紳士を虜にするのは服だけではない。バッグもまた、特別な存在である。上質な皮を使ったカバンは、慈しむように使い続けることで、自分だけの逸品に変わっていく。10年後、20年後に、ふたつとないカバンにメタモルフォーゼしている。そんなイメージを心に描きながら、いまこそ最高の名品を手に入れたい。
エルメスの古い鞍を自宅の暖炉の上にかざっている女性が知り合いにいる。それだけで彼女の優れた審美眼と、馬とモノへの愛情が伝わってくる。
鞍とはまるで用途は違うが、レザーバッグも実用品であり、年季は勲章だ。
とはいえ、ただ古いだけというのでは話にならない。いつ、どこにでも主人に同道できるよう手入れがなされていなければならない。ハンドルや蝶番などの消耗箇所は適宜交換されていなければならない。一見新品のようだが、実は10年、20年、30年使っているというのがあらまほしき姿である。
そういうつきあい方をするには安物のバッグではだめだ。材料の革も付属品も高品質で、何かあったらすぐに修理を受け付けてくれるような体制が整っているメーカーの品が好ましい。むろん、そのメーカーで修理する必要はないのだが、自社の製品を長く使ってもらいたいと願っている「姿勢」を買うのである。
ハンドバッグ、ブリーフケースを選ぶときはサイズ感が大切だ。小柄な人が大きなバッグ、大柄な人が小さいバッグを持つのは少々おかしい。
伝統の型押し技術の「しぼり」を駆使した、粋なバッグにも注目を
いかがだろうか? 徹底して付き合えるカバンを見つけるなら、まずは、ここで紹介したような信頼できるブランドを見つけることだ。
※価格はすべて税抜きです。※価格は2016年春号掲載時の情報です。
- TEXT :
- 林 信朗 服飾評論家
- BY :
- MEN'S Precious2016年春号『東京ジェントルマン50の極意』より
- クレジット :
- 撮影/戸田嘉昭(パイルドライバー/静物)