ゼニスは言語感覚に優れたブランドだと、小生はいつもおもう。そもそもこの社名は「“天頂”を意味する」と伝えられているが、もしそれがフランス語であるならば「Zénith」=eの上に右上がりの記号であるアクサンテギュがつくはずだ。しかしながらスイスのル・ロックル、つまりはフランス語圏の真ん中にあり仏国境の近くで創業したブランドは、英語綴りの「ZENITH」を名乗っている。

過去から未来へ、誰もまだ見ぬ1000分の1秒の世界を切り開くゼニスの技術

 この社名は、万国博覧会で絶賛されたポケットウォッチの名前をそのまま社名にしたものなので、その商品もまた英語のネーミングだったことになる。つまりゼニスは、自らの居場所を決してフランス語圏に限定しようとはしていなかったのである。昭和の初期、日本にも輸入され、鉄道時計としても採用されていたことが知られているが、その頃の呼び名は「ゼニット」。フランス語の読み方としてはこちらが正しいのだが、英語読みならばゼニスになる。天頂という言葉はそうそう口の端に登るものではないが、フランスでは国内各地に10数カ所あるコンサートホール「ル・ゼニット」のお陰で、馴染んでいる。英語でのゼニスは、腕時計がまず思い浮かぶ。

 そのブランドの掲げる特大の看板ムーブメントが「エル・プリメロ」である。スペイン語の「No.1」にわざわざ定冠詞をつけてあり、いってみれば「絶対のナンバーワン」を名乗ったのである。これが英語で「ザ・プレミア」、フランス語で「ル・プルミエール」であったら、ネイティブに反感を買うこともあったかもしれない。いっぽう「エル・プリメロ」の、エキゾティックなスペイン語の名乗りは、50年続く名ネーミングであった。

 しかしそれは、No.1を名乗るのに当然の資質を備えていた。世界で初の、秒あたり10振動という高速の、自動巻クロノグラフ・ムーブメント。誕生した1969年は世界の3社(グループ)から、悲願であった自動巻クロノグラフが誕生したのだが、10振動という夢のスペックを実現したのはゼニスだけなのである。振動数だけでなく基礎性能も高く、“ロレックス”のデイトナが一時期、回転数を落とした「エル・プリメロ」を搭載していたのも有名な話である。

ゼニスの技術を象徴する特別な3本

エル・プリメロ50周年記念 スペシャルボックス

時計師のワーキングベンチを再現したような手の込んだボックスは、それだけでも垂涎の品。●¥5,724,000(税込予価、6月発売予定) ※世界限定50セット

「エル・プリメロ A386 リバイバル」

伝説のオリジナルを完全復刻したモデルは、機械式腕時計ファンの心をわしづかみにする。●自動巻き ●ステンレススティール ●ケース径38mm ●ラバーライニング加工のアリゲーター革ストラップ ●防水10気圧

「エル・プリメロ クロノマスター 2」

クールなスタイルのクロノマスター2は、エル・プリメロの“現代”を象徴する。●自動巻き ●ステンレススティール ●ケース径42mm ●ブラックセラミック製ベゼル ●防水100m

「デファイ エル・プリメロ 21」

未来志向のエクストリームなデザインは、エル・プリメロの“未来”を指向する。●自動巻き(エル・プリメロ 9004)●チタン ●ケース径44mm ●アリゲーターコーティングのブラックラバー製ストラップ ●防水10気圧

 オールドファンにとっては、機械式腕時計の半世紀を丸ごと重ね合わせられる、特別なロングセラーということになる。この3本セットの中でも、生産本数が少なかった1969年オリジナルの復刻モデルが持つ貴重さを、腕時計ファンなら見逃さないだろう。さらに「現在」「未来」を象徴する2本と合わせてトリロジー=三位一体を構成するのだが、実はこのボックスセットには4本目の時計を収めるスペースがある。そこは誰もまだ見ぬ「1000分の1秒を計測できるクロノグラフ」のために開けてあるのだという。3つの時計のセットには、ゼニスの過去から現在への共感と、未来の予約を形に残す割符も同梱されているのである。

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この記事の執筆者
桐蔭横浜大学教授、博士(学術)、京都造形芸術大学大学院博士課程修了。著書『腕時計一生もの』(光文社)、『腕時計のこだわり』(ソフトバンク新書)がある。早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校・学習院さくらアカデミーでは、一般受講可能な時計の文化論講座を開講。