クラシックなファッションが大好きで、興味本位に始めたタイづくり。稀少なヴィンテージ生地を使った8本のタイをインスタグラムにアップすると、想像だにしない反響があった。弱冠23歳のニコラ・ラダーノ氏は、ナポリから発信するタイブランド「スパッカ・ネアポリス・タイズ」のつくり手として、オーナーとして、今、イタリアをはじめ世界から注目されている。ほんの1年3か月前、正式にインターネットで販売し始めたタイブランドが、瞬く間に伊勢丹新宿店メンズ館でトランクショーを開催するまでになったのだ。
「スパッカ・ネアポリス・タイズ」とはどんなブランドだろうか、ニコラ・ラダーノ氏とは何者か……。その成り立ちから迫る。
タイは文字通り「タイムレス」なもの
1995年、ナポリの中心地よりもヴェズーヴィオ火山にほど近い、ポルティチで生まれたニコラ・ラダーノ氏。1年前にナポリ大学を卒業。生物工学を修めながらも、職人の巧みな手仕事やサルトリアへの興味の方が大きくなり、仕事に発展した。
「クラシックなスタイルは、父親から影響を受けました。実は、祖父も父親も「E.マリネッラ」のタイの蒐集家。箪笥の中には、それこそヴィンテージ級の古いものもありました。子供の頃から、何本も引っ張り出して遊んでいました。タイは、タイムレスという言葉が当てはまります。トレンドにあまり左右されずに、クラシックなスタイルが表現できるアイテムです」
手仕事で生まれた製品の裏側に、何か人を惹きつける魅力が詰まっていると感じたラダーノ氏は、当時、大学が終わると、毎日のように「チャルディ」の工房に通った。「チャルディ」とは、ナポリ随一の名門サルトリアである。仕立て服づくりの技術や歴史など、今は亡き名マエストロのレナートから教えてもらったのだ。
「スーツやジャケット、パンツなどのアイテムに限らず、手仕事やヴィンテージの世界に、どんどんのめり込んでいきました。そして2年ほど前に、地元のポルティチでヴィンテージの生地を手に入れ、既製品を手がける友人の工房で8本のタイでつくってもらい、それをインスタグラムにアップしました。わずかな投資で、オンラインの小さなビジネスを始めたのです」
魅惑のプリント柄がさらに進化!
8本からつくり始めたタイは、40本、50本、そして100本に増えていき、いよいよビジネスが本格化。現在は、ヴィンテージ生地よりも、ヴィンテージの柄からインスピレーションを受けて、ラダーノ氏自身がデザインする新鮮な色合いのプリント柄が多くを占めるようになった。
「古い書籍や、ナポリ近郊の街、カゼルタにあるレウチェオ邸宅のシルク生地のアーカイブ資料などから、デザインのヒントを得ています。そこにナポリ伝統のモチーフをミックスさせ、フレッシュな感覚の色彩によるプレタポルテのコレクションを展開しています」
タイのつくりは、まるでスカーフのように軽やかに結べる薄いプリント生地で、芯地を使わない3つ折り。大剣の幅は、クラシックとモダンなスタイルの中間となる、絶妙な8.5㎝だ。各シーズンにトレンドを強く打ち出すコレクションではないが、季節に合わせた色彩で表現するヴィンテージな柄がなんとも美しい。
急成長を遂げ上陸した「スパッカ・ネアポリス・タイズ」は、今後も目を離すわけにはいかない注目のブランドである。
問い合わせ先
- 伊勢丹新宿店 TEL:03-3352-1111(大代表)
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- TEXT :
- 矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
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