欧州政治も冬の季節ですな。

 統一欧州のリーダーとして君臨してきたドイツのメルケル氏は率いるキリスト教民主同盟が総選挙で大敗。フランスは例の黄色いベストのデモで財政改革ままならず。そしてイタリアのコンテ政権も2019年予算をめぐり欧州委員会とギリギリの調整を続けている。

 この不安定化の先鞭をつけたのが、ブレクジットの英国であることは、誰の目にも明らかでしょう。EUとの合意案は議会を通るのか。それとも合意なし離脱で更なる混乱を招来させるのか。あるいは、奥の手の再国民投票で脱退を止めるのか、まったく予断を許さない。

 しかし、この離脱ですがね、ぼくのようなシロウト考えでは、英国にとってプラスに働くとは思えないのですが、まあ、よく決めたものだ。並みじゃないですよ、この度胸。直接には押し寄せる移民への不満があるのでしょうが、どこかに、EU、つまり大陸側に支配、干渉されるのは我慢ならないという「プライド問題」がその背景にあるんじゃないかしらね。

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 そういうプライドが奈辺から寄ってきたったのか。やはり七つの海を支配したという超大国「大英帝国」時代へのノスタルジーがそこにはあると思うのですね。NETFLIXの『ダウントンアビー』などみれば、20世紀初頭の英国の超大国ぶりがよくわかりますが、その前、英国がまさに超大国としてのステイタスを確立した、19世紀後半、ヴィクトリア女王の時代がその原点でしょう。なにしろ、産業革命&世界植民地支配のダブルですから(笑)。

『ヴィクトリア女王 最期の秘密』(スティーヴン・フリアーズ監督作品)は、英国が最も輝いていた時代のシンボルであった女王の知られざる、まあ、ラブストーリーですね。それも事実だったらしい。

 ヴィクトリア女王(ジュディ・デンチ)といえば『ヴィクトリア女王 世紀の恋』(2009年)でも描かれた夫のアルバート公との仲睦まじさで有名。なにせヴィクトリア&アルバート博物館なんて、ネーミングにつかわれちゃうぐらいなんですから。その最愛の夫が42歳という若さで崩御した。これはショックだったんですな。女王はその服喪のため黒の服をよく着用していたため、それが英国中にひろまったという説もあるぐらいである。

 そんな、いわば「アルバート・ショック」で公務にも身が入らず、女王の補佐たるべき皇太子のバーティ(後のエドワード7世)もデキが悪い。おまけに王室の連中は権力闘争にあけくれている。知らなかったが女王の後半生はそんな時代だったのですね。そこにあらわれたのが、植民地インドから女王の在位50周年で記念コインの贈呈役に選ばれたイケメン、アブドゥル(アリ・ファザル)。

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 権謀術数至らざるところなしの王室に辟易としたヴィクトリアにとって、彼女をこころから慕い、敬うアブドゥルの「一途さ」はなによりうれしかったのだね。植民地であるインドの、しかもムスリムの信者であるアブドゥルを無理やり従者にしてしまう。このタブー中のタブーに王室は大パニックに陥ってしまうわけですな。

 ヴィクトリア女王といえば、歴史書でみるかぎり「堅物」というか、非常にモラルの高い人というイメージをぼくは持っていましたよ。でもね、彼女も人間だった。「そういう気持ち」になったら止められなかったわけだよ。この人間くささ溢れる逸話を息子のバーティは隠しとおしたわけだね。それはなぜか? 世界を支配する英国、その英国の頂点に立つ女王に身分違いの若者とのアレコレなぞあってはならなかった。逆に言うと、英国のステータスというのはそれほど高かったからなのです。

 最近もNHKBSの世界のドキュメントシリーズで『エリザベス女王と後継者たち~王室外交の舞台裏』と称し、ハリー王子がメーガン妃とともに英連邦(コモンウエルス)を構成する国や地域と王室外交を繰り広げる様子を克明に描いていた。いやあ、びっくりしたね。旧植民地からなるこの緩やかな連合体なんと、あなた、加盟53か国ですよ。したたかじゃありませんか。

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 ヴィクトリア時代に世界制覇をなしとげ、時代のながれで、最後の植民地香港を1997年に手放すわけだが、どっこい、これら英連邦ではクリスマスにはエリザベス女王のメッセージが一斉に流され、若きプリンス・プリンセスたちが訪れフォローしているわけ。EUに対して「冗談じゃない」と開きなおる態度のでかさ(笑)を支えるのは、たとえ首の皮一枚でもヴィクトリア時代から連綿と続いているこういうボスっぷりなのではありますまいか。ちなみに2019年はヴィクトリア女王生誕200周年だそうですぞ。

2019年1月25日公開 ©︎FOCUS FEATURES LLC. 

2019年1月25日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー!

出演:ジュディ・デンチ、アリ・ファザル、エディ・イザード、アディール・アクタル、マイケル・ガンボン
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:リー・ホール
音楽:トーマス・ニューマン
撮影:ダニー・コーエン
プロデューサー:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、ビーバン・キドロン、トレイシー・シーウォード  2017 年/ イギリス・アメリカ/112 分/カラー/シネスコ/
原題:Victoria&Abdul ユニバーサル作品
配給:ビターズ・エンド、パルコ 

この記事の執筆者
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。