快適で多機能なSUVは、今や世界の自動車のスタンダード。英国製高級車ブランド、ロールス・ロイスからも、初のSUV『カリナン』が発表された。まるで同社のサルーンをそのまま背高仕様にしたようなスタイリングは、「3ボックスの全地形対応型ハイボディ」とうたわれる。アメリカでいち早くステアリングを握ったライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏が、その出来栄えをリポートする。

オフロードでの楽しみは、英国人に教わろうではないか

全長5341ミリ、全幅2000ミリ、全高1835ミリ。
6.75リッターV12ツインターボエンジンは最高出力420kW@5000rpmと最大トルク850Nm@1600rpmを発生。
電子制御ダンパーを活かしたフラットな乗り心地の「マジックカーペット・ライド」が特徴。
ジャクスンホールの空港はプライベートジェットが多く『カリナン』はここにも似合う。

 ロールス=ロイスが全長5.3メートルを超える威風堂々たる大型SUV『カリナン』を発売した。試乗会の場所は西部劇で知られるワイオミング州だったが、そこはじつはロールス=ロイスのクルマづくりの哲学をお披露目するのにいい場所だった。

『カリナン』は日本では2018年6月に発表されたロールス=ロイス初のSUVだ。6.75リッター12気筒エンジンにフルタイム4WDシステムの組み合わせである。特徴は「エフォートレス、エブリホエア」。どんな場所でも変わらず走れることを念頭に開発されたという。

 試乗会の場所はジャクスンホールという。夏は過ごしやすく、冬はスキーリゾート至近で、富裕層に人気が高い。空港にはプライベートジェット機が、日本のスーパーマーケットの駐車場のように、ぎっしりと駐機されている。

 イエローストン・ナショナルパークまで90マイルという立地であり、ジャクスンホールの小さな街を出ると、すでに平野あり山あり川ありの自然が広がる。こういう場所が選ばれたのは、カリナンという車名とも関係あるようだ。

 ロールス=ロイスはこれまでにゴーストやファントムなど実体のはっきりしないものを車名に選んできた。ところがカリナンは1905年に(ボーア戦争直後の)南アフリカのカリナン鉱山で見つかった、3106カラットという世界最大のダイヤモンドの原石が車名の由来となっている。

 じつはここには英国人的な言葉遊びがある。なぜ今回はカリナンかというと、「ダイヤモンド・イン・ザ・ラフ」という表現とひっかけてのことだとか。日本語にすると大きな才能を感じさせる人物なる意味だ。もうひとつ、字義どおりに解釈すると、荒れ地のダイヤモンド(カリナン)ということになる。

走りもタッチも作法どおり!

操作系にタッチコントロールを使わなかった理由として「オフロードの時は物理的なスイッチのほうが確実だから」とはデザイナーの弁。
写真の後席はベンチシート型の「ラウンジシート」。
中央に大きなセンターコンソールを持つセパレート仕様の後席。

 クルマは850Nmの大トルクを1600rpmという低い回転域から発生するため、ごくわずかアクセルペダルを踏んだだけで、ぐいぐいと走る。力はものすごいが、頭がのけぞるような加速はしないところが上手だ。

 ラフロードでも「エフォートレス」に走る。22インチの大径ホイールだが、路面のショックはほとんど伝わってこない。電子制御ダンパーを備えたサスペンションシステムは、つねに変わらぬ乗り心地をもたらすことを主眼に設定されているようで、未舗装の路面でも後席の乗員は、舗装路だと思っても不思議ではない。

 オンロードではまさにオンロードを楽しむように走れる。強大なパワーは走行モードに応じてていねいに制御され、同時に車体のロールなども適切にコントロールされている。その気になればかなり速いペースでコーナリング出来る。楽しめるクルマである。

 車内の作りはまさにロールス=ロイスの世界そのものだ。ぜいたくな素材は見た目だけでなく手触りにもすぐれている。シートのクッションはよく、すべての操作類はまさに適度な重さを持つ。

 車内からドアを閉めるときはボタンで行うが、最後にドアが完全に閉まるときの音もカチャリと品がよい。ロールス=ロイスのような高級車はとくにドアは「押す」ように閉めるのだが、その作法どおりに閉まるのだ。

「ベストのものをよりよくする」。ロールス=ロイスの創設者であるサー・フレデリック・ヘンリー・ロイス(1863年〜1933年)はかつて述べている。これを今回、SUVの『カリナン』の発表の際、ロールス=ロイスは引用している。その言葉はこう続くのだ。「ベストがなければ作ればよい」

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この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。