王族のスタイルという言葉にこれほどふさわしい人物がいるだろうか。

英国王室のケント公爵家マイケル王子殿下(プリンス・マイケル・オブ・ケント)は1942年、英国バッキンガムシャーで生を受けた。

祖父は英国王ジョージ5世、兄は現ケント公爵エドワード王子、女王エリザベス2世の従弟として、数多の英王室の公務に携わっている。その独特の存在感は王室の中でも孤高の輝きを放っている。

マイケルという名は血縁であるロシア皇帝ニコライ2世の弟、ミハイル大公に由来している。これは英国のウィンザー王家とロシアのロマノフ王家の間の強い縁故関係の表れだ。

ヨーロッパの歴史と王家の血統を継承する唯一無二のスタイル

プリンス・マイケル・オブ・ケント/1942年、ケント公ジョージの次男として誕生。王立陸軍士官学校を経て、第11フッサール(軽騎兵)師団に入隊。ドイツや香港、キプロスで軍務についた。現在は王族としての公務のほか、慈善団体の支援など様々な分野で活躍。極太のネクタイをアイコンとするお洒落ぶりでも有名な彼は、世界最高のダンディと名高いウィンザー公の甥である。

マイケル王子はフランス語、ドイツ語が堪能とされ、特にロシア語は軍の通訳としての資格も持っているほどの語学力を有している。

そのスタイルの特徴である見事な髭と威風堂々とした風貌は、ジョージ5世、さらにロマノフ王朝最後のロシア皇帝ニコライ2世を彷彿とさせる。

果たしてニコライ2世はジョージ5世と血縁関係にあり、2人の容姿は側近でも判別できないほど非常に似ていたとされている。つまり王子のスタイルそのものが、ヨーロッパの高貴な王家の血統を色濃く反映したものなのだ。

前述のように語学堪能でスポーツにも秀でたマイケル王子は、英国王室の一員として、公務ではワールド・モニュメント財団など多くの慈善団体の支援を行っている。

加えて、名門ジェントルマンズクラブのロイヤル・オートモビル・クラブといった、趣味のヴィンテージカーやスポーツに関連した団体のプレジデントも務め、公私ともに精力的な活動を続けているのだ。

こうしたマイケル王子の多彩な活動とともに、英国で人々の憧憬を集めているのは、そのタイムレスで尊厳のある着こなしである。

中でもシグネチャーとなっているのはノットの太いパワフルなタイ、タイに合わせた台襟の高いシャツだろう。

このシャツは英国王室御用達のシャツメーカー、ターンブル&アッサーで製作されているのだと、過去の取材時に聞いたことがある。チャールズ皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)は住居であるクラレンスハウスに担当の者が伺うそうだが、マイケル王子は採寸に自ら店に足を運ぶという。このことからも王子の自由を好む気質が伝わってくるようだ。

さらにこんなエピソードもある。

1978年、現王妃との結婚の際、王妃が当時カトリック教徒であったことから、マイケル王子は王位継承権を失った。2013年の法改正で継承権は復活したが、マイケル王子もまたウィンザー公同様、結婚のために王位を棄てた王族のひとりであったのだ。

王位継承権一位のチャールズ皇太子が伝統を尊重した飽くまで控えめな装いだとしたら、立場が異なるマイケル王子の装いは、一見、華やかに見えるかもしれない。しかし、そのスタイルは英国のテーラリングとメンズスタイルの歴史を正統に受け継いでいる。

厳格さと剛毅さを併せ持つワイドラペルにスロープトショルダーのスーツは、まさにブリティッシュ・テーラリングの手本のようだ。

これらのスーツは15歳の時に最初のスーツを作って以来の贔屓のテーラー、1803年創業、サヴィル・ロウの「デイヴィーズ&サン」のものだという。

マイケル王子は名門ボーディングスクールのイートン校を卒業後、1961年にサンドハースト王立陸軍仕官学校へ入学。1963年に軍に入隊し、ドイツ、香港、キプロスで軍務についた。1981年の除隊後も陸軍名誉砲兵中隊の連隊大佐など役職を歴任している。

ブリティッシュ・テーラリングの起源は軍服にある。大英帝国の発展とともに軍服の技術は世界最高峰となり、メンズウェアの歴史は英国によって築かれた。マイケル王子のスタイルは紛れもなく、その系譜を継承している。

強いインパクトのある組み合わせを好んでいるが、そのスタイルにはたとえスーツであったとしても、軍服同様の威厳と高貴な緊張感が漂っている。

生まれた時から厳選された最上級の品質の品々に囲まれ、最高の教育を受ける王族といえども、すべての王族がスタイルを持っているわけではない。

だがマイケル王子には確固たる揺るぎないスタイルがある。

エレガンスに裏付けされた普遍のスタイル、そこに在るのはヨーロッパの伝統と歴史、王族だけ持つことのできる、有無を言わせぬ強烈な存在感である。

王子マイケル・オブ・ケントからひもとく王族スタイルの謎

Q1.プリンス・マイケルの装いの流儀とは?

プリンス・マイケルは現代の英国王室におけるベスト・ドレッサーのひとりであることはもちろん、19世紀におけるヨーロッパ貴族の伝統を受け継いでいる存在として、欧米では強く認識されています。その象徴といえるのが、襟腰の高いシャツと大きなノットのタイとのコンビネーションです。現在のようなやわらかな襟のシャツや、細いネクタイが生まれたのは20世紀以降のこと。19世紀までの貴族は、立ち襟のシャツを糊でガチガチに固めて、アスコットタイやスカーフを巻いていたのです。彼のVゾーンはそんな時代へのオマージュとともに、心身両面におけるたくましさ、すなわちmasculineを表現しているのかもしれません。

Q2.大きなノットのタイはどう結んでいる?

「フォー・イン・ハンド」、つまりプレーンノットです。プリンス・マイケルのタイはもちろんオーダー品なのですが、大剣はもちろん首まわりと結び目に当たる部分も広く裁断されており、しかも生地自体もヘヴィーウェイトなため、プレーンノットで結んでも自然にノットが大きくなるのです。芯地はそれほどヘヴィーなものは使っていないようですが。大きなノット=ウィンザーノットと思われがちですが、実は世界のアッパークラスはあまりこの結び方を用いません。その名前のルーツとなったウィンザー公も、ウィンザーノットはしていなかったようです。

Q3.英国の王族はどんなふうに装いを楽しんでいる?

古いものを手入れし、修理しながら大切に着続けていくのが、英国貴族やアッパークラスの流儀。プリンス・マイケルも半世紀以上前に仕立てた服をいまだに何着もお持ちのようです。もちろん修理やプレス、靴磨きといったワードローブのお手入れは専属の従者によって行われますが、普段の装いについては、基本的にご自身の趣味で選ばれておられるようですね。ただし、王族とはあくまで自らの国や国民を代表し、模範とされるべき存在。その装いにおいて最優先されることは、やはり自身の趣味より品性と格調の表現です。プリンス・マイケルの折り目正しき着こなしの背景には、式典用の軍服からの影響が強く伺えますが、それは軍務経験をもつ彼ならではの、リーダーシップの表現でもあるのでしょう。

風格と洒脱さを併せ持つ完璧なる装い

バックス&ストラウスと自身とのコラボレートによって誕生した時計、『ロイヤル ケント コレクション』を身につけたプリンス・マイケル。ダイヤモンドをちりばめた華麗なたたずまいと、長年にわたり着込んで風格を増したビスポークスーツとのコントラストが絶妙だ。

その威厳あふれる装いと行動で、世界の紳士たちを魅了するプリンス・マイケル・オブ・ケント。1789年に英国で創業し、高級機械式腕時計の分野でもその名を知られる、世界最古のダイヤモンドメゾン、バックス&ストラウス。

英国の美意識を体現する両者がこの春、パートナーシップを締結。アンバサダー就任を記念した特別コレクションを発表した。「工房を訪問するなど、メゾンの背景にある歴史や伝統、クラフツマンシップを学んだ上で、アンバサダーへの就任をお受けしました。
 

1789年にロンドンで創業し、この地の美意識を宿した究極のダイヤモンドウォッチをつくり続けるバックス&ストラウス。『ロイヤル ケント コレクション』は、定番の『リージェント』モデルをベースに、プリンス・マイケルの「コート・オブ・アームス(紋章)」の象徴的なモチーフをダイヤルに施したもの。なんと限定10本だ。¥17,280,000(フランク ミュラー ウォッチランド東京〈バックス&ストラウス〉)※税抜

共同でデザインした『ロイヤル ケント コレクション』は、私がこのメゾンでいちばん好きな楕円形のモデルをベースに、私の家紋から最もパワーのある部分を切り出し、ダークブルーの文字盤にあしらったものです」と、自らこだわりを語っていただけた。

「すでに確立した基礎を超越して進み続ける能力、あるいは新しく感動的なデザインを生み出す勇気から生まれるスタイル。個人の資質から生まれるテイスト。そして膨大な研究から生まれるクオリティ。その3大要素の合わせ技から、魅力的な時計やジュエリーは誕生するのです」とも仰ったプリンス・マイケル。彼の装いの謎はいまだ数多く残されてはいるが、やはりそのセンスは別格である!

<出典>
メンズプレシャス夏号 腕時計は男の「ロマン」「スタイル」だ!
【内容紹介】腕時計は「ロマン」「スタイル」だ!/男の装いに美しい時計が必要な7つの理由/教えて! マーク・チョウの「時計術」/名品時計録2019/「クラシコ80’s 」がやってきた!
2019年6月6日発売 ¥1,200(税込)
この記事の執筆者
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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クレジット :
撮影/鍋島徳恭(ポートレート) 文・長谷川喜美、青木ケン 構成/山下英介(本誌)