この地球という星の命のささやきが、五十億年もの長き時間をかけて生み出したダイヤモンドの輝きは、その素直で尊い光とともに、この星の記憶を宿している。この世で最も高い硬度を持つこの石を、古代ギリシャではアダマス、『征服されざるもの』と呼び、やがては王権を象徴するものとさえなった。遙か昔インドで発見されたゴルコンダと呼ばれるダイヤモンドの、澄みきった水のような透明感は、それを見る者の心に、美しきものに出会ったざわめきを与えよう。(松山 猛)
威風堂々、ラテンの格式!ブリオーニのタキシード
世界最高峰のスーツを仕立てるブリオーニの神髄を味わうなら、真っ先に礼服にそでを通すことだ。隅々にまで走らせた抑揚のある手縫いのステッチが、否応なく体で感じ取れるからである。それはまるで、自分の体がギリシア彫刻になったと錯覚するほど、肩や胸に生地が吸い付くようになじむ。ラペルの返りを見てほしい。この立体感こそジャケットの生き生きとした「美」をつくり上げる。服としての美しさとフィット感、この一体感が得られるのは、礼服にほかならない。
ちょっとブーローニュの森まで!東叡社のランドナー
優雅に旅を楽しむことを目的に、フランスで発祥したツーリング用の自転車がランドナーである。ハンドル、サドル、ライト……、フランス製のあらゆるパーツを集め、オーダーメイドのフレームで完成したランドナーは、まさに美の結晶だ。ランドナーを愛用する「テーラー・ケイド」のオーナー、山本祐平さんは、「ゴールデンエイジのフレンチ・パーツを取り付け、細部にわたり計算され尽くした機能的な美しさは、時代を超えて色褪せることはない」と絶賛する。
思わず抱きしめたくなる一足!ジョージ クレバリーのビスポーク靴
イギリス・ロンドンに、ビスポークの靴を手がけるトップクラスの靴店は何軒かあっても、靴づくりの実力と美意識、さらに世界の洒落者たちの間で、古くからその名が知られているのは、まぎれもなくジョージ クレバリーだ。しかも、海に沈んでいた、幻のロシアンカーフを大量に所有しているのはここだけ。ビスポークテーラー「羊屋」のオーナー、西口太志さんが「布団のなかで抱きかかえ寝た」というほど、希少なロシアンカーフをまとったタッセルローファーは、美の極致だ。
ジャン・コクトーの詩情!カルティエの『トリニティ』リング
詩人であり作家、映画監督でもあり画家。フランスが生んだ20世紀の前衛芸術家、ジャン・コクトーが、小指につけていたことで一躍有名になった『トリニティ』リング。3種類のゴールドは、それぞれの特徴ある輝きと色味で、どこまでも美しい光彩を放つ。晩年のコクトーのように、リングをふたつつければ、新たなる美の存在感となる。「複雑なデザインでありながら、繊細な美を備えている。女性よりも男性がつけるほうが魅力的」とスタイリストの小沢宏さんは称する。
繊細なる刻印のプリズム!ザ・スペクタクルの『ミュージアム ピース』
眼鏡を手に取ったとき、少し力を加えるだけで折れるのではないかと思うほど繊細なフレーム。わずか2mm程度のフレームの幅に、細かい彫金がビッシリと施されている。これを美の匠と言わずしてなんと言う。微小なる彫金の柄は、1920年代のアールデコを彷彿させる模様にも見えるが、指先で触れると、しっかりとした模様の凹凸を感じられるのも脱帽だ。眼鏡が高級品だった時代だからこそ、意匠もまた凝る。今なお、そのままの姿を残して存在しているのが驚きだ。
煌びやかな一杯!バカラの『アルクール』『タリランド』
薄氷のようなグラスに美を感じる一方で、クリスタルグラスの重厚なカットグラスのノーブルな美しさには、さらにやられる。それが、ウイスキーを注いだときに直感するバカラのグラスだ。空気の泡のない透明な氷を入れウイスキーを注ぐ。グラスと氷と琥珀色が渦を巻くように溶け合う光景は、実に幻想的だ。ユナイテッドアローズの鴨志田康人さんは、「クリスタルの高い透明度の輝き。グラスそのものの美しさも最高だが、注いだ酒も美しくおいしそうに見せる」と賞賛する。
音質が良くスポーティ!バング&オルフセンの『ベオプレイ E8』
形には置き換えられない音。しかし、実体験で得られる心地いい音のイメージは存在する。そのなんとも言い難い抽象的なイメージを見事に具現化したのが、このイヤフォン。コロコロとした小さなプロダクトだが、美しく愛らしい形だ。耳につけたときの感触も抜群。先端はソフトなタッチで、外部からの音を遮り、好みの音楽を奏でる。指先でイヤフォンに軽く触るだけで、楽曲の操作、スマフォ着信時の応答にもすぐ切り替えられる。小さくも高感度。考え抜かれた美のデザインだ。
アールデコの優等生!パテック フィリップの『カラトラバ』
「簡素こそが美である」あるいは、「機能が形を決める」というバウハウスのデザイン思想に強く影響された、世界で最も美しい時計がこれだ。洒落者の間では、ドレッシーなスタイルには必ず『カラトラバ』といわれるほど、その洗練された無駄のないデザインは白眉。時計の愛好家でなくとも「いつかは『カラトラバ』」と心底思わせる名品だ。セブンフォールドのディレクター、加賀健二さんは「シンプルなデザインの極致。どんなスタイルも引き立てる逸品」と大絶賛する。
フィレンツェに根付いた洒落者たちの桃源郷!リヴェラーノ&リヴェラーノのビスポークスーツ
リヴェラーノ&リヴェラーノのスーツをまだ知らない服好きの人は〝残念な人〟と、私は勝手に決めている。なぜなら、豊かな人生を過ごすなかで、このスーツにそでを通さなければ「一生の後悔」ですよ、と言いたくなるほど、美しいのだ。「アーモリ―」共同オーナーのマーク・チョーさんは語る。「肩を包み込むような軽い着用感や、体のシルエットを綺麗に見せるライン。芸術とクラフツマンシップが両立した世界でいちばん美しいスーツ」。やっぱり!
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2019年春号
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- クレジット :
- 撮影/戸田嘉昭(パイルドライバー/静物) スタイリスト/四方章敬 構成/矢部克已(UFFIZI MEDIA)