ほぼ1年前、ジュネーブでワールドプレミアされたジャガー初のピュアEV、I-PACE(アイペイス)の情報を確認したとき、まず思ったのは「カッコいいなぁ」だった。ジャガー流のエコロジーとは? とか、フル充電での航続距離は? とか、バッテリーの出力は? とか、充電にどれぐらい時間がかかるか? とか、従来から議論されてきたエンジン車とEVとの最大の差はなにか? で話題の中心となってきたことなどほとんど気にならなかった。とにかく、そのスタイルの良さに惚れたというか、どこかにホッとしたのだ。

ようやく登場したカッコいいEV!

一見するとSUVに見えない、新感覚のスタイリング。場所をとるエンジンがないEVだからこそできた、キャブフォワード設計だ。
一見するとSUVに見えない、新感覚のスタイリング。場所をとるエンジンがないEVだからこそできた、キャブフォワード設計だ。
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 実はEVとエンジン車のもっとも大きな違いは車のデザインが大きく変化すること、いやできることになると思っている。何はともあれI-PACEのエクステリアを見て欲しい。基本フォルムは、最近のSUVにおいて世界的トレンドといえるクーペスタイル。後方に向かってルーフラインが下がっていくそのデザインは、居住性を最優先にしたボクシーなSUVとは、ひと味もふた味も違った魅力があり、支持率は高い。それをジャヤガーはEVである利点を最大限生かしてさらにカッコ良く仕立てている。

 具体的には、フロント部分にエンジンを収める必要がないからボンネットを非常に低く、そして短くできる。単なる卵形とか空力ボディなどという表現だけでなく、ジャガーらしいスポーティ感と独特の未来感を上手く組み合わせてスタイリッシュに作り出していると思う。とくに真横から見たスタイルに注目して欲しい。長くなだらかなルーフラインは自然な感じでゆっくりと下がっていき、伸びやかで実にカッコいい。関連情報だが、このフロントノーズにある専用の空気の取り入れ口からルーフラインの後端まで連続したラインに沿って空気が綺麗に流れるため、結果的にリアのワイパーが不要になっているという。

EVならではの利点を生かしたパッケージング

荷室も広大。4WDであることも含め、確かにSUVとしての機能は十分である。
荷室も広大。4WDであることも含め、確かにSUVとしての機能は十分である。

 エンジンルームが不用となればホイールベースも長くでき、キャビンは大きく確保できる。同時に高速クルージングには有利な「ゆったり感」も手に入ることになる。そのうえ床下にドライブシャフトなどのパワートレーンも不要のため、ローフロアが実現できる。これによってエンジンを載せたクーペスタイルのSUVよりも、パッケージングの面で自由度が高くなり、カッコ良さと引き換えに諦めていた広さなどを手にすることができるわけだ。

 実際に乗り込んでみると、前後方向のゆとりがジャガーのアッパーミドルSUVのF-ACE並み。リアシートのレッグスペースのゆとりにいたっては、足が組めるほどに向上し、頭上の圧迫感もほとんどない。つまりジャガーの伝統的である上質なキャビンは広さという魅力を得て、さらに輝くことになったわけだ。

 インテリアの質感についても最近のジャガーのスタンダードを守っているし、プレミアム感も十分。軽量化や空力性能を最優先させるために、デザインや質感を少々犠牲にした日産・リーフなどとは違う点だ。どこか「EVなんだから環境性能のために、贅沢感は我慢しなさい」といわれている感じがしないだけに、I-PACEはEVとして魅力的である。EVとエンジン搭載車との最大の相違点はここなのだ。パッケージングやスタイルにはより自由度が増して、エンジン車より大幅に変更できることで、新しい価値観を生み出すことになると思う。

フィーリングはともかくパワーはすごい

インテリアもなかなかモダン。専用に開発された内装生地を選ぶこともできる。
インテリアもなかなかモダン。専用に開発された内装生地を選ぶこともできる。
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「いや、EVの一番の利点は環境に良いことでしょ!」という方も多いと思う。確かにEVは走行中にCO2を排出しない。だが極論かも知れないが、それだけでしかないのである。石炭や石油を使った火力発電では大量のCO2を排出している。さらに発電だけではなく送電ロスの問題、電力不足などの問題など、エコロジーを本質的に解決するためにはまだ多くの壁を乗り越えなければいけない。実はエンジンの効率を現在より25%改善すれば、もっともCO2排出量の少ない火力発電による電気を使ったEVと、排出量の低さにおいては並ぶという試算もある。つまりエンジンの可能性はまだ十分にある。おまけに2017年に中国やヨーロッパ主導で急激なEVシフトが行われたが、現実的にはその困難さから、見直す動きすらある。ここでEVのそもそも論を繰り広げるつもりはないが、EVがバラ色の世界を創るというのは、まだ先の話である。

 そんなことを考えながらI-PACEを走らせてみる。モーターを前後に使った4WDであり、合計最高出力は294kW、合計最大トルク696Nmを発生。これは凄いパフォーマンスで、ガソリンエンジンのモデルに例えれば3リッターV6エンジンを搭載し最高出力280kW、最大トルク450Nmを誇るF-PACEさえも上回る出力となる。おまけに0-100km/h加速は4.8秒と強力で、最高速度も200km/hと発表されている。低速から強烈に立ち上がるモーター特有のトルク感を伴ったその走りと、EVならではの低重心によるフラットで安定感のあるコーナリングも魅力。その走りは非常にスポーティだが、回転初期から最大トルクが立ち上がる、モーター特有の出方特性は強力ではあるが、一方でどれもが同じフィーリングに感じてしまう。エンジンはメーカーによっても、チューニングによっても個性がはっきりとしていて、それが魅力でもあった。ところがモーターには、その味付けの妙、面白みというものがほとんどない。

 試乗を終えたところで問題の充電時間を確認してみた。0%から80%までの充電時間はディーラーやサービスエリアなどにある100kWの急速充電で約40分、コンビニや道の駅に見られる50kWの急速充電で約85分、普通充電の7kWでは約10時間で完了するという。実際にEVライフを送るときには、この充電時間という問題を納得したうえで過ごさなければいけない。とりあえずI-PACEのカッコ良さに免じて、それぐらいは我慢するか……。

<ジャガーI-PACE SE エアサスペンション仕様>
ボディサイズ:全長4,695×全幅1,895×全高1,565㎜
車重:2,240kg
駆動方式:4WD
モーター最高出力:294kW(400PS)/4,250~5,000rpm
モーター最大トルク:696Nm/1,000~4,000rpm
価格:¥9,851,852(税抜)

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この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。