イタリアのタイヤメーカー、ピレリは長らく女性をモチーフにした、刺激的で美しいカレンダーをリリースしてきた。2019年版では世界で活躍する4人の女性が、まるで映画の場面を演じているような写真で構成される。ミラノで行われたお披露目の場に駆けつけたのは、ライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏。今回のカレンダーに込めた写真家の意図を取材してきたので、ご覧いただこう。

2019年版は映画仕立て!

刷り上がったカレンダーを見る仏の女優レティシア・カスタ。
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レティシア・カスタとセルゲイ・ポルーニン(カレンダーより)。
ジジ・ハディッド(カレンダーより)。

 英国には「ピクチャレスク」という室内装飾の様式がある。日本庭園ならさしずめ須弥山を池と築山で再現したり枯山水を作ったりするところ、彼の国では窓を額縁に見立て、そこから見える景色をギリシアの廃墟として構成するスタイルである。

 壁を使うやりかたはこのようにさまざまだが、絵画もいい。イタリアのピレリ社が毎年ごく限られた数だけ作る「ピレリ・カレンダー」もまた、アートのように紳士の部屋の壁を飾るのにふさわしいものだ。

 ピレリ・カレンダーは1964年に初めて制作され、いらい、今日にいたるまで続いている。特徴は、高名な写真家を起用してのぜいたくな作りにある。モチーフが女性の「美」というのも連綿と続く主題だ。

 これまでピレリの依頼で撮影をしたのは、サラ・ムーン氏、ハーブ・リッツ氏、リチャード・アベドン氏、ブルース・ウェバー氏、スティーブン・マイゼル氏と、錚々たる面子が並ぶ。興味ぶかいもう一点は、近年は女性の美を裸体にのみ求めるでなく、内面に見つけ出そうという写真家たちの試みだ。

 2019年版を手がけた英エディンバラ出身の重鎮アルバート・ワトソン氏は、「DREAMING」というタイトルとともに、4人の被写体を使って映画のような場面を作り上げた。たとえば、バレエダンサーのミスティ・コープランドは、男性バレエダンサーのカルビン・ロイヤル三世と「共演」して、成功を目指すダンサーをカレンダーのなかで演じている。

 2018年版はティム・ウォーカー氏がアフリカ系キャストのみで「不思議の国のアリス」の世界を作った。2017年版はピーター・リンドバーグ氏が14人の女性を撮影。なかには大学の教授も含まれていた。目的は「女性の美を従来とは違った視点で表現すること」とリンドバーグ氏は説明していた。

周到な準備のもとにつくられた作品にはメッセージがある

「モネの絵のように」とワトソン氏が語ったジュリア・ガーナーのカット(カレンダーより)。
美しいポーズを見せるミスティ・コープランド(カレンダーより)。

 2018年12月初旬にミラノで今回のカレンダーのお披露目が行われた。メインイベントはおおぜいのゲストが招かれてのガラディナーで、それに先立ち、記者会見やインタビューが設けられた。

「私はたんなるポートレートの撮影にしたくありませんでした。映画の1シーンのように作りこみ、それを通して観るひとに、今日の女性の前向きな姿を伝えられたらと考えました」

 1942年生まれのワトソン氏は、老いをいっさい感じさせることなく、ひたすらエネルギッシュな語り口で、今回のカレンダーに込めた意図を説明してくれたのだった。

「ほかの写真家による過去のピレリ・カレンダーをチェックして、同じようにやるのはやめようと(当然)考えました。そこで映画仕立てにして、場面からメッセージが伝わるようにしたいというのが私の狙いだったのです」

 とうぜんセット作りには時間と手間をかけたそうだ。たとえばジュリア・ガーナーが古いピックアップトラックに乗っているシーンがあるが、イメージにぴったりものを選ぶため30台用意してもらったそうだ。また、雨を降らせたマイアミでの撮影のためには、ガーナーに60着のキモノを準備して臨んだという。

 技術的なことをもうすこし書くと、ワトソン氏は16対9という映画のワイドスクリーンのフォーマットであえて撮影。照明にも凝りまくった、と楽しそうに説明してくれた。

「ふつうの電源をとるストロボ、バッテリー式のストロボ、タングステンライト、それらのミックス、さらに太陽光と、理想の光線のためにあらゆる組み合わせを用いています。絵コンテも用意して、周到な準備をしました。それをやれば自分の望む写真は撮れるのです。それを怠っている若い写真家のなんと多いことか」

 最後はお小言で締めくくられたのがおかしい。なにはともあれ、米の女優のジュリア・ガーナー、モデルとタレントをこなすジジ・ハディッド、バレエダンサーのミスティ・コープランド、仏の女優のレティシア・カスタは、そのようにしてワトソン氏が作りだした世界でマジックモメントを作り出してくれているのである。

 しかも共演として、ウクライナ出身の元バレエダンサー、セルゲイ・ポルーニンと、アメリカンバレエシアターのカルビン・ロイヤル三世が登場している。ダンサーを夢見る役どころだったりするのだが、緊張感あるポーズがとても印象的だ。

 すでに大筋は多くのウェブサイトで紹介されているのでご存知のひともいるだろうが、4人の女性は通常のカレンダーをはるかにしのぐ40カットに及ぶページのなかで物語をつむいでいる。

 ジジ・ハディッドはマンハッタンの高層ビルに住む恋に破れた女の役だ。ファッションデザイナーのアレクサンダー・ワンが彼女の唯一の友人を演じている。

 ジュリア・ガーナーは植物を中心に自然を撮る新進気鋭の写真家として描かれる。演じるのは難しかった?という質問に対して「コンテがものすごくしっかりしているので意思疎通がしっかり出来ました」と答えてくれた。

 レティシア・カスタは成功を夢見る画家だ。一緒に暮らすパートナーはセルゲイ・ポルーニン扮する若きダンサーで、ふたりでタンゴを練習したりする。

 ミスティ・コープランド(とカルビン・ロイヤル三世)は大舞台に立つことを夢見るダンサーである。みな未来を見ている。「それがタイトルのドリーミングなのです」とワトソン氏は説明してくれた。壁に飾っておくとパワーがもらえそうではないか。

 ガラディナーは各界の名士が招待されてのブラックタイ・ルールである。司会は米の女優ハル・ベリーだった。美しいシェイプを維持して脚線美を誇らしげに見せつけてくれた。もちろんそれだけでない。イタリア語にスペイン語が混ざったりしたものの、それもご愛敬で、上手なおしゃべりで雰囲気を盛り上げてくれた。

記者会見で勢揃い。左から、セルゲイ・ポルーニン、ミスティ・コープランド、ピレリ社のマルコ・トロンケッティ・プロベラ副会長、レティシア・カスタ、アルバート・ワトソン、ジュリア・ガーナー、アストリッド・エイカ(ガーナーと共演)、カルビン・ロイヤル三世。
ガラディナーの席はカレンダーの表紙のイメージで美しく飾られていた。
ガラディナーの司会を務めたハル・ベリー(左)とアルバート・ワトソンとマルコ・トロンケッティ・プロベラ副会長。
ガラディナーの一コマ、ジジ・ハディッド(テーブル中央)とジュリア・ガーナー(左端)ら。
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この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。
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