【目次】
【第24回のあらすじ】
竹中半兵衛(菅田将暉さん)の死のシーンの余韻が覚めないまま、「もう日曜日!?」と感じた人も多かったと思います。1991年に日本でも放送されたアメリカのTVドラマ『ツイン・ピークス』では、他殺体となって発見された女子高校生のローラ・パーマーが「美しすぎる死体」と呼ばれたことを覚えている人はいるでしょうか。半兵衛の最期も、まさに「美しすぎる死に際」でした。
余談ですが、第23回では毛利方の交渉役、安国寺恵瓊(立川談春さん)の出番がすべてカットされていたそう。「半兵衛の死の前に私なんか…カットは当然でしょう」というようなことを、談春師匠は独演会の枕で話していましたよ。
さて、第24回「軍師官兵衛!」の始まりは、安藤サクラさんではなく、“アバンタイトルナレーション”として谷口慎一郎アナウンサーのナレーションで始まりました。“アバンタイトル”とは、映画やテレビ番組などでオープニング(タイトルや主題歌)の前に挿入される短いプロローグシーンのこと。
天正6(1578)年10月、別所氏の居城を攻めていた秀吉(池松壮亮さん)の元に荒木村重(トータス松本さん)謀反の知らせが届きます。窮地に陥った秀吉のため、小寺官兵衛(のちの黒田官兵衛/倉 悠貴さん)が村重が籠城する有岡城へ。ところが村重は説得に応じるどころが官兵衛を幽閉。「いま謀反を取りやめれば信長さまに許してらえる」という提案を、村重は信じることができなかったのです。自身が散々寝返ったり裏切ったりしてきた村重ですから、それも当然のことと申せましょう。
半兵衛ロスに陥っていた視聴者は、このニュートラルなアバンナレーションによる解説で、半兵衛不在の次なるステージへ、自然と移行できたのではないでしょうか。
別所長治(下川恭平さん)たちが籠城する三木城を望む付城で、秀吉は「皆の衆、今日もやるのじゃ~」と鼓舞してやったことは…じゃんじゃか鳴り物を鳴らし、銃声や「エイエイ、オー!」とときの声を上げることのみ。その騒ぎは向かいの三木城に届き、別所勢の士気を下げまくるのには十分でした。
そして有岡城。こちらは10か月に及ぶ籠城にも関わらず、村重は色ツヤもよく豪快に飯を食らっています。憔悴しきった別所長治とは正反対。というのも、村重に金で買われた織田の家臣が、こっそり兵糧を有岡城へ運んでいたのでした。それに気付いた小一郎は、なんと倍額で家臣を買い戻します。銭で奪われた心は銭で取り戻せるが、一度奪われた命は取り戻せない、仲間と殺し合うなど真っ平だ、と。
これまで以上に結束しているという織田勢に対して無策の村重は、信長(小栗旬さん)に許され生き延びる策はないかと幽閉している官兵衛に問います。このときの官兵衛の姿、ちょっとショックでしたね。妙案を授けてくれればここから出すとすがりますが、生気を失った官兵衛は、己の惨状を悔やむばかり…。
次のシーンで、新たな兵糧が届かなくなったことを表していたのが、村重の食膳メニュー。少量の白米に芋ふたかけ、そして漬物でしょうか。豪快に食らっていた時のお膳の品と比べ、なんと貧相な! 「このままでは家臣たちも飢え死にを待つばかり、皆を救えるのは殿だけでござりまする」と、妻のだし(山谷花純さん)に説得され、村重は調略に応じる意思を小一郎に示したのですが…。
ここで小一郎がとった策は、村重調略のキーパーソンとしてだしを調略すること。ナイス小一郎!――と思ったのもつかの間、なんと村重は毛利の元へ行って援軍を連れてまいると書き置きしていなくなります。要するに信長に調略されるのではなく、やはり毛利勢と共に戦うということ(本心は違うかも、ですが)。小一郎との約束を反故にしたばかりでなく、だしの手を取り「この命に代えてもそなたのことは守る」と言っていたのにーーー(怒)。
村重逃亡のきっかけになったのが、お宝っぽい品々を整理(?)している場面でした。茶碗を落として割ってしまうのですが、あれらは大事な大事な茶の湯の道具。茶室では政(まつりごと)が行われ、一国一城にも値するという品があったほど、戦国武将にとって茶道具の名品は命と同等の価値があるものでした。このとき割ってしまった道具がいかほどのものかわかりませんが、それをきっかけに信長に許されるはずがないと悟った村重は、妻も家臣も置いて自分だけ逃げるという卑劣で姑息な行動に出ます。これが、歴史上で村重が「天下一の卑怯者」や「戦国一の卑怯者」と記憶されるに至ったゆえんでしょう。
だしの悲しみ、怒りはどれほどのものか。山谷さんの、雷鳴をバックにした「おのれ村重~」の迫真の演技、すさまじかったですね。
残された家臣は信長の命によって皆殺しにされ、だしをはじめとする荒木一族は京の六条河原で斬首。だしの最期もお見事でした。斬首場に座してなお気品を保ち、目隠しを断る彼女の背後では柄杓(ひしゃく)の水が太刀を清めます。そこに被るように映ったのは、茶室でひとり茶を点てる村重の柄杓から落ちる湯。鎧(よろい)を脱ぎ、茶人として生きる村重の始まりですね。裏切り者にも関わらず、秀吉のお抱え茶人として重用されることになる村重。このあたりのことは、のちほどさくっと解説しましょう。
三木城陥落時にはひとり残らず討ち取れと息巻く織田信忠(小関裕太さん)。有岡城で村重を取り逃した失敗を繰り返すことは許されない――「父上ならそう申すはずじゃ」と、信忠は常に偉大なる父・信長をなぞります
そこへ現れたのは、有岡城の牢で死人(しびと)のようになっていた官兵衛。片足を引きずりながらも、半兵衛とやり合っていた、あの勇ましい官兵衛が戻ってきました! 官兵衛に「信忠さまのお考えをお聞かせくださりませ!」「なにとぞ寛大なお下知(げち)を!」と懇願され、秀吉、小一郎以下、家臣たちに頭を下げられた信忠から出た言葉は…「好きにいたせ」でした。
この「下知」という言葉の意味、ふんわりわかった気で見ていませんでしたか? 「下知」とは、上の者から下の者への指図、命令の意味。「どうか寛大なお指図を」ということです。
村重の調略を強行して捕らわれの身となった官兵衛でしたから、秀吉たちに合わせる顔がないというのも当然のこと。牢の中で死ぬことばかりを考えていたというのもうそではないでしょう。しかしそんな官兵衛を再び立ち上がらせたのは、息子の松寿丸が生きているという小一郎からの伝言と、かつて半兵衛に懇願された「われらの味方に」という言葉。
半兵衛に代わって秀吉・小一郎を守る、「再び仲間に入れてくださりませ」と頭を下げる官兵衛に、小一郎は「半兵衛は半兵衛、お主はお主じゃ」、秀吉は「とっくの昔から、お主はわしらの仲間じゃ」と言ってじゃれ合います。「半兵衛は半兵衛」の次は「官兵衛は官兵衛」と続くものと、瞬間的に思ったのは筆者だけではなかったのでは?
そして、別所長治は降伏の申し出を受け、自身の命と引き換えに家臣を守りました。
時間はかかりましたが播磨を攻略し、さて次なる相手は…中国地方を統治していた毛利勢です。当主は、稀代の謀略家として中国地方を制覇した超名将・毛利元就の孫、輝元(濱 正悟さん)。今は織田家と敵対していますが、やがて秀吉の五大老のひとりとなり、関ケ原の戦いでは西軍の総大将を務める人物です。
ようやく居城に戻った秀吉たちが妻たちと温かな再会を喜ぶ一方、信長と明智光秀(要 潤さん)は…。本能寺の変まであとわずか2年。次回、第25回のサブタイトルは「変事の予兆」です。2026年大河ドラマ『豊臣兄弟!』も、そろそろ後半戦に突入します。
【武将から茶人へ、荒木村重の転身】
愛妻のだしさえ置き去りにして逃げた村重。史実では武将としてのその後はまだありますが、ここでは“茶人”としての村重についてさくっとご紹介します。本作で、今後の登場があるのかないのか…も気になるところですね。信長も秀吉も政治に茶の湯を大いに利用しましたが、村重は本物の数奇者だったのかも?
■村重と「茶」の出合い
村重が本格的に茶の湯と関わり始めたのは、有岡城主になってからといわれています(幼少期から茶の湯に親しんだ、という説もあり)。信長が「手柄を立てた優秀な家臣にしか茶会を開かせない」というルールをつくったり、手柄の褒美として茶道具を与えたりしたなかで、村重は“一流の武将”の証しとして茶の湯を学びました。そして、堺の豪商である今井宗久(いまいそうきゅう)など、一流の茶人を招いてたびたび茶会を開催。今井宗久という名前、覚えておいてくださいね。
■有岡城からの夜逃げは「茶壷」を背負って
どこまで本当かはわかりませんが、村重は最も大切にしていた茶器の「兵庫壺」や「荒木高麗」などを背負って有岡城から夜逃げしたと伝わっています。この「兵庫壺」は、かつて武野紹鴎(たけのじょうおう。わび茶の土台を築いた茶人)が所有していたという名器です。
■「道糞」と名乗ったわけ
さて、有岡城から逃亡した村重は、荒木道糞(どうふん)と名乗ったといわれています。自身の逃亡によって荒木一族や数百人に及ぶ家臣とその家族までを、信長に惨殺させてしまったことへの自責の念からでしょうか。「道端に落ちている糞同然」というこの「道糞」という名前に、家族や仲間を捨て、自分だけが生き残ったことへの罪悪感や羞恥心が見て取れます。
■茶聖・千利休の高弟として
有岡城から息子がいる尼崎城などに身を隠した村重ですが、それらも落城すると、最後は毛利を頼ります。そして本能寺の変で信長が没すると堺に移り、本格的に茶人としての道を歩むことに。茶聖・千利休と深く関わったのもこの時代で、利休の高弟を指していう「利休七哲」(「利休十哲」とも)のひとりに数えられるまでに。ちなみに…『豊臣兄弟!』では今のところ登場がない村重の息子たち。そのひとりは、『洛中洛外図屛風(舟木本)』や『豊国祭礼図屛風』、『山中常盤物語絵巻』などで知られる絵師の岩佐又兵衛です。
■「道糞」から「道薫」へ
茶の湯の道で秀吉に仕えた村重。天下人の側近としてさすがに「道糞」はふさわしくないと、「道薫(どうくん)」と名乗るようになります。「道端の糞」から「道を薫ずる者」へ。かつての裏切り者を受け入れた秀吉。ここまで『豊臣兄弟!』が描いてきた人のいい羽柴筑前守秀吉だからなのか、それともドラマ後半で描かれていくであろう、天下人への階段を駆け上がる豊臣秀吉にとって、村重は出世の一駒だったのでしょうか。
【次回 『豊臣兄弟!』第25回「変事の予兆」あらすじ】
信長(小栗旬さん)の新たな城・安土城が完成。祝宴の場で信長は、家臣たちに相撲を取るよう提案し、若き近習・森乱(市川團子さん)の相手に、なぜか林秀貞(諏訪太朗さん)や佐久間信盛(菅原大吉さん)、安藤守就(田中哲司さん)ら長老格の重臣を指名する。
余興と思いきや、あえなく敗北した3人に、信長は問答無用で追放を言い渡す。小一郎(仲野太賀さん)と秀吉(池松壮亮さん)がその理不尽な行動の理由を探ると、光秀(要 潤さん)が信長の真意を語り出す。
※『豊臣兄弟!』第24回「軍師官兵衛!」のNHK ONE配信期間は2026年6月28日(日)午後8:44までです。
- TEXT :
- Precious編集部
- WRITING :
- 小竹智子
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 後編』(NHK出版)/『戦国武将の解剖図巻』(エクスナレッジ)/『NHK大河ドラマ 歴史ハンドブック 豊臣兄弟!-豊臣秀長とその時代』(NHK出版)/『戦国武将の死生観』(新潮社)/『戦国武将 知れば知るほど』(実業之日本社) :

















