「HW ミッドナイト・ヨゾラ オートマティック」は、ハリー・ウィンストンと“中屋万年筆”とのコラボレーションという、異色で魅惑の話題作である。中屋万年筆といえば、万年筆づくりに40年以上の経験を持つ職人たちが中心となって、1999年に設立された名人芸集団だ。熟練の職人がすべての工程で手作りする万年筆はオーダーメイドのみ。得意とする漆塗りの特別注文も受け付けていて、蒔絵や螺鈿(らでん)、小生が研究テーマにしたいと目論んでいる琉球堆錦(ついきん)まで、さまざまな技法を華麗に駆使している。その奇跡的な職人たちが、ハリー・ウィンストンのニューヨーク五番街本店の形象を織り込みながら、蒔絵と螺鈿を交えた漆の技法を凝らして、ニューヨークの夜空を見事に描きあげたのである。
ハリー・ウィンストン「HW ミッドナイト・ヨゾラ オートマティック」
9層にも漆を塗り重ねたインクブラックのダイヤルに浮かびあがる五番街本店のアーチは、マザー・オブ・パールの象嵌による螺鈿細工である。そこからプラチナとパラジウムの蒔絵で、輝きが放射する。その漆黒の夜と花火のようなきらめき、闇と光彩のコントラストとダイナミズムを日本の伝統芸が眺め、解釈し、表現する。ニューヨーク近代美術館がなくてはならないのと同様、ニューヨークにはハリー・ウィンストンが不可欠だろう。生粋のニューヨークっ子であるブランドのルーツとアイデンティティの主張を、極東の職人たちがもう一度確認させる。1932年に創業した世界屈指のジュエラーとは、お互いに敬意を払い、存在を認めあうように見える。
日本の美意識がニューヨークを描くのか、ニューヨークが日本の美意識を選ぶのか。見ているだけで吸い込まれそうになる美景は、腕時計がもちえた芸術性のひとつの点景だ。中屋万年筆とハリー・ウィンストンが手を携えたニューヨークの夜空は、かくも魅力的なのである。
名門ジュエラーと日本の伝統が放つ品格
スイス製の自動巻きムーブメントを搭載した高級機械式腕時計で、男性用モデルは42mm、女性用は39mmサイズ。シースルーのケースバックには、中屋万年筆のロゴが入る。12時位置には、ブランドの象徴であるエメラルドカット・ダイヤモンドが煌めく。ダイヤルと同じデザインの中屋製万年筆とセットで、万年筆用のスタンドとしても使用できる竹製の特別なボックスに収め、販売される。それぞれの価値を高め合う、最良の組み合わせではないだろうか。
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- TEXT :
- 並木浩一 時計ジャーナリスト