純喫茶を眺めて都市空間の「まだら」感を思う『純喫茶の空間 こだわりのインテリアたち』
『純喫茶の空間』というタイトルに惹かれて、本書を手に取った。平成が終わろうとしている今、かつてはなんとなく古くさいイメージだった純喫茶というものが、一周回って魅力的なものに思えるようになった。それだけ自分の中の昭和が遠くなったということなのだろう。
本書の「おわりに」には、次のような言葉が記されている。
<私が純喫茶の世界に夢中になった理由の一つに「日替わりの自分の部屋として純喫茶へ行けば、活きている昭和の雰囲気とインテリアが楽しめる」ことがあります>
「活きている昭和」という表現が面白い。確かに、二十一世紀になっても、すべてが均一に進化しているわけではない。我々が住む街のどこかには、今も昭和のバブル期や戦前や大正や明治や、もしかしたら江戸だって微かに残っているのだ。そんな都市空間の「まだら」感を思う。
旅行中にヨーロッパの歴史的なカフェに入ると、もしかして日本の純喫茶ってこういう場所への憧れから生まれたのかなあ、と思うことがある。でも、天井の高さやフロアの広さが全然違う。純喫茶においては、小さな空間に圧縮された夢が独自の発展をしているところに、また別の魅力を感じる。
本書のサブタイトルは「こだわりのインテリアたち」。純喫茶特有の凝りに凝った内装がオールカラーで見られるのが嬉しい。
また、店名のセンスにも感銘を受ける。「古城」「ルネッサンス」「こころ」「騎士道」…、今から自分が喫茶店をやるとしても、絶対に思いつかないものばかりだ。そのタイムスリップ感に痺(しび)れてしまう。
それぞれのお店で供される名物メニューも「コーヒーあんみつ」「ウインナーライス」「のりトースト」「ジジロア」など、微妙にヤバそうな雰囲気に興味をそそられる。巻末には地図も付いていて便利。ちなみに私が行ったことのある店は34軒中の11軒だった。
『純喫茶の空間 こだわりのインテリアたち』著=難波里奈
全国1700軒以上の純喫茶を訪ね歩き、「東京喫茶店研究所」の初代所長、芸術家の沼田元氣氏より二代目所長を任命されている著者。本書では都内の34軒を厳選し、昭和の面影を色濃く残す内装、オーナーが喫茶店を開くに至った経緯、また著者のお気に入りメニューまでこだわりの詰まった喫茶店の魅力を余すところなく紹介する。
※本記事は2019年4月7日時点での情報です。
- TEXT :
- 穂村 弘さん 歌人
- BY :
- 『Precious5月号』小学館、2019年
- PHOTO :
- よねくらりょう
- EDIT :
- 本庄真穂