体にフィットして、すべてが手の内にあるような感覚こそがマクラーレンの魅力だと、自動車ライターの佐藤篤司氏は語る。それはまるでビスポークの英国靴にも似た、最高のはき心地と美しさ、素材の良さだ。ただし違うのは、ビスポークはオーナーの足に合わせてつくった専用品だが、マクラーレンの場合、あらゆる体格の人にも寄り添うところだ。

地上1mに目線がくる本気のロードカー

サメをモチーフにしたというスタイリングはハッタリ感がなく、スポーツドライビングを極めるためのエアロダイナミクスをひたすら追求している。
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リアセクションはCピラー一体型。オープンにしたときの後ろ姿も美しい。

 マクラーレンはF1を代表する名門コンストラクターズであると同時に市販ロードカー部門として「マクラーレン・オートモーティブ」を運営する、イギリスのラグジュアリースポーツカーメーカー。マクラーレンの名を冠するだけにリリースされるモデルと言えばパフォーマンスはもちろん、価格もスーパーな存在ばかり。今回試乗した570Sスパイダーは、その中でも「スポーツシリーズ」に属し、エントリーモデルとして位置づけられている。

 ここで簡単に整理しておくと、マクラーレンのモデルラインにはベーシックな「スポーツシリーズ」、よりスポーティな「スーパーシリーズ」、そして限定モデルのようなスペシャルモデルの「アルティメットシリーズ」がある。ちなみに2019年の年明け早々に発表されたばかりの720Sスパーダーはスーパーシリーズ、そして2013年に限定販売された「P1」や2015年に登場した「P1 GTR」、17年12月に登場して話題になった「マクラーレン・セナ」などは、アルティメットシリーズである。

 さて、今回試乗した570Sスパイダーは、もっともベーシックなスポーツシリーズに属するエントリーモデルとはいえ、車名が表すとおり最高出力は570馬力もあり、最高速は341km/h。誰でもが気軽に乗れる存在ではない。それなりにドライビングのスキルがないと簡単にはいかない。そんなある種の緊張感を持って、マクラーレンロードカーの重要な個性であるディヘドラルドアを跳ね上げ、寸分の隙もないほどピタリと体をホールドするシートに収まる。全高が1,202㎜しかないためアイポイントはさらに低く地上1m前後と、路面の近さを強烈に意識させられる。そこにはしばらく忘れていたスーパーカー的な景色が拡がり、走りへの期待感とそして緊張感が高まってくる

カーボンセラミックのブレーキが心地よい

必要な機能をシンプルにまとめたコクピット。前方視界は開けていて、取り回しでストレスを感じることが少ない。
シフトや走行モードのセレクトスイッチも機能的に集約。クロームなどの加飾を抑えていて、ストイックさが伝わってくる。

 一呼吸置いてエンジンスタートボタンをプッシュすると、意外なほど静かにエンジンがスタートした。このテのクルマに多い、不要とも思える演出的なアクセルの煽りも少なく、静々とエンジンが回り出す。そして慎重にアクセルを開けると570PSを発揮する3.8リッターV8型の総アルミニウムのツインターボチャージャーエンジンは、とても良識的にトルクを上げていく。突然トルクが立ち上がるのではなく、あくまでもアクセル操作に従順。あまりの扱いやすさに驚きすら覚える。

 しかし、高速道路の合流や追い越しでアクセルをグッと踏み込めば、停止状態から時速100kmまでの加速は3.2秒、時速200kmまでの加速はわずか9.6秒という強烈なトルク感で背中を蹴飛ばされる。さらに心地よかったのはブレーキングだ。あたりはソフトだが、踏力に合わせて制動力を正確に増していくブレーキフィールは実に心地良い。前後ともカーボンセラミック製で、フロントには6ポットキャリパー、リヤには4ポットキャリパーを備えているブレーキだが、時速100kmからのフルブレーキングを掛けると、わずか32mで完全停止できるという。その効きは強烈にして安心のうえにフィールも悪くない。

すべてが手の内にある乗り味

バスタブのようなキャビン。太いサイドシルをまたいで乗り降りするのだが、スーパースポーツカーにしては乗降性は悪くない。
エンジン前方に50リッターほどのトランクがあり、オープン走行時にはここにトップが収納される。フロントのトランクは150リッターあり、小旅行に持っていく荷物は十分収まる。
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 そしてワインディングに入る。走り出しで、時速40キロ以下で開閉操作ができるルーフをオープンにする。15秒ほどかかるが、作動は確実。オープンモデルとなるとクーペモデルより、どうしても車両重量が増大したり、ボディ剛性が低下したりすることを懸念する人がいる。だが、570Sスパイダーにおいてはそうした懸念は不要だ。この作動メカニズムによる重量増は46kgであり、ボディ剛性の低下などは日常的使用で、ほとんど感じることはないはずだ。

 そんなことを確認しながら徐々に速度を上げていく。高速ではオートモードを使ってきたが、ここからはパドルを使ったマニュアル変速モードに変更。パドルはシフトアップとダウンが連動していて、シフトアップを握るとダウン側が離れるという形で動く。これもシフト操作の確実性をより高める。それにしても本当にフラットな状況を保ちながら実に美しくコーナーをトレースしていくのだ。走り出して5分もすると、体の一部のような感覚はより高くなっていく。軽々とした、すべてが手の内になる乗り味は、昔からブリティッシュスポーツにあった伝統でもあったように感じた。ドイツ車のような硬質さとも、イタリアンスポーツのような官能的とも違う、マクラーレンだけにある極上のフィット感はいつまでも体に残った。まるでビスポークの英国靴をはいたときのように…。

「日本はマクラーレンにとって世界5番目の重要なマーケット」とメーカーがいうだけに、日本人に愛される英国紳士の佇まいをたっぷりと感じさせてくれるスーパースポーツに、すっかり心を奪われてしまった。そして、誰にでも優しく寄り添ってくれるハイパフォーマンスという間口の広さに、驚きを感じた。

<SPECIFICATIONS>
ボディサイズ全長×全幅×全高:4,530×2,095×1,202㎜
車重:1,359kg
駆動方式:MR
エンジン:3,799cc V型8気筒 DOHC ツインターボ
トランスミッション:7速SSG
最高出力:570PS/7,500rpm
最大トルク:600Nm/5,000~6,500rpm
価格:2898.8万円(税込)

問い合わせ先

  • マクラーレン・オートモーティブ
  • マクラーレン東京 TEL:03-6438-1963
    マクラーレン麻布 TEL:03-3446-0555
    マクラーレン名古屋 TEL:052-528-5855
    マクラーレン大阪 TEL:06-6121-8821
    マクラーレン福岡 TEL:092-611-8899
この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
PHOTO :
篠原晃一
MOVIE :
永田忠彦(Quarter Photography)