近年、愛犬と泊まれる宿は増えていますが、床や壁、アメニティー、サービスなど客室環境は多種多様。そんななかでも、伊豆の高級旅館「坐漁荘」に最近オープンしたペットと泊まれる客室「松琴亭ペットルーム」は新しい考え方に基づいています。

この客室を監修した、株式会社トラベルウィズドッグの中村貴徳さんに、こだわりや、愛犬と泊まれる宿の環境の考え方についてインタビューしました。

果たして、飼い主さんにとっても、愛犬にとっても家族にとってもハッピーになることのできる宿泊とは?

坐漁荘の「松琴亭ペットルーム」

「松琴亭ペットルーム」の庭

ABBA RESORTS IZU - 坐漁荘(アバリゾーツ イズ ザギョソウ)は、言わずと知れた伊豆の老舗高級旅館。

開業50年で初となるペット同伴で泊まれる客室「松琴亭ペットルーム」を、中村さん監修のもと、2019年4月1日よりオープンしました。

専用のアプローチ

そこは、本館離れの一戸建て露天風呂付き、庭付きのお部屋。ほかのお客様に配慮し、専用のアプローチから直接客室に入ることができる動線を整え、専用庭には愛犬が気持ちよく遊べるよう、ウッドチップが敷かれています。

「松琴亭ペットルーム」の露天風呂

宿泊料金は、大人2名1室利用、1泊2食付きで1名¥46,000〜(税サ別)、ペット料金は1泊あたり体重10キロ未満の小型犬は¥5,000(税別)、10キロ以上の大型犬は¥10,000(税別)となっています。

ビニールカーペットを敷かない理由

年間60軒以上ものペットが泊まれる宿を訪れるという中村さんによると、松琴亭ペットルームには、ほかのペットが泊まれる宿の客室とは異なり、掃除しやすい素材の床やビニールカーペットなどは使用していないのだそう。宿側としては、そそうをしたときなどに掃除しやすいため便利ですが、どうして使わないのでしょうか?

「松琴亭ペットルーム」

「みなさん、家族だと思っているんです、犬のことを。ですから家族旅行には連れて行きたい。しかし、いざ旅行に行くとなると、泊まるところやレストランは犬が優先になり、家族の誰かが我慢しないといけなくなります。その我慢をなくしたいんです」

我慢とは、どんな我慢なのでしょうか?

「今、犬を飼うシニア世代の方も増えており、そういった方々が犬を連れて泊まりに行ったとたん、部屋にビニールカーペットが敷かれていて、自分たちが若いころに行った旅館やホテルのイメージとは程遠い状況に多く遭遇します。

坐漁荘の許永社長も、秋田犬を飼われているのですが、“愛犬を連れて行っても、泊まってよかったと感じる施設に出合えることはほとんどない。ビニール素材を使った床や家具を見てさみしい気持ちになる”とおっしゃっていました。まるで病院のように、管理しやすい部屋になってしまっているんです。自宅では普通の環境に住んでいるのに、旅行に行くと病院みたいな部屋になる。これでは楽しめないですよね。

こうして、犬と一緒に旅行に行くと我慢しなければならなくなるのです。しかし、それは仕方がないことです。宿側は防御する必要があるからです」

坐漁荘のペットルームのメインは「人間」

「松琴亭ペットルーム」の庭

中村さんは、この状況を受け、自身には構想があるといいます。

「このような状況を考えると、しつけができている飼い主さんだけ受け入れる宿もあってもよいのでは、と思うのです。ルールを守ることができ、犬が何かをしてしまったら、すべての責任を負う飼い主さん限定でお客さんを集めればいいのではないかと。

例えば、坐漁荘は12歳未満の子どもは泊まれない旅館です。それは静かなところに泊まりたいお客様への配慮です。

ペットに関しても、ある一定の制限を設けて、それを守ることのできる飼い主さんとペット限定で泊まることのできる宿があってもよいのではと思っています」

松琴亭ペットルームについても、その考え方が生かされているといいます。

「ペットOKな宿はたくさんあります。しかし坐漁荘はそうじゃないんです。畳なんです。メインは人間。ビニールカーペットやソファーにビニールの布が敷いてあるのではなくて、人間が快適であることが最優先だと思っています。

畳の部屋ということは、つまり、しつけをしていることが大前提。しつけができてない場合や自信がない場合は、マナーパンツをはかせるか、行かないか、ビニールシートのところに行くかする必要があるんです」

ペットが泊まれる宿といえば小型犬だけOKというところも多いですが、松琴亭ペットルームでは大型犬も受け入れています。それも“しつけをしている”ことが前提だからだといいます。

「ゴールデンレトリバーのような大型犬は強そうなイメージがありますが、実はものすごくおとなしいんです。なぜなら大型犬は小さいときからよく訓練され、しつけをされていることが多いから。そのため、大型犬もOKということになりました」

松琴亭ペットルームのこだわりは「何も提供しない」こと

ペットも飼い主も快適に過ごせる空間。

中村さんは、松琴亭ペットルームの全体的なこだわりを次のように話します。

「こだわりは、“何もしない”ことです。坐漁荘はご存知の通り、日本を代表する、一度は泊まってみたい素晴らしい旅館。その坐漁荘に犬と一緒に泊まれるということ自体、素晴らしいことだと思います。その坐漁荘を、ペット連れであっても変わらず、思う存分味わってほしいと考えています。

何もしないというのは、例えば犬のフード皿なども提供しないということも含みます。赤ちゃんに優しい宿では哺乳瓶が支給されることがありますが、使わないというお母さんが多く、哺乳瓶は持参する方が多いようです。それと同じように、飼い主さんも自分の犬も守りたいから、万が一のことを考えて犬のフード皿も持参するんです。そういう飼い主さんをお客さんにしているので、何も用意しないというのがこだわりです」

ものを極力用意しないほかにも、“何もしない”サービスがあるといいます。

「よく旅館では、『コンコン、お布団を敷きに参りました』というサービスがありますが、犬がいる場合、吠えてしまうので、そういったサービスは何もしないでください、と頼みました。ものを提供するのではなく、静かさや快適さのある空間を追求することを意識しました。もちろん、犬が自由に遊べる場所は必要ですから、離れにある一戸建てタイプの庭付きにしています」


最近では、自分の子どもが独立したあと、夫婦で子どもさながらに犬を飼う家庭が増えているといわれています。

これからますます、犬と一緒に旅行に行くということは当たり前になっていくことでしょう。そして今後は坐漁荘に続き、高級旅館の、畳が敷かれた、ペット同伴OKな客室も出てくるかもしれませんね。

中村 貴徳さん
株式会社トラベルウィズドッグ 代表取締役、米国法人ホノルルドッグコンシェルジュ 代表取締役社長 兼 CEO
(なかむら たかのり)母親が残した形見である愛犬たちと日本一周を達成。後に今のペットカートブームをつくり上げた「マザーカート」の創設者。今までに約300軒ものペット可能な宿泊施設に宿泊。現在は数多くの大企業からのサポートを受け、愛犬・かんたろうと年/約60軒もの高級宿泊施設を訪れ、ペット受入に必要なアドバイスやノウハウを提供している。自らの夢でもある「世界中のどこにでも愛犬と共に」を企業理念に、愛犬たちが「真の家族」として、受入れられる日が来る事を目標に、現代の非常識を未来の常識に変える活動をしている。

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この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
2019.5.9 更新
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
石原亜香利