プレミアムSUVの最高峰にあるレンジローバー、その中でも「オートバイオグラフィー」は、贅を尽くしたフラッグシップに与えられるモデル名だ。今回試乗したのは2018年に追加された3.0ℓのV型6気筒ディーゼルターボエンジンのモデルである。シリーズには525馬力を発生する5.0ℓV型8気筒ガソリンスーパーチャージャーエンジンも、404馬力の2ℓガソリンエンジン+モーターのPHEVもラインアップされている。それに比べると最高出力258馬力というのは、いささか非力に見えるし、ディーゼルエンジンとしてのネガが、プレミアムなレンジローバーのキャラクターに影響しないか気になっていた。だが、試乗してみるとそうした懸念はあっという間に吹き飛んでしまったのである。
給油回数が減るという意味でも好ましいディーゼル
確かに最高出力ではガソリンモデルなどに適わないのだが、最大トルクにおいては600Nmを発生。5ℓのガソリンエンジンが最大トルク650Nmなので、力強さという点では遜色なし。それでいて燃費はディーゼルが12.4km/ℓ、ガソリンは7.4km/ℓだから、経済性では断然ディーゼルだ。プレミアムSUVに乗る人は燃料代を気にしないかもしれないが、燃費がいいことは給油の煩わしさを大きく軽減できるという点でも、非常に好ましい。なお、PHEVのデータは未公表だ。
そして、次に気になるディーゼルの振動や騒音をチェックするために、モダンで上質な、なんとも品の良いキャビンに収まってみた。エンジンをスタートするのを少しだけ遅らせて、この雰囲気をじっくりと楽しんだ。相変わらず隙のないインテリアには、じっくりと吟味された素材が各所に散りばめられ、見るからに上質。何とも華やか空気を醸し出しているのだが、ケバケバしたところやこれ見よがしのところがまったくない。さすがは英国ブランド、端正なルックスの外観とピタリと符合する雰囲気作りには頭が下がる思いだ。
いつまでもくつろいでいたい気持ちを切り替え、エンジンを始動させる。クランキングの一瞬だけ、ブルッと少しだけ震えるが、そこからは何とも上品に静々と回り出した。「え、これでディーゼル?」と思ってしまうほど、音も振動も上手く押さえ込まれている。念のためアイドリング状態のまま降りてみたが、外からでもガラガラとしたディーゼル音とはいえない回り方を見せてくれた。
改めて納得してドアを開けると、足元に電動ステップがせり出して「さぁ、お乗り下さい」と出迎えてくれる。走り出すとトルクの出方も低速から実に素直であり、唐突な感じは皆無。アクセルの踏み込み量に合わせてジンワリとトルクを発生し、実に滑らかに加速していく。試しに全開加速を試したのだが、2390kgの重量級でありながら、驚くほどあっけなく希望速度に達したうえに、不快なエンジン音が車内に親友することはなかった。
ロイヤルワラントの最高の走り
しばらく走ると、クルマが体にフィットしてくる感覚を覚えた。ゆったりとしたピッチングとしなやかなサスペンションのセッティングは極上の乗り味を実現してくれる。実はこのクルマには、電子制御サスペンションによって2つの走行モードを選択できるシステムが装備されている。「コンフォートモード」はソフトな設定で、「ダイナミックモード」を選ぶとサスペンションの設定が硬めとなり、ワインディングなどでのロールを軽減しながらフラットな姿勢でコーナーを駆けぬけることができる。だが個人的な好みからすれば、コンフォートモードのままでずっと過ごしていたいと思うほど極上なのである。
もはや4WDのシステムにおいては心配することもない。雨で濡れた路面や雪道、凍結路、そして通常ならまず経験しないであろう岩場やドロドロ路面などの過酷な悪路走行でも、その走破性能の高さに懸念を抱くことはない。市街地を静々と走り、高速ではゆったりとクルージング。上質なインテリアと上質な走りには、高級を知り尽くした英国ブランドならではの技が光っていたわけだ。何しろロイヤルワラントが付いているのだから、それも当然だ。
<ランドローバー レンジローバー オートバイオグラフィー>
ボディサイズ:全長×全幅×全高:5,005×1,985×1,865mm
車重:2,390kg
駆動方式:4WD
エンジン:2,992cc V型6気筒 ディーゼルDOHCターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:190kW(258PS)/3,750rpm
最大トルク:600Nm/2,000〜2,500rpm
¥16,101,852(税抜)
問い合わせ先
- ランドローバー TEL:0120-18-5568
- TEXT :
- 佐藤篤司 自動車ライター
- PHOTO :
- 篠原晃一
- MOVIE :
- 永田忠彦(Quarter Photography)