2018年末に登場した新型メルセデス・ベンツAクラスだったが、ガソリンモデルに試乗したとき、なにかちょっぴり物足りなさを感じていた。もちろんクルマの出来はとても良かったのだが、今回、追加投入されたA 200 dに乗ってみて、その物足りなさの理由が少し分かったような気がした。さてモデル名でも分かるとおり、2リッターのディーゼルターボエンジンを横置きに搭載し、8速DCTと組み合わされて価格は399万円と、なかなか魅力的なスペックを携えてやってきたモデル。このエンジンはすでにCクラスなどに搭載され、好評価を得ているクリーンディーゼルだ。当然、燃費もいいし、このセグメントには必要なエコノミー&エコロジーという条件を確実に満たしてくれている。

どの速度領域でもストレス知らず

長らく大きな高級車をつくってきたメルセデスが、その技術をコンパクトなサイズに凝縮したプレミアムカー、Aクラス。女性ユーザーの指名も多いとか。
長らく大きな高級車をつくってきたメルセデスが、その技術をコンパクトなサイズに凝縮したプレミアムカー、Aクラス。女性ユーザーの指名も多いとか。
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OM654と呼ばれるディーゼルユニットを搭載。トランスミッションはガソリン車の7速から8速に変わっている。
OM654と呼ばれるディーゼルユニットを搭載。トランスミッションはガソリン車の7速から8速に変わっている。

 カタログをめくりながら事前のチェックを終えたところで、さっそく試乗に出た。今回は六本木からスタートして、首都高で高速ルートを走り、お台場などの湾岸エリアで一般路に降りて、という市街地コースだ。使いやすさを優先するオーナーが多いCセグメントのハッチバックを試すには最適な状況だ。

 エンジンをスタートさせると、ディーゼルらしく独特のサウンドが聞こえてくるし、ガソリンモデルよりは少しばかり賑やか。早朝の住宅街では少し気になるかも知れないが、それでも騒音と呼ぶようなレベルではない。走り出してみると、エンジン音も振動もストレスを感じる場面はほとんど無かった。いや、それよりもアクセルに対するレスポンスの良さに少しばかり驚いた。アクセルをググッと踏み込むとスムーズのトルクが立ち上がって、とても自然に、だがパワフルにそこ度が上がっていく。

 8速DTCのフィーリングも、とても自然で紳士的。ごくごく普通に日常の足として使い切ることを考えると、このナチュラルなフィーリングはストレスフリーで好ましい。

 ディーゼルの強烈なトルク感を存分に引き出して走りたいときは、走行モードを選べる「ダイナミックセレクト」をSPORTに切り替えればいいだけ。エンジンのレスポンスばかりか、ステアリングの反応もスポーティに切り替わるので、ワインディングなどでもキビキビとした、まさにスポーツコンパクトの名にふさわしい活きのいい走りを存分に楽しむことができる。だが、それでも普段はECOモードを選んで、ゆったりと乗っていたいと感じさせてくれる好ましいソフトさがある。非力さや物足りなさもないし、個人的にはこのECOモードをデフォルトにしたいほどフィーリングが良かった。

 最近はディーゼルエンジンのイメージも随分と変わってきたと思うが、それでもエンジン音や加速感、振動といったネガ要素を気にする人はまだまだ多いと思う。でも、これなら不満なく使える。

実はこのクラスこそ選び甲斐がある!

ほどよいホールド感を誇るシートはつくりの良さも抜群にいい。
ほどよいホールド感を誇るシートはつくりの良さも抜群にいい。
MBUXはステアリング上のボタンを押して話しかけるだけでOK。
MBUXはステアリング上のボタンを押して話しかけるだけでOK。
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 市街地での加減速やディーゼルのフィーリングを試しながら走っていたのだが、滑らかさと静粛性のおかげでけっこう平和な気分になる。その一因ともいえるのがサスペンションだ。ストロークを十分に確保し、前後にも左右にもボディの動きは基本フラットを維持しようとしながら、自然に動いていき、とても穏やかな乗り心地だ。

 こうした良好な乗り心地の中で少し気になったのは、路面の繋ぎ目などを通過したときの一瞬の堅さ、そしてザァーというロードノイズ。不快というほどのレベルではないのだが、ほかの仕上がりがいいだけに、惜しい。それは、タイヤがハンコック製であることも一因だろう。最近のハンコックはレベルが上がっているが、それでもディーゼルエンジンの遮音やサスペンションの味付けのレベルが高いだけに、タイヤの存在がどうしても気になった。もし、これが国産や欧州のタイヤだったら……と思ってしまったのは、正直な感想である。

 ひととおり走り込んでみると、さすがはメルセデスの仕上げたCセグメントのハッチバックである、という印象がどんどん強くなっていく。エクステリアの仕上げも素晴らしく、存在感もあるし、十分に高級に感じる。インテリアに目を移すと、相変わらずドライバーの目の前に広がる液晶メーターとパネルは未来感があるし、見やすく、ストレスはほとんど感じない。気がつけば、「は~い、メルセデス」と、用もないのにAI搭載ユーザーエクスペリエンス「MBUX」に向かって、いろいろなリクエストをして楽しむ自分がいた。

 これでAクラスのラインアップに不足がなくなったな、と感じつつ、同時にアウディ・A3、BMW・1シリーズ、そしてこのセグメントのベンチマークといわれるフォルクスワーゲン・ゴルフのことが猛烈に気になってきた。国産では今話題のマツダ・3もある。SUVばかりが注目されているが、選び甲斐のあるこのクラスをスルーするのはもったいないと思う。

<メルセデス・ベンツA200d>
ボディサイズ:全長4,419×全幅1,796×全高1,440㎜
駆動方式:FF
トランスミッション:8速AT(DCG)
エンジン:1,950cc直列4気筒DOHCディーゼルターボ
最高出力:110kW(150PS)/3,400~4,400rpm
最大トルク:32oNm/1,400~3,200rpm
価格:¥3,694,445(税抜)

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この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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