この地球という星の命のささやきが、五十億年もの長き時間をかけて生み出したダイヤモンドの輝きは、その素直で尊い光とともに、この星の記憶を宿している。この世で最も高い硬度を持つこの石を、古代ギリシャではアダマス、『征服されざるもの』と呼び、やがては王権を象徴するものとさえなった。遙か昔インドで発見されたゴルコンダと呼ばれるダイヤモンドの、澄みきった水のような透明感は、それを見る者の心に、美しきものに出会ったざわめきを与えよう。(松山 猛)

かつて世界で唯一のダイヤモンド鉱床として栄えた、インド中部ゴルコンダ。そのダイヤは20世紀初頭には枯渇し、現在では伝説と化している。写真はそんな稀少な石を中央にセットしたリング。その輝きは、清らかな湧き水をそのまま固めたかのようだ。(私物)

威風堂々、ラテンの格式!ブリオーニのタキシード

紳士としての信頼感もあわせて表現する、格式あるラテンの仕立てだ。タキシード¥691,000・シャツ¥138,200・ボウタイ¥18,000・チーフ¥18,000・カマーバンド¥60,000 (ブリオーニ ジャパン)

世界最高峰のスーツを仕立てるブリオーニの神髄を味わうなら、真っ先に礼服にそでを通すことだ。隅々にまで走らせた抑揚のある手縫いのステッチが、否応なく体で感じ取れるからである。それはまるで、自分の体がギリシア彫刻になったと錯覚するほど、肩や胸に生地が吸い付くようになじむ。ラペルの返りを見てほしい。この立体感こそジャケットの生き生きとした「美」をつくり上げる。服としての美しさとフィット感、この一体感が得られるのは、礼服にほかならない。

ちょっとブーローニュの森まで!東叡社のランドナー

日本有数のフレームビルダーとして知られる東叡社で注文したフレームに、手の込んだディテールのゴールデンエイジの各パーツを装着した。タイヤの色が、いかにもフランスらしい色調で洒落ている。私物。

優雅に旅を楽しむことを目的に、フランスで発祥したツーリング用の自転車がランドナーである。ハンドル、サドル、ライト……、フランス製のあらゆるパーツを集め、オーダーメイドのフレームで完成したランドナーは、まさに美の結晶だ。ランドナーを愛用する「テーラー・ケイド」のオーナー、山本祐平さんは、「ゴールデンエイジのフレンチ・パーツを取り付け、細部にわたり計算され尽くした機能的な美しさは、時代を超えて色褪せることはない」と絶賛する。

思わず抱きしめたくなる一足!ジョージ クレバリーのビスポーク靴

ジョージ クレバリーのオーナーのひとり、ジョージ・グラズゴー氏が来日の際にオーダーした一足。手元に届いてから15年も経っているのに、まだあの鼻に抜けるロシアンカーフ特有のにおいが残る。私物。

イギリス・ロンドンに、ビスポークの靴を手がけるトップクラスの靴店は何軒かあっても、靴づくりの実力と美意識、さらに世界の洒落者たちの間で、古くからその名が知られているのは、まぎれもなくジョージ クレバリーだ。しかも、海に沈んでいた、幻のロシアンカーフを大量に所有しているのはここだけ。ビスポークテーラー「羊屋」のオーナー、西口太志さんが「布団のなかで抱きかかえ寝た」というほど、希少なロシアンカーフをまとったタッセルローファーは、美の極致だ。

ジャン・コクトーの詩情!カルティエの『トリニティ』リング

イエローゴールド、ピンクゴールド、ホワイトゴールドの3種類のゴールドで造形し、1924年に誕生。三位一体の物語を彷彿させる、永遠の美を備えたリングだ。¥145,000 (カルティエ カスタマー サービスセンター)

詩人であり作家、映画監督でもあり画家。フランスが生んだ20世紀の前衛芸術家、ジャン・コクトーが、小指につけていたことで一躍有名になった『トリニティ』リング。3種類のゴールドは、それぞれの特徴ある輝きと色味で、どこまでも美しい光彩を放つ。晩年のコクトーのように、リングをふたつつければ、新たなる美の存在感となる。「複雑なデザインでありながら、繊細な美を備えている。女性よりも男性がつけるほうが魅力的」とスタイリストの小沢宏さんは称する。

繊細なる刻印のプリズム!ザ・スペクタクルの『ミュージアム ピース』

1920~’30年代、アメリカ製の金張りによるアンティークフレームの『ミュージアム ピース』。レンズ真横にテンプルが付くサイドマウントは、希少性の高い逸品だ。¥456,000(グローブスペックス ストア〈ザ スペクタクル〉)

眼鏡を手に取ったとき、少し力を加えるだけで折れるのではないかと思うほど繊細なフレーム。わずか2mm程度のフレームの幅に、細かい彫金がビッシリと施されている。これを美の匠と言わずしてなんと言う。微小なる彫金の柄は、1920年代のアールデコを彷彿させる模様にも見えるが、指先で触れると、しっかりとした模様の凹凸を感じられるのも脱帽だ。眼鏡が高級品だった時代だからこそ、意匠もまた凝る。今なお、そのままの姿を残して存在しているのが驚きだ。

煌びやかな一杯!バカラの『アルクール』『タリランド』

1841年誕生の名品『アルクール』。『タリランド』はその『アルクール』を基本に製造。上/『アルクール』ハイボール¥31,000・中/『アルクール』タンブラー¥31,000・下/『タリランド』タンブラーM¥22,700(バカラショップ 丸の内)

薄氷のようなグラスに美を感じる一方で、クリスタルグラスの重厚なカットグラスのノーブルな美しさには、さらにやられる。それが、ウイスキーを注いだときに直感するバカラのグラスだ。空気の泡のない透明な氷を入れウイスキーを注ぐ。グラスと氷と琥珀色が渦を巻くように溶け合う光景は、実に幻想的だ。ユナイテッドアローズの鴨志田康人さんは、「クリスタルの高い透明度の輝き。グラスそのものの美しさも最高だが、注いだ酒も美しくおいしそうに見せる」と賞賛する。

音質が良くスポーティ!バング&オルフセンの『ベオプレイ E8』

あまり音楽を聴かない人でも、このかわいく美しいイヤフォンを持てば、一層音楽にはまりそう。ケースに収めて約2時間で充電。連続再生は最大16時間だ。4色展開。¥30,463(バング&オルフセン 日本橋)

形には置き換えられない音。しかし、実体験で得られる心地いい音のイメージは存在する。そのなんとも言い難い抽象的なイメージを見事に具現化したのが、このイヤフォン。コロコロとした小さなプロダクトだが、美しく愛らしい形だ。耳につけたときの感触も抜群。先端はソフトなタッチで、外部からの音を遮り、好みの音楽を奏でる。指先でイヤフォンに軽く触るだけで、楽曲の操作、スマフォ着信時の応答にもすぐ切り替えられる。小さくも高感度。考え抜かれた美のデザインだ。

アールデコの優等生!パテック フィリップの『カラトラバ』

ホワイトゴールドのケースに、シンプルに構成されたドフィーヌ型針とスモールセコンドの絶妙な配置。まさに究極の美だ。¥2,400,000『Ref.5196』(パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター)

「簡素こそが美である」あるいは、「機能が形を決める」というバウハウスのデザイン思想に強く影響された、世界で最も美しい時計がこれだ。洒落者の間では、ドレッシーなスタイルには必ず『カラトラバ』といわれるほど、その洗練された無駄のないデザインは白眉。時計の愛好家でなくとも「いつかは『カラトラバ』」と心底思わせる名品だ。セブンフォールドのディレクター、加賀健二さんは「シンプルなデザインの極致。どんなスタイルも引き立てる逸品」と大絶賛する。

フィレンツェに根付いた洒落者たちの桃源郷!リヴェラーノ&リヴェラーノのビスポークスーツ

スーツ右から、チョークストライプをデザインした肉厚のウールフランネル生地のダブルブレスト。コシのあるコットン地が絶品のシングル。ストライプを配したモヘア混のシングル。サマーウールのグレンチェックが爽やかなシングル。すべて私物。

リヴェラーノ&リヴェラーノのスーツをまだ知らない服好きの人は〝残念な人〟と、私は勝手に決めている。なぜなら、豊かな人生を過ごすなかで、このスーツにそでを通さなければ「一生の後悔」ですよ、と言いたくなるほど、美しいのだ。「アーモリ―」共同オーナーのマーク・チョーさんは語る。「肩を包み込むような軽い着用感や、体のシルエットを綺麗に見せるライン。芸術とクラフツマンシップが両立した世界でいちばん美しいスーツ」。やっぱり!

※価格はすべて税抜です。※2019年春号取材時の情報です。
この記事の執筆者
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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2019年春号
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クレジット :
撮影/戸田嘉昭(パイルドライバー/静物) スタイリスト/四方章敬 構成/矢部克已(UFFIZI MEDIA)