昭和の時代あたりまで、蔵書印というものがあった。今でも神田神保町などの古書店で稀覯本を渉猟すると、奥付けに押印されているのを見つけることがある。一定の発行部数のある本でも、自分の手元に来た1冊は特別な存在となる。
紳士の手元に置かれたものはどれも愛着のある品でありたい。万年筆やボールペンなどのお気に入りのステーショナリーはもちろん、ファッション小物にイニシャルを彫り込めば、それは蔵書と同様、あなただけの特別な存在になるのだ。さりげなく個性を主張するのもいいだろう。また、大切なパートナーや上司に日頃の感謝を込めて贈るのも粋だ。
さりげなくエングレービング
下着からスーツ、靴やアクセサリーに至るまですべてカスタムメイドという英国人を取材したことがある。どの品にも、ミドルネームを含んだ3文字のイニシャルが縫い込まれていたり、刻印されていたりする。
どれも趣味は悪くないのだが、やはり何もかもとなると少し気恥ずかしさを覚える。
イニシャル付きでもかまわないが、アクセサリーなどはセットで使わない方が良いだろう。
カフリンクスならカフリンクスだけをさりげなく使うほうがスマートだ。それにしても向こうの人の3文字のイニシャルは、ぼくらの2文字よりバランスがよく、そこは羨ましいところだ。国によっても違うが、ミドルネームを持つ人は貴族の家系であることも多い。彼らは奢侈を好まない。自分が愛着を持てるものを長く使うという習慣が根付いているからこそ、3文字のイニシャルが輝いて見えるのだ。
■TIffany&Co. ティファニー
イニシャルがあってこそ、マネークリップが際立つ
ハンドエングレービング(ネーム刻印)は、創業者チャールズ・ルイス・ティファニーの時代から継承されてきた伝統技法。さまざまなフォントから選べる。お札は1枚ずつ折って留めると抜きやすく、チップを支払う際の所作がスマート。
■Mont Blanc モンブラン
自分だけのペンを持つのも紳士たる所以
ネーム刻印で世界にひとつしかない、あなただけのオリジナルアイテムを手に入れてみてはいかがだろうか?
※価格はすべて税抜です。※価格は2016年春号掲載時の情報です。
- TEXT :
- 林 信朗 服飾評論家
- BY :
- MEN'S Precious2016年春号『東京ジェントルマン50の極意』より
- クレジット :
- 撮影/唐澤光也(パイルドライバー/静物)