これだけの大都市で、人口も圧倒的に多いというのに、東京は香水の香りが漂ってこない不思議な街である。ことに男性の香水忌避率はそうとう高いのではないか。電車や地下鉄に乗っても、クラブにでもくりだす夜のイケメンぐらいからしか香ってこないのが実情だ。
おや? と思うほど香りに繊細
組織で動く日本の企業社会の特質を考えれば、「個人」そのものである香りへの抵抗感は、まあ、理解できなくもない。また、総体的な香り体験の乏しさも香水と距離を置く原因なのだろう。
しかし、香りが人に及ぼす影響を考えたら、人生をそれなしで終えていくのはあまりにもったいない。人が焼き鳥やケバブにつられ、海辺で開放され、自宅で寛げるのは、そこに本能に語りかけてくる香りがあるからだ。ワイン、葉巻、チーズ、ショコラのような嗜好品は香りへの造詣がなければ、その森の深部へは辿りつけない。そして男女の間でも香りが果たす役割は……申すまでもないだろう。
「鰹節」
「珈琲」
「花」
「皮革」
「柑橘」
「フェルト」
「チーズ」
「酒」
「インク」
「葉巻」
「靴墨」
「茶葉」
普段意識しなくても、いい香りは記憶に残っているもの。日常に潜んだ香りを意識してみてはいかがだろうか?
- TEXT :
- 林 信朗 服飾評論家
- BY :
- MEN'S Precious2016年春号『東京ジェントルマン50の極意』より
- クレジット :
- 撮影/唐澤光也(パイルドライバー/静物)スタイリスト/石川英治(tablerockstudio)