外界と繋がりたかったから、一軒家を希望して生まれたのが『サード・ラジオ』

1985年に『セカンド・ラジオ』を作られました。

『バー・ラジオ』の内装を新たにしてから、少し経った後ですね。青山霊園の下にある南青山2丁目に作りました。

『セカンド・ラジオ』の内装
『セカンド・ラジオ』の内装

これは杉本さんを通してサントリーから、消費者のお酒のレベルを上げるために良いバーを作ってほしい、との依頼でした。当初、私はサントリーの紐付きでやりたくないと断ったのです。そうしたらサントリーのお酒やロゴ入りのグラスを使わなくてもいいから、と資金を貸してくれました。

スコットランドやロンドンの仕入れも一緒に回ってくれたので、満足のいく品揃えができました。でも杉本さんにインテリアをお願いしたら、サントリーの資金の倍ぐらいかかりましたけれど(笑)。

私も未熟であって、店作りにモダンデザインの力を借りようとしていた時代でした。そしてこの店のインテリアデザインは失敗でした。私は柔らかなものが好きですが、ここは無機質で情緒がありませんでした。内装ができた後も私が少しずつ手を加えていきました。

都会的な内装の『バー・ラジオ』、『セカンド・ラジオ』とは異なり、1998年にできた『サード・ラジオ』は古民家の一軒家です。

『バー・ラジオ』は半地下、『セカンド・ラジオ』は完全な地下でした。だから次の店は狭くていいから、外界と繋がりたかった。窓から雪が降る風景を見たかったのです。

奥に見える、カーテンがかかった窓からの風景が尾崎氏のお気に入りだ
奥に見える、カーテンがかかった窓からの風景が尾崎氏のお気に入りだ

ビルにあるお茶室は坪庭を作るでしょう。この物件も、もし外が見えなかったら小さい庭を作ろうと思っていたのですよ。人間って自然があるとほっとするでしょう。私が店に生花を切らさない理由も、生の花を見ると神経が休まるからです。そしてデザインしたことを感じさせないよう、天然の木を使い、土壁にして古民家風の内装にしました。

店内のカウンターと各テーブルには尾崎氏やスタッフが生けた花が飾られ、ゲストの心を潤わす
店内のカウンターと各テーブルには尾崎氏やスタッフが生けた花が飾られ、ゲストの心を潤わす

だから3店の中で一番立地を気に入っているのは『サード・ラジオ』です。先の2店は紹介で、私が見つけたのはここだけですから。表参道の駅も根津美術館も近いですし、奥はまだ高級住宅地。高級店が揃っていますしね。土地の価格が防波堤になって、安っぽいものが進出できないところが良いのです。

でも一番思い入れがあるのは、時代もありますが神宮前の『バー・ラジオ』です。おもしろい人種がたくさん集まっていましたから。

日本のバー文化の原点・銀座に対して尾崎氏が思うこと

お話をうかがう中で、銀座というワードがよく出てきます。尾崎さんにとって、銀座とはどのような街ですか?

かつての銀座には憧れのものがたくさんありましたね。『バー・ラジオ』を始めて、7年ほどしてからお客様に『クール』(※1)と『サン・スーシー』(※2)に連れて行ってもらいました。どちらも、いきなり行っても入れませんから。

伝統ある古いバーの良さに初めて触れました。同時に銀座で古格のバーテンダーの美意識にも。臭うポマードをこってりつけて、紐みたいなネクタイをして、毛糸のチョッキを着ていたのです。とはいえ、今も一流店が揃う銀座が一番格調を保てていますし、界隈のバーのレベルは高いです。

初めて銀座の老舗バーに訪れた後、改装した『バー・ラジオ』。スチールを象嵌したカウンターが目を引く
初めて銀座の老舗バーに訪れた後、改装した『バー・ラジオ』。スチールを象嵌したカウンターが目を引く

でも銀座にも南青山同様、コンビニやドラッグストアが出店し始めているでしょう。パリやロンドンは、そういった店を受け入れませんよね。パリのマクドナルドは内装を現地仕様に変えさせていますが、最低限それはしないといけません。だからパリやロンドンは街並みがピシッとしている。

一度、美というフィルターに通してほしいのです。崩れ始めたら、崩れっぱなしになります。上にいる人間に、ピシッと締めておいてほしいですね。

※1 1948年オープン。名バーテンダー古川緑郎氏による銀座を代表したバー。2003年閉店。
※2 1929年オープン。交詢社ビルに店舗を構え、当時珍しかった洋酒を提供して人気を博した。2002年閉店。
尾崎浩司さん
『バー・ラジオ』マスター・華道小原流教授
1944年生まれ。1972年『バー・ラジオ』、1986年『セカンド・ラジオ』、1998年『サード・ラジオ』をオープン。茶道の美意識を基に、独学でバーテンダーとしての現在のスタイルを作り上げる。現在は『サード・ラジオ』を改め『バー・ラジオ』の1店を営業中で、尾崎氏は月に10日ほど店に立っている。華道小原流教授。
井上大輔さん
バー『ARTS(アーツ)』のオーナーバーテンダー
南青山3丁目にあるバー『ARTS(アーツ)』のオーナーバーテンダー。尾崎氏を思慕するバーテンダーの一人。尾崎氏の美意識を追求する姿勢を敬愛し、自らもバーとはおいしい酒を嗜む文化・芸術の実験的空間と捉え、店名を『ARTS』とする。
この記事の執筆者
フリーランスのライター・エディターとして10年以上に渡って女性誌を中心に活躍。MEN'S Preciousでは女性ならではの視点で現代紳士に必要なライフスタイルや、アイテムを提案する。
PHOTO :
小倉雄一郎
COOPERATION :
ARTS
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