
ボディサイズは全長4970ミリ、全幅1910ミリ、全高1415ミリ。
ファストバックスタイルは英国人も昔から愛してきたもの。
ファストバックスタイルは英国人も昔から愛してきたもの。

 アウディA7スポーツバックは初代が2010年に世に出された。1969 年に発表されたじつに魅力的な「100クーペ」にインパイアされたような、なだらかな傾斜を持った前後幅の長いリアウィンドウをもったハッチゲートが特徴的だった。

 高級車には大胆なスタイルだったが、成功した。4ドアクーペという新しいジャンルであるという触れ込みと、リアシートは完全にセパレート型となるなど新しい世代の高級パーソナルカーのイメージが奏功したせいだろう。

 新型A7スポーツバックも先代のイメージを継承しながら、最新のテクノロジーを盛り込んだのが特徴だ。日本に入ってくるのはA7スポーツバック55TFSIクワトロといい、3リッターV6ガソリンエンジン搭載車である。

 55はアウディが新しく採用しているグレード表記で、4リッターV8の「60」や3リッターディーゼルの「50」などもある。排気量とパワーとを勘案したもので、昨今のメルセデス・ベンツやBMWも同様の表記法を採用している。

 このクルマに注目してもらいたいのは、さきに触れたような英国人好みのファストバックによるパーソナル性だ。自分でステアリングホイールを握るドライバーにぴったりのスタイルである。後席の存在感をあえて小さく見せている。

 実際にドライバーが楽しめるクルマに仕上がっている。ぼくは今春に南アフリカ共和国ケープタウンで試乗した経験もあるが、日本に入ってきたモデルに乗ってみて、印象はさらによくなった。

 理由はエンジンパワーが車体に対して十分以上であること。加えてサスペンションシステムの設定がよく、足回りがしっかりしていて、快適性とスポーツ性が両立している。さらに「ダイナミック・オールホイール・ステアリング」という後輪の操舵システムも用意されている。

 おかげで全長は4.9メートルあるが、驚くほど小回りがきき、ちょっとたとえが乱暴だけれど、ゴルフGTIに乗っているような気分のよささえ味わえた。

 時速65キロ以下では後輪は前輪と反対の向きに切れて小回りが効くようになる。小さなカーブでは効果てきめんで、すいすいと狭い山道だろうが速いペースでこなしていける。

 高速になると、今度は後輪が同位相で動く。メリットは安定性が増すところにある。ホイールベースは2925ミリ。それがさらに長くなったのと同じ効果だとアウディでは説明するが、実際に安定した気分で巡航できるのは間違いない。

 アウディA7スポーツバックの「うまさ」は、さきに触れたようにファストバックというベントレーやアストンマーティンでも知られるスタイルを採用しながら、スタイリングの細部や、インテリアに新しさをしっかり盛り込んだバランス感覚だ。

 LEDを使ったマトリックスヘッドライト(オプションではレーザービームも選べる)や格納式スポイラーは現代では重要な機能部品だが、古典的な美しさのあるシルエットとうまく融合している。

ドイツのあのブランドからも注目の的!

インテリアは伝統的な高級感に、最新のテクノロジーが組み合わされている。
インテリアは伝統的な高級感に、最新のテクノロジーが組み合わされている。
慣れると使いやすい2つのモニターで構成される「MMIタッチレスポンス」。
慣れると使いやすい2つのモニターで構成される「MMIタッチレスポンス」。
後席は空間的な余裕があり長尺ものを搭載するときはバックレストを倒せるなど機能的。
後席は空間的な余裕があり長尺ものを搭載するときはバックレストを倒せるなど機能的。

 インテリアも同様だ。今回、物理的なスイッチを極力廃した「MMIタッチレスポンス」なる機構が採用されている。メーターがナビゲーションマップなども表示されるデジタル式であるのに加え、ダッシュボード中央に10.1インチと8.6インチという2つのモニター画面が設けられている。

 モニター画面では「走り、曲がり、止まる」いがいのほとんどの操作が指先でできる。スクリーン上のアイコンでインフォテイメントも空調もナビゲーションも操作する。

 ぼくがいいなと思ったのはナビゲーションマップでよく使うもの、たとえば自宅などをアイコンとして画面に置いておけることである。ナビゲーション画面を操作することなくアイコンひと押し(スマートフォンみたいな感覚)でシステムが起動する。

 室内はアウディ流の、ようするに質の高いものだ。前席重視と書いたけれど、ベンチシートタイプでいざとなれば3人がけも出来る後席は大人ふたりに十分なスペースだ。ハッチゲートも使いやすく、行動派のためのパーソナルクーペである。

 ぼくはケープタウンでの試乗会のあと、メルセデス・ベンツCLSクーペの試乗会に参加した。そのとき開発担当者から「新しいA7スポーツバックはどうだった?」としきりに質問された。このマーケットは熱いなあと、そのとき、つくづく思ったものだ。

 A7スポーツバック55TFSIクワトロの価格は、標準モデルとなる「S-line(エスライン)」が1066万円だ。ほかに「debut package」(988万円)もある。

 加えて標準モデルに「エクステンデッドレザーのインテリア」「バング&オルフセンのサウンドシステム」「ダイナミック・オールホイールステアリング」「ダンピングコントロール・サスペンション」などを装備した「1st Edition」(1058万円~)が発売された。

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この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。
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