2018/2019シーズンのMET(メトロポリタン・オペラ)は、フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督として人気の高いヤニック・ネゼ=セガンが音楽監督に就任するというビッグ・ニュースで、まず話題を呼んだが、発表されたラインナップの中で注目されたのが、映画で知られる『マーニー』のオペラ版だ。

『マーニー』の原作は1961年発表のウィンストン・グレアムの小説だが、アルフレッド・ヒッチコックにより1964年に、前年の『鳥』(The Birds)に次いで映画化された。『鳥』と同じく“クール・ビューティ”ティッピ・ヘドレンが主演。子供の頃のトラウマのせいで犯罪を繰り返す美女マーニーを印象的に演じた。

ヒッチコック映画『マーニー』より。主演女優ティッピ・ヘドレン(右)と相手役ショーン・コネリー。 写真:Album/アフロ

 METのオペラ版でマーニーを演じるのは、イザベル・レナード。1982年生まれ。2007年にオペラ・デビューした、METを中心に世界的に活躍するメゾソプラノ歌手。この役に相応しい容貌の持ち主でもある。

 そのレナードと同じ頃にやはりジュリアード音楽院で学んでいたのが、『マーニー』の作曲家、ニコ・ミューリー。1981年生まれ。クラシック、ポップ、両方の分野で活躍していて、自身のアルバムを発表するほかに、ビョーク、フィリップ・グラス、グリズリー・ベア、アントニー&ザ・ジョンソンズといった個性的なミュージシャンたちとのコラボレーションでも知られている。ジャンルを軽々と超える期待の作曲家だ。

’60年代的な華やぎに陰影を加えた美しい色彩感にも注目

手前がイザベル・レナード。周りの女性は複雑な彼女のエゴを表わす分身。衣装の色合いが美しい。ⓒKen Howard/ Metropolitan Opera

 ミューリーのオペラ前作『トゥー・ボーイズ』(Two Boys)は、2011年にイングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)で初演されて評判を呼び、2013年にMETで改めて上演された。その成果を踏まえて、『マーニー』はENOとMETでの共同制作となり、まずは昨年秋にENOで上演されている。その時ニューヨーク・タイムズに載った劇評の見出しが、「ニコ・ミューリーの『マーニー』はヒッチコックを21世紀に連れてくる」だった。

ヒロインのクールな表情は映画のまま。コートのデザインと色に注目。ⓒKen Howard/ Metropolitan Opera

 緊張感あふれる音楽は聴きどころ満載だが、舞台を観て印象的なのが色彩感。ことに服装。時代設定の1960年代を象徴するようなポップで華やいだ色使いでありながら、暗色系の照明や背景との関係で、そこに不思議な陰影が加わる。それが登場人物たちの不安感を映し出すと同時に、物語に奥行きを与えてもいる。

 抽象的なパネル使いの中に置かれる時代を感じさせる家具類というセットや、巧みなプロジェクションも、そうした世界観を効果的に支えている。

 演出はミュージカル『春のめざめ』(Spring Awakening)でトニー賞を受賞したマイケル・メイヤー。

 物語はもちろんサスペンスフルで、時に映画とは違った展開も見せる。が、それは言わぬが花。ぜひ、ライブビューイングで確認していただきたい。

メトロポリタン・オペラ・ハウス前の『マーニー』のビルボード(筆者撮影)

■METライブビューイング『マーニー』上映期間2019年1月18日~1月24日(詳しくは下記サイトで)

※衣装デザイン担当のアリアンヌ・フィリップスの発言によれば、参考にしたのは'60年代ではなく'50年代の衣装だそう。

 https://www.shochiku.co.jp/met/program/855/

この記事の執筆者
TEXT :
水口正裕 ミュージカル研究家
2018.11.27 更新
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年。オンのミュージカルは99.9%網羅。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」