ずっと憧れていたクルマを買う。誰もが抱く夢なのに、なかなか実現できない。だがそのまま諦めてしまうのは、あまりにも寂しい。バリバリ仕事をして、あとは自分を納得させればいい。新型が話題のアルファロメオ・ジュリアをはじめ、欲しいクルマがたくさんありすぎるというのなら、ここは敢えて、古いアルファロメオのセダンなんてどうだろう。洒脱に生きる東京ジェントルマンには、ちょうどいい選択じゃないか。

ものにしたい車を諦めてはいない

 東京ジェントルマンなんてふれこみはカッコイイけれど、脂の抜け切ったお行儀良夫クンでは決してない。人間なんて欲がなくなったらおしまいだ。世界の王族・貴族だってその実態はそれはもうエグイのなんの。

 だから欲望に忠実であっていい。ジェームズ・ボンドのベントレーマークⅣがほしければ、探せばいい。しかし、自分のほしいものを手に入れるだけが目的なら、その人生は乾きすぎだ。何かの為になることをした、ひと肌脱いだ、そんな自分への報酬としてなら納得がいかないか。

 人に説明しなくてもシビアに自己評価を下して生きていく。現代紳士道の要諦はそのあたりにありそうである。

東京をスマートに流すなら小さな高性能セダン!

1967年に登場したアルファ ロメオ『1750ベルリーナ』
1967年に登場したアルファ ロメオ『1750ベルリーナ』

 年を追うごとに、クルマのサイズが大きくなっている。室内が広いのはいいけれど、幅は控えめでいい。なにしろ東京の道は狭いし、停められる場所だって限りがある。いっそのこと、古いイタリア車はどうだろう。カロッツェリアベルトーネがデザインした色気のあるセダン、アルファロメオ『1750』は、直線基調のスタイリングに大人の風格が漂う。上の写真のオーナーは、長年輸入車業界に携わってきたカーガイで、ほかにも2台の古い欧州車を所有する。タイトだが見晴らしのいい運転席に身を沈め、当時としては高性能な駆動系(1.8ℓ直列4気筒DOHCエンジン+5MT)を駆使して、東京の街を颯爽と走っている。これみよがしでないところが、粋である。

この記事の執筆者
TEXT :
林 信朗 服飾評論家
BY :
MEN'S Precious2016年春号『東京ジェントルマン50の極意』より
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。
クレジット :
撮影/篠原宏明