スピードにロマンを追い求める男たちの指名率が高いスポーツカーといえば、マクラーレンに尽きる。自らチームを率いてF1を戦い、北米のスポーツカーレースであるCan-Amでも活躍した、ブルース・マクラーレンを創業者にもつブランドというストーリーにも惹かれる。そして今、レースをともに戦ったパートナーとのコラボレーションで、スペシャルペイントを施したロードカーが登場した。ビスポークで男の夢を叶える、またとないチャンスだ。
クルマ好きにはたまらない要素が満載
マクラーレン・エルバに「ガルフ・テーマby MSO」なるビスポークモデルが登場。日本でも、マクラーレン・オートモーティブの手で、2020年12月3日に東京・六本木で発表された。
クルマ好きが惹かれる、さまざまな要素を盛り込んだクルマだ。伝説的なブランド名、名レースカーにインスピレーションを受けたコンセプト、それでいながらふんだんに盛り込まれた最新の技術、そして往年のモータースポーツシーンを彷彿させるカラーリング……。
エルバ (Elva)は、1955年創業の英国の自動車メーカーで、スポーツカーとレースカーで知られる。マクラーレンとは、1964年にコラボレーションが始まり、同年に製作されたM1を皮切りに、70年代初頭までさまざまなレースのために、戦闘力のあるマシンを送り出した。F1まで計画に入っていたという。
2020年に発表されたエルバは、上記のレガシーを秘めたモデルだ。そのエッセンスは、599kW(815ps)のパワーと800Nmのトルクを発生する4リッターV8ツインターボエンジン、カーボンファイバー製の軽量・高剛性シャシーと、現在F1マシンも手がけるマクラーレンによる、最新の技術にもみてとれる。
マクラーレンの驚くべきテクノロジーの結晶として、あげられるのが「アクティブエアマネージメントシステム」。欧州や日本で用意されるこのシステムは、ウィンドシールドを不要とする。フード上のエアアウトレットが吹き出す風が幕となり、雨などをはじきとばすというもの。
ウィンドシールドをもたないので、とにかく、低い。「インテリアとエクステリアの境界が曖昧の一体感」とマクラーレンがするように、往年のレースカーのような美をもっている。
ガルフ・カラーはすぐれたレースカーの証!
そして、もうひとつこのクルマの魅力としてあげるべきは、希有な存在感だ。手に入れられるのは、ごくひとにぎりの幸運なひとたちだけという。限定生産であることと、オーナーの要求に応じてさまざまな仕様に仕立てられること。ビスポーク(注文)できるクルマである点が、真にぜいたくだ。
今回お目見えした、「ガルフ・テーマby MSO」は、どれだけエルバが魅力的に仕上げられるか、ビスポークの好例である。読者のなかにもよくご存知のひとがいると思う。ガルフ・オイルは1901年に米ペンシルバニア州ピッツバーグで創業。日本の自動車ファンには、60年代のモータースポーツシーンを通じてよく知られている。
オレンジとブルーからなるガルフのコーポレートカラーは、ポルシェやフォードのレースマシンの車体を彩ってきた。マクラーレンとは、創業者のブルース・マクラーレン(1937 〜70年)がみずからレースカーのステアリングホイールを握っていた時代からつきあいがあり、ヘリティッジオレンジに塗られた当時のマクラーレンのレースカーにも、円形のガルフ・オイルのロゴが掲げられていた。
1995年のルマン24時間レースで優勝したマクラーレンF1 GTRも、時としてガルフのロゴをボディにペイント。ガルフはすぐれたレースカーとの相性のよさを印象づけたのである。
レースというロマンをエルバのキャンバスに描くぜいたく
そんなガルフとマクラーレンのコラボレーションを知るひとにとって、東京にお目見えしたエルバ・ガルフ・テーマは、これ以上ないほど、心躍るカラースキームをもったスペシャルなのだ。
MSO(マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ)がデザインを含めて仕上げたモデルで、ブルーとオレンジの塗り分けを、生命体のように美しいカーブをもった車体にほどこしている。
「このプロジェクトはお客様に提供可能なパーソナライゼーション・オプションの範囲がますます広がっていることを示しています」。MSOのマネージングディレクター、アンサー・アリ氏の言葉が、プレスリリースで紹介されている。
MSOのモットーは「Art of the Possible」。オーダーを現実のものとすることで生み出す美。それを実現することだという。今回のガルフ・テーマは一例で、バリエーションは無限だそうだ。オーナーの要望に合わせて、MSOのデザイナーが最適なソリューションを提供してくれるからである。
さきごろ、マクラーレンとガルフ・オイル・インターナショナルは、これから数年にわたりパートナーシップ契約を結んだことを発表。マクラーレン・オートモーティブの量産スポーツカーの潤滑油がガルフ。また、マクラーレン・レーシングのF1マシン用の燃料はガルフが用意するという。
「マクラーレンとの関係が戻ってきたことを嬉しく思います」。マクラーレン・オートモーティブのマイク・フルーウィットCEOが語る。ファンとしても、今回の提携は新しくてなつかしいもの、といえるのではないだろうか。
もし、かつてのマクラーレンのレース活動のファンであれば、自分が理想とするカラースキームを、エルバのためにオーダーすることが出来るのは、喜ばしいことだろう。たんにレトロスペクティブな楽しみではない。マクラーレンの新しい門出を、ファンとして祝ってあげることにもなる。ぜいたくな楽しみだ。
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- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト