ミシュランの星を持つ唯一の日本人シェフ

ミラノ本店だけでなく2019年2月には待望の2号店を東京に開店予定の徳吉洋二シェフ

 現在ミラノでミシュランの星を持つ唯一の日本人、徳吉洋二シェフはモデナの「オステリア・フランチェスカーナ」で長くセコンド・シェフとして活躍。2015年にミラノに「TOKUYOSHI」をオープンすると同年末にはミシュラン1つ星を獲得。現在は日本やイタリアのみならず世界各国から料理イベントに招聘される、イタリアのファイン・ダイニング界を代表する1人となっている。

視覚でも楽しませてくれる

前菜の「フィッシュ・アンド・チップス」は薄くあげたジャガイモのチップスにサーモンとイクラをトッピングしたフィンガーフード
「ピッツァ・カプリッチョーザ」とは気まぐれピッツァの意味。テイクアウト用のピッツァ・ボックスを開けると中からは「TOKUYOSHI」風ライス・ピッツァが登場

「TOKUYOSHI」の料理は「GYOTAKU 魚拓」に代表されるように一目見てそれとわかる代表的な料理、いわゆるシグネチャーディッシュが多い。

この夜前菜で登場した「Fish & Chips フィッシュ・アンド・チップス」もそのひとつだろう。これは薄切りにしたジャガイモのフリットとサーモン、イクラをあわせた一口サイズのフィンガーフード。料理に遊び心を取り入れるのも徳吉シェフの特徴の一つだが、これは言うは易く行うは難し、で一朝一夕にできるものではない。

続いて登場したのが「Pizza Capricciosa ピッツァ・カプリッチョーザ」だが、1つ星レストランでピッツァ? いやいや、これは徳吉シェフならではの遊び心あふれた料理で、テイクアウト用のピッツァ・ボックスに入って登場。いざ蓋を開けてみると小さな一口サイズのピッツァが現れるという演出。

これはピッツァ生地ではなくライスクラッカーの上にクリームチーズとエディブルフラワーをトッピングした一口サイズの儚いピッツァ。

徳吉シェフの代名詞的存在「魚拓」。2018年バージョンはヒメジのソテーの下にホタテと赤エビをしのばせてある。パンで作ったウロコは本当によくできており、食感もウロコそのもの

「TOKUYOSHI」の料理の特徴のひとつは食材のさまざまなテクスチャーで楽しませる、特にイタリア語でいうクロッカンテ、つまりはクリスピーな食感を重要視しており、口中で心地よい。その代表がもっとも有名な料理「GYOTAKU 魚拓」だろう。

2018年型では柔らかく火を通したヒメジの下にホタテ、赤エビそしてフィニッキエットとオレンジなどの柑橘で香りづけし、より地中海に近づけたバージョンだった。そしてパンで作った鱗が見た目もそうだが、何よりもその食感が香ばしく炙った鱗そのものなのだ。

一般的にイタリアでは、特に北部イタリアでは鱗や魚の皮は食べないが、和食でいう甘鯛の松かさ揚げのようなアプローチが「TOKUYOSHI」の懐の深さなのだろう。

「ホワイト・モノトーン」は、薄切りのイカと豚の脂の塩漬け「ラルド」の大胆な組み合わせ
「アサリと骨髄のスパゲッティ」アサリからとったスープの中で太めのスパゲッティを煮込み、最後に牛の骨髄から抽出したエキスを注ぐ。それだけでも十分おいしいのだがとどめはアルバ産の白トリュフ

「White Monotone」はイカとラルドをどちらも極薄切りにしたモノトーンなミニマル料理で一振りの塩が味を際立たせる。「Spaghetti Vongole e Midollo」は太めのスパゲッティにあさりのエキスと、オッソブーコに使う牛の骨髄を加えてミラノ的エッセンスをプラスシタもの。

魚介の旨味に動物性の旨味が加わり、それだけでもうなるほど美味しいのだがそれにアルバ産の白トリュフのトッピングが加わった。一口サイズの「Tigella」のあとに登場したのがピエモンテの畑をイメージしたようなカタツムリとナスタチウムの葉などの野菜を使った鮮やかな緑のソースだった。

カボチャのバルサミコを使った一口サイズのアイスキャンデーは、徳吉シェフが長く暮らしたエミリア地方の懐かしい味

最後のドルチェは一口サイズのトリュフ味のチョコレートとカボチャとバルサミコのアイスキャンディー、そしてメレンゲにビーツやコーヒーで色をつけた、アルプスの高峰をイメージした「Monterosa」だった。

「TOKUYOSHI」の料理は見た目もそうだが、口中で温度やテクスチャー、味の変化を楽しませる重層的な構造のものが多い。各料理とともに出される一口サイズのブロード、クリスピーな食感、そしてなによりもそのアイディアと組み合わせ、プレゼンテーション。イタリア料理を愛好するものからしてみれば「なるほど、その手があったか」と思わせるような仕掛けがいくつも用意されており、しかも徳吉シェフ本人はそうした仕掛けを楽しんでいるような感がある。そしてそれらの料理は決して実験的ではなく、計算され尽くした最小限の食材で最上の味を引き出すことに成功している。

進化した「TOKUYOSHI」の「OMAKASE」は楽しく、面白く、そして何よりも美味しい。今のミラノで一件、ファインダイニングの注目レストランを選ぶとするなら「TOKUYOSHI」を選びたい。

Ristorante Tokuyoshiの店内

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この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。