3月公開の「大人の女性が観るべき映画」4選

映画ライター・坂口さゆりさんが厳選した、「大人の女性が観るべき」映画作品を毎月お届けする本シリーズ。今回は、2019年3月公開の映画、『ビリーブ 未来への大逆転』、『マイ・ブックショップ』、『ブラック・クランズマン』、『エマの瞳』の4作品をご紹介します。

■1:『ビリーブ 未来への大逆転』|ヒューマンドラマ

© 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO.,LLC.
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日本の組織で働いていれば、性差別を感じたことのある女性は少なくないはず。そんな女性たち、そして男性たちにもぜひ観てほしい映画が『ビリーブ 未来への大逆転』です。

主人公ルースは、現在米国で現役の最高判事として活躍するルース・ベイダー・ギンズバーグ(86歳!)がモデル。女性の社会進出を切り拓いたパイオニアが、幾多の困難を越えながら世紀の“男女平等”裁判に挑みます。実話を基にしているだけに、ルースの諦めない姿勢に元気をもらえること間違いなしです!

何しろルースがハーバード法科大学院に入学した1956年は、学生500人中女子はたったの9人。女子トイレもありませんでした。しかも、学部長は平気で「女子学生は、男子の席を奪ってまで入学した理由を話してくれ」と言う始末ですから、女子にとっては暗黒の時代です。

学生結婚していたルースは自身の勉学に励むだけでなく、突然ガンになった夫の授業も取り、子育てもこなして頑張ります。その甲斐あって夫は回復しハーバードを卒業。ニューヨークの法律事務所に就職しますが、夫と片時も離れたくないルースはハーバードからコロンビア大学に転籍。首席で卒業します。

© 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO.,LLC.
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ところが、13の弁護士事務所を受けてすべて不採用。理由はズバリ、女だから。結局ルースは大学教授に就任します。でも、弁護士になりたいという夢を簡単に諦められるはずはありません。

彼女はある日、夫から見せられた訴訟の記録に疑問を抱きます。男性が親の介護費用控除が認められないのは憲法違反ではないか、と。当時、親の介護費用の申請ができるのは女性だけでした。法律が親の介護をするのは女性の役目だと決めつけていたからです。ルースは自ら無償でこの男性の弁護を引き受け、法律のプロたちから“100負ける”と断言された訴訟に踏み切ることにしますが……。

大逆転を成し遂げたルースの諦めない熱い姿勢に加え、大きな見所がルースの夫マーティンの姿勢です。そもそも料理はルースが苦手、マーティンが得意。男女差別が横行する'70年代の米国で、料理も育児も当たり前のようにごく自然にこなし、働く妻を全面的にサポートする献身的な姿に拍手喝采です。彼がいたからこそ、妻は米国の根幹を変える偉業を成し遂げることができたに違いありません。

こんな夫がいれば私も……と、ついつい思いがちですが、ルースもまた夫が癌を患ったときはすべてを捧げています。映画はだれもが夢見る、対等な、理想の夫婦の物語でもあります。

なお、今回主演のフェリシティ・ジョーンズに取材もしました。そちらのインタビューももうすぐ掲載しますので、ぜひご一読ください!

作品詳細

  • 『ビリーブ 未来への大逆転』
  •  監督:ミミ・レダー 出演:フェリシティ・ジョーンズ、アーミー・ハマー、ジャスティン・セロー、キャシー・ベイツ、サム・ウォーターストンほか。
    3月22日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

■2:『マイ・ブックショップ』|ヒューマンドラマ

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.
© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

書店に流れる独特の時間を感じさせる映画『マイ・ブックショップ』。1959年の英国の海辺の小さな町が舞台です。

戦争で夫を亡くしたフローレンス(エミリー・モーティマー)は、それまで一軒も書店がなかった町に、夫との夢だった書店を開くことを決意します。ですが、町の有力者ガマート夫人(パトリシア・クラークソン)はそれを快く思わない。彼女の度々の妨害にも負けず、フローレンスはなんとか開店にこぎつけます。書店に客なんて来るはずがない、と思われていましたが、オープンしてみれば物珍しさもあって多くの住民で大盛況。

しかし、ガマート夫人の策略で、次第に経営が立ちいかなくなっていきます。そんななか、フローレンスの味方になってくれたのは、40年も邸宅に引きこもっている読書好きなブランディッシュ氏(ビル・ナイ)でした。果たしてフローレンスは自分の店をもちこたえることができるのでしょうか?

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.
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『死ぬまでにしたい10のこと』(2003年)のイザベル・コイシェ監督が英国ブッカー賞受賞作家ペネロピ・フィッツジェラルドの原作を映画化した本作は、本好きにはたまらない物語。映画を見ながら、書店の木の香りやページを繰るときの紙の匂い、ストーブの匂いまでも感じられるようでした。

そして、世代を超えて繋がっていく本を愛する心にほっこりしてしまう。お気に入りの書店でお気に入りの本に巡り合う至福の時間を、ぜひ映画館で味わってみてください。

作品詳細

  • 『マイ・ブックショップ』 
  • 監督&脚本:イザベル・コイシェ 出演:エミリー・モーティマー、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソンほか。
    原作:「ブックショップ」ペネロピ・フィッツジェラルド著(ハーパーコリンズ・ジャパン)。
  • シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開中

■3:『ブラック・クランズマン』|社会派エンターテイメント

© 2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.
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『ドゥ・ザ・ライトシング』『マルコムX』など数々の名作を撮ってきたスパイク・リー監督が今年、ついにオスカーを手にした(脚色賞)話題作が『ブラック・クランズマン』です。

黒人刑事が白人至上主義の過激派団体〈KKK〉(クー・クラックス・クラン)に入団し、悪事を暴く社会派エンターテイメント。これが本当にあった話だというのだから驚かずにはいられません。だって、そもそも「なぜ黒人が悪名高き白人の過激派団体に潜入できるのよ?」と思いませんか? ところが、若き黒人刑事が白人(ユダヤ系。ここもポイント!)刑事とタッグを組んで、まさに嘘のようなお笑い潜入捜査を展開してくれるのです。 

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1970年代に街で初めて採用された黒人刑事ロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、電話で白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)の支部のリーダー、ウォルター(ライアン・エッゴールド)にえらく気に入られ、見事欺くことに成功。そのまま会う約束を取り付けてしまいます。

しかし、黒人が一体どうやって白人に会うのかと署内は騒然。ロンが出したアイディアは、ロンは電話担当で、会うのは白人刑事が担当するというものでした。白羽の矢が当たったのはフリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)。フリップはロンの話し方を真似するところから始めるのですが……。

映画を観ながら何度笑ったことか。スパイク・リー監督がアカデミー賞の受賞スピーチで大統領を皮肉っていましたが、まさに笑いのなかに痛烈なメッセージが込められた映画となっています。

作品詳細

  • 『ブラック・クランズマン』 
  • 監督・脚本・製作:スパイク・リー 出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、トファー・グレイス、コーリー・ホーキンズ、ローラ・ハリアー、ライアン・エッゴールドほか。
  • 3月22日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開。

■4:『エマの瞳』|ヒューマンラブストーリー

© Photo by Rocco Soldini
© Photo by Rocco Soldini

見えているのに物事の本質は見えていないのでは? 日々の忙しさのなかで、そう感じることは少なくありません。イタリア映画『エマの瞳』は、満たされているようで満たされていないプレイボーイと、物理的には見えていないのに本質を捉えている女性との愛の物語です。

舞台はローマ。広告代理店勤務のテオ(アドリアーノ・ジャンニーニ)はある日、暗闇のなかを白杖で進む「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」のワークショップに参加します。暗闇の空間で、日常生活のさまざまな事柄を聴覚や触覚など、視覚以外の感覚で体験するというもので、彼はそこでアテンドをしていたエマ(ヴァレリア・ゴリノ)が気になります。ある日、テオは恋人グレタに服を買いに行った洋服店で、友人と服を選ぶエマを見かけます。彼女がますます気になるテオは果敢にアタックしていきますが……。

© Photo by Rocco Soldini
© Photo by Rocco Soldini

妻のような恋人がありながら、夫ある女性との恋も楽しむ。テオはいくつもの恋を同時に自由に楽しむ典型的なプレイボーイ。それでいて再婚した母や義父、妹弟と向き合わないまま過ごしてきたため、義父が亡くなっても葬式に出ることもない。ライトな恋愛や仕事漬けの日々は、そんな親しい人間関係を築けない反動のよう。

一方、エマは盲目ながら離婚後はオステオパシーの施術者として自立して生きる女性。人生で大切なものを見失っているテオが、エマに魅かれていくのはある意味当然なのかもしれません。テオは女たちとの関係をどう清算するのか? その代償はなんなのか? 本当に大切なものとは何かを考えたくなる1本です。

作品詳細

  • 『エマの瞳』 
  • 監督・原案・脚本:シルヴィオ・ソルディーニ 出演:ヴァレリア・ゴリノ、アドリアーノ・ジャンニーニ、アリアンナ・スコンメーニャ、ラウラ・アドリアーニ、アンナ・フェルツェッティ、アンドレア・ベンナッキほか。
  • 3月23日(土)から新宿武蔵野館、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国公開。
この記事の執筆者
生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画をはじめ、芸能記事や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。最近いちばんの興味は健康&美容。自身を実験台に体にイイコト試験中。主な媒体に『AERA』『週刊朝日』『女性セブン』『朝日新聞』など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』ほか。 好きなもの:温泉、銭湯、ルッコラ、トマト、イチゴ、桃、シャンパン、日本酒、豆腐、京都、聖書、アロマオイル、マッサージ、睡眠、クラシックバレエ、夏目漱石『門』、花見、チーズケーキ、『ゴッドファーザー』、『ギルバート・グレイプ』、海、田園風景、手紙、万年筆、カード、ぽち袋、鍛えられた筋肉
WRITING :
坂口さゆり
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