ジャケットやスーツの胸ポケットは、携帯電話や定期入れを入れるためにあるのではない。男にとっては、限られたおしゃれを楽しむ空間なのでである。シルクとリネンのチーフという、素材の違った2種類のチーフを使い分けると、昼は清潔感を、夜はエレガントな印象をあたえてくれる。小さな存在ではあるが、わかる人にはわかるもの。チーフの印象ひとつで周りからの印象もぐっと変わるものだ。普段のスーツやジャケットスタイルにプラスするエッセンスとして、今すぐにでも実践したい。

ポケットスクエアの24時間

 他人には言わないが、ひそかに実践している、自分だけのルールがあるというのは、至極紳士的なことである。
 ある東京の洒落者だが、彼は日中はリネンのポケットスクエアを挿しているが、夕方の6時、食前酒を飲みたくなる時分になると、それをシルクのものに挿し替えるのだそうだ。ところが両方とも白だから同僚はだれも気がつかない。
 うまく6時にあがれることはめったにないが、自分のなかで昼と夜のスイッチを切り替えるためにやる。
 気づいて尋ねなかったら、彼は一生そのことをしゃべらないだろう。

清潔感と清涼感が漂う、エレガントな胸元
「昼のリネンチーフ」

チーフ¥6,200(ス トラスブルゴ〈ムンガイ〉)
チーフ¥6,200(ス トラスブルゴ〈ムンガイ〉)

フォーマルスタイルのスタンダードとして、「昼間は輝きがなく、ツヤのないアクセサリーで」という約束事がある。夜はその逆である。素材感が持ち味のリネンチーフは、エッジを3つ巻きで手縫いした、上質な一枚を選びたい。

ツヤを湛えたシルクがフォーマル感をアップ!
「夜のシルクチーフ」

チーフ ¥8,000(ヴァルカナイズ・ロンドン〈ター ンブル&アッサー〉)
チーフ ¥8,000(ヴァルカナイズ・ロンドン〈ター ンブル&アッサー〉)

ネイビーやチャコールグレーなどのダークスーツと好相性の、目の詰まった光沢感のあるシルクの白いチーフ。胸のポケットにさっと挿すだけで、大人の色気をかもし出す、絶妙なアクセントである。

いかがだろうか? 超実践的なルールを紹介した。決して難しくはない、それぞれ違ったチーフを二枚用意しておくだけで実践できるのだ。これだけで、周囲のあなたに対する印象はぐっと変わることだろう。

※価格はすべて税抜です。※価格は2016年春号掲載時の情報です。

この記事の執筆者
TEXT :
林 信朗 服飾評論家
BY :
MEN'S Precious2016年春号『東京ジェントルマン50の極意』より / 2017.9.27 更新
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。
クレジット :
撮影/唐澤光也(パイルドライバー/静物)スタイリスト/大西陽一(RESPECT)