シートがふたつしかないスポーツカーは、最も趣味性の高いクルマといえるだろう。たくさん売れることはないけれど、そのわりに選択肢はそこそこある。だから手に入れるときは、自分のスタイルや感性に一番しっくりくるモデルを選びたい。新しいモノ好きという条件を加えるなら、筆頭はBMW「Z4」。日本発売に先駆けて海外で試乗を行ったライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏が、その魅力をリポートする。

走りを強化した2シーターオープン

Z4 M40iは3リッター直列6気筒エンジン搭載の後輪駆動。
Z4 M40iは3リッター直列6気筒エンジン搭載の後輪駆動。
全長は先代より85ミリ伸びて4324ミリに、全幅は74ミリ拡大して1864ミリに、全高は13ミリ高くなって1304ミリに。グリルから縦バーがなくなりメッシュとなった。
全長は先代より85ミリ伸びて4324ミリに、全幅は74ミリ拡大して1864ミリに、全高は13ミリ高くなって1304ミリに。グリルから縦バーがなくなりメッシュとなった。
空力が考えられているがそれでいて美しい表情を持つ面構成。風の巻き込みはかなり少ない。
空力が考えられているがそれでいて美しい表情を持つ面構成。風の巻き込みはかなり少ない。

 クルマは道具ではない「趣味」である。地球環境や家族も大事だが、あえてそう言い切ってしまいたい時もある。同意してくれる男性たちに勧めたいのが、BMWが発表した新型「Z4」だ。

 新しいZ4は2018年夏に米西海岸のクラシックスポーツカーのイベントでお披露目された。いらい世のスポーツカー好きの注目を集めている。先日、このクルマにポルトガルで試乗することができた。

 最新モデルの特徴は、最新のパワフルな直列6気筒と、新開発の4気筒エンジンを、従来よりエモーショナルな雰囲気が強くなった2人乗りのオープンボディに搭載しているところにある。

 車体は以前よりコンパクトなホイールベースを持つが、いっぽうでトレッドは前後ともに拡大し、走りを強化しているのがわかる。さらにシャシーの剛性は上がり、トップモデル(つまり最もスポーティなモデル)では電子制御ダンパーやスポーツディファレンシャルギアも組み込まれているのだ。

 はたして操縦したフィールは、まぎれもないスポーツカーだった。Z4というとかなりスポーティなGTというイメージがあるかもしれないが、今回の新型はポルシェ718ボクスターに真正面から挑むのに十分な操縦性をそなえているのだ。

 リスボン郊外で乗ったのは、6気筒搭載の「Z4 M40i」だ。250kW(340ps)の最高出力に500Nmの最大トルクを持つ後輪駆動である。パワフルでかつ高回転型のすばらしいエンジンであることはこれまでにも体験ずみだが、俊敏なシャシーとの組み合わせは最高と思えた。

 息をのむような加速性を持ちつつ、トルクの出方が気持ちよい。この繊細なチューニングはまさにエンジンメーカーを自称するBMWの真骨頂だろう。回転が上がるのは一気呵成なのだが、同時にトルクが積み重なっていく加速感にはしびれる。

 サスペンションもたいへんよい。Mがつくグレードだが、けっしてがちがちの設定でなく、しなやかに動く。高速では快適だ。ひたすら感心させられるのはワインディングロードである。

走らせる自分の姿がおのずと目に浮かんでくる

ソフトトップを閉めると静粛性はかなり高い。
ソフトトップを閉めると静粛性はかなり高い。
低いドライビングポジションだが快適性はGTなみ。
低いドライビングポジションだが快適性はGTなみ。
新世代のインフォテイメントシステムで利便性がうんと上がっている。
新世代のインフォテイメントシステムで利便性がうんと上がっている。

 リスボンから少し離れて海岸のほうへ走ると、海沿いの崖に楽しく走れる屈曲路がある。コーナリングは新型Z4でもっとも印象に残る特徴だ。入り口でステアリングホイールを切ったときの車体の傾きは抑えられ、意外なほどフラット感が強い。特性はほぼ完璧なニュートラルで、行きたいラインをおもしろいようにきれいになぞって走ることができるはずだ。

 8段のオートマチック変速機はドライバーの意思をよくくんでくれる。とばしたいときは、低めのギアをホールドして、トルクバンドのもっとも太いところをキープするので、アクセルペダルの微妙な踏み込みへの反応のするどさは特筆ものだ。

 ドライブモードセレクターで「ノーマル」を選べば(おそらく一般的な使用ではこれを選択するひとが多いだろう)早めのシフトアップで燃費もかせいでくれる。より気持ちのよいドライブを望むなら「スポーツ」がいい。

 スポーツカーが欲しくてこのクルマを手に入れたならこの「スポーツ」モードが最もおすすめだ。さきに触れた反応のいいハンドリングやエンジンフィールなど、新型が備えている特質がたっぷり堪能できるからだ。

 クルマとの一体感というけれど、「スポーツ」あるいはその上の「スポーツプラス」では、まさにそのとおりの操縦感覚が味わえる。ハンドリングの気持ちよさ、加速と減速の反応の高さ、それにブレーキ性能の高さはみごとだ。

 リスボンの海岸線を走っていたとき、私は鳥の目になって離れたところから、フルオープンのこのクルマを走らせる自分の姿を想像していた。南仏のコルニッシュでも米国のパシフィックコーストハイウェイでもあるいは熱函道路でも、優雅な雰囲気のなかでスポーツドライビングを楽しむ姿が似合うクルマだからだ。

 こういう想像を楽しませてくれるクルマは貴重だ。思い込みこそ人生を楽しくしてくれるからだ。それはファッションやワインやウィスキーあるいはシガーなどの嗜好品、あるいは旅のホテルえらびと同様だ。こうありたい自分がなくなったら人生は味気ないものになってしまう。

 ソフトトップは閉めていると驚くほど静粛性が高い。いっぽうでオープンにすると、スポーティな走りに加えて爽快という、クーペの2倍の「おいしさ」が味わえるのもよい。時速50キロまでなら走りながら10秒でオープンまたはクローズドに出来る。

 さきに触れたようにホイールベースは少し短くなったが、荷室の容量は従来の1.5倍になっている。ゴルフなどに行こうと思っているひとには朗報だろう。おそらくこのクルマだと、行きは適度に気分を高揚させてくれるいっぽうで帰路は快適だろう。

 インフォテイメントシステムの性能も上がっており、ナビゲーションもハンズフリーフォンも音楽も、操作感が向上している。日本には2019年の導入だろうが、そのときはひょっとしたら、「ヘイ、BMW」との呼びかけにクルマが応えてくれるボイスコントロールも搭載されるかもしれない。

 日本には今回試乗した3リッター6気筒モデルと、新開発の2リッター4気筒モデルが導入されると聞いた。後者のエンジンがまたすばらしいのは、他のモデルで体験した。こちらのモデルも楽しみだ。趣味の大切さを理解する男(女性でもいいが)のために、BMWはやってくれた。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。