7月公開の「大人の女性におすすめしたい映画」4選

映画ライター・坂口さゆりさんが厳選した、「大人の女性が観るべき」映画作品を毎月、お届けする本シリーズ。今回は、2019年7月公開の映画、『シンク・オア・スイム  イチかバチか俺たちの夢』、『田園の守り人たち』、『トイ・ストーリー4』、『存在のない子供たち』の4作品をご紹介します。

『シンク・オア・スイム  イチかバチか俺たちの夢』|ヒューマンドラマ

© 2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions
© 2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

男性のシンクロナイズド・スイミング(現アーティスティックスイミング)映画といえば、男子高校生の奮闘を描いた『ウォーター・ボーイズ』を思い出す方は多いはず。しかし、『シンク・オア・スイム』の主人公は、いわゆる“中年の危機”真っ只中にいる問題だらけのオジさんたち。ボヨンとしたお腹も隠さず、8人のオジさんたちがシンクロで世界一を目指します!

© 2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions
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うつ病を患い、引きこもり生活を送っているベルトラン(マチュー・アマルリック)は妻からは理解されているものの、子どもたちから軽蔑され、義姉夫婦からも嫌味を言われる日々。そんな彼がある日、地元の公営プールで男子シンクロメンバー募集を目にし、チーム入りを決意します。

メンバーは、仕事で成功しても妻と母親に捨てられたキレやすい社長のロラン(ギョーム・カネ)、いまだ夢を諦めきれずうらぶれた舞台でギターを掻き鳴らす給食の調理人(ジャン=ユーグ・アングラード)、事業に失敗し自己嫌悪に陥るマルキュス(ブノワ・ボールヴールド)……と、家庭や仕事、将来に問題や不安を抱える悩めるオジさんばかりなのでした……。

イタ〜いメンバー一人ひとりに思いを寄せることができるのは、それぞれのキャラがしっかり描かれているから。この映画は俳優としてキャリアを積んできたジル・ルルーシュが脚本を書き、初めてひとりでメガホンを取った長編映画ですが、「モデルは私です」とメンバー全員に監督自身を投影していることを教えてくれました。

© 2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions
© 2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

ルルーシュ監督は、そもそも現代の個人主義的な社会で身動きできなくなってしまい、うつ病のような状態にある多くの人々について語りたいと脚本を書き出したそうです。その手段として、勝負事のスポーツとしてではなく、仲間が協力しあってひとつのものをつくり上げ、また絵にもなるシンクロがぴったりだったと言います。

出来すぎのエンディングはご愛嬌ですが、現実に幻滅した男たちがシンクロを通して再び、生きる力を取り戻す姿は痛快。どんな結果になろうとも、年齢に関係なく努力は自信になることに改めて気付かされます。そして、笑顔は人を幸せにすることも。ここには、人生を良い方向に導くヒントが詰まっています。

作品詳細

  • 『シンク・オア・スイム  イチかバチか俺たちの夢』 
  • 監督・脚本・脚色:ジル・ルルーシュ 出演:マチュー・アマルリック、ギョーム・カネ、ブノワ・ボールブールド、ジャン=ユーグ・アングラード、ヴィルジニー・エフィラ、レイラ・ベクティ、マリナ・フォイスほか。
  • 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中。

『田園の守り人たち』|ヒューマンドラマ

©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse
©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse

冒頭から「あぁ!」と思わず感嘆の声をあげたくなったほど、スクリーンに広がる美しい田園風景に引きつけられてしまった『田園の守り人たち』。1915年から20年、第一次大戦下のフランスの田園地方を舞台に、戦場に取られた男たちの代わりに必死に農園を守って暮らす女性たちの物語です。

©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse
©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse

農園の未亡人オルタンス(ナタリー・バイ)は、長男コンスタン、次男ジョルジュを戦場に送り、近所に嫁いだ娘ソランジュ(ローラ・スメット)と共に農作業に追われる日々。ソランジュは夫クロヴィスを兵に取られ、義理の娘マルグリットと共に留守を守っています。

ある日、中尉に昇格した長男のコンスタンが休暇で戻り、前線の悲惨さを家族に伝えます。収穫の人手不足を心配しながら戦場へ戻るコンスタンの後ろ姿をオルタンスは胸が張り裂けそうになりながらもいつまでも見送るのでした。

©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse
©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse

迫り来る収穫時期のため、オルタンスが雇ったのは孤児院出身の20歳のフランシーヌ(イリス・ブリー)。収穫を無事に終え、誠実で働き者のフランシーヌは皆に気に入られ、家族のように暮らし始めます。やがて休暇で帰ってきたジョルジュは、フランシーヌと惹かれ合うようになりますが……。

戦時下であろうとも、種を蒔き時期が来れば穂が垂れます。どこまでも黄金に輝く麦は美しい。穫り入れ風景はまさにミレーの絵画「落穂拾い」の世界ではありませんか! 戦争中であることを忘れてしまうほど心奪われる風景ですが、そこに男性の姿はなく、残された女たちは生きるために、自分たちの世界を守るために、牛や馬を操り、力を合わせて働かなくてはなりません。毎日愛する人の訃報が届くかもしれないことを恐れながら……。

©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse
©2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse

戦争シーンを描かない戦争映画として話題になったといえば、日本でもアニメーション映画やドラマになった『この世界の片隅に』を思い出します。本作で直接的に描かれる戦争シーンも、休暇で帰ってきた次男のジョルジュがうなされる夢のシーンくらい。

でも、休暇で帰ってくるたびに快活さや無邪気さが消えていく男たちや、日々夫や息子たちの安否に気を揉む女たちの生活を丁寧に描くことで、戦争がどれほど不条理かを知ることができます。

また、世代の異なる3人の女性たちが登場する本作。不当に農場を解雇されたフランシーヌが子供を抱えながらも、戦争の終焉と共にたくましく生きていく姿は、見る者に希望を与えるに違いありません。

作品詳細

  • 『田園の守り人たち』
  • 監督・脚本:グザヴィエ・ボーヴォワ 原作:エルネスト・ペロション『田園の守り人たち』 出演:ナタリー・バイ、ローラ・スメット、イリス・ブリー、シリス・デクール、ジルベール・ボノー、オリヴィエ・ラブルダン、ニコラ・ジロー、マチルド・ヴィズ=エリーほか。
  • 岩波ホールほか全国順次公開中。

『トイ・ストーリー4』|アニメーション

© 2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
© 2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

世界初の長編フルCGアニメーション「トイ・ストーリー」が誕生したのは1995年。今回で4作目となりますが、20年以上経ってもますます練られた作品に。おもちゃというメタファーを通して見つめる「今」という時代は、「子ども騙し」とは決していえない大人までもが楽しめるエッセンスがたっぷり入っています。

本作で驚いたのは、初めて登場するアンティーク人形ギャビー・ギャビーの存在。腹話術人形たちと一緒に動く姿はホラー映画!? と思えるような雰囲気も醸し出していて、これまでとはちょっと違ったひねりの効いた映画となっています。

© 2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
© 2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

大人になって家を出たアンディからウッディらおもちゃの持ち主となったのは、おもちゃが大好きな少女ボニー。最近ではすっかりウッディが彼女の遊び相手に選ばれることが少なくなりましたが、ボニーを見守る姿勢は少しもブレません。

そんなある日、ボニーは幼稚園の体験入園に参加することに。嫌がる彼女を心配したウッディは、リュックに忍び込んでついていきます。周りになじめないボニーは、ウッディの密かな助けを得て、ひとりで先割れスプーンで工作を完成。彼女にとって1番のお気に入りのおもちゃ「フォーキー」となったのでした。ところが、フォーキーはいつも「自分はゴミだ」と思い込み逃げ出そうとします。

© 2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
© 2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

自分に存在価値がないと信じ込むフォーキーに何度も何度も諦めず、そうではないと語るウッディ。旅行の途中で車から飛び出したフォーキーをボニーのために探し続けます。その最中に寄ったアンティークショップでは、子どもに愛されることを夢見る人形ギャビー・ギャビーから「声の装置」を狙われるウッディでしたが、捕らえられたフォーキーを取り戻すため、彼は仲間たちと共に奮闘し続けます。

他人に不寛容といわれる今の時代、自分には存在価値がないと思い込む弱者は日本でも増え続けている一方。ウッディが忍耐をもって励まし続ける姿勢は、人が人であるために取るべく姿を教えてくれます。1度は夢破れ傷ついたギャビー・ギャビーが愛を得る瞬間もまた、見どころのひとつ。愛されることがどれほど人(人形ですが)を幸せにするかも教えられ、思わず涙腺が緩んでしまいました。

作品詳細

  • 『トイ・ストーリー4』
  • 監督:ジョシュ・クーリー 声の出演:ウッディ:トム・ハンクス/唐沢寿明、バズ・ライトイヤー:ティム・アレン、所ジョージ、ボー・ピープ:アニー・ポッツ/戸田恵子、フォーキー:トニー・ヘイル/竜星涼、ギャビー・ギャビー:クリスティナ・ヘンドリックス/新木優子ほか。
  • 全国公開中。

『存在のない子供たち』|ヒューマンドラマ

© 2018MoozFilms/© Fares Sokhon
© 2018MoozFilms/© Fares Sokhon

監督、脚本、主演を務めたデビュー作「キャラメル」がいきなりカンヌ国際映画祭の監督週間で上映され、その後の活動が注目されてきた女性監督ディーン・ラバキーが、中東の貧困と移民の問題に挑んだヒューマンドラマ。自分の誕生日も知らない推定年齢12歳の少年が、両親を告訴するという前代未聞の裁判から始まる衝撃作です。

暗い、怖い、汚い? こういう映画はちょっと、と思う方もいるかもしれませんが、見始めたらグイグイ引き込まれずにはいられません。本作はカンヌ国際映画祭でコンペティション部門審査員賞とエキュメニカル審査員賞を受賞。アカデミー賞とゴールデングローブ賞の外国語映画賞にもノミネートされた感動の映画です。

© 2018MoozFilms/© Fares Sokhon
© 2018MoozFilms/© Fares Sokhon

中東の貧民街で両親と兄弟姉妹と暮らしていたゼインは学校へも行けず、路上で自家製のジュースをつくって売ったり、ボロアパートの大家アサードの雑貨店を手伝ったり。1日中働かされっぱなしの日々。彼にとって仲良しの妹、サハルの存在だけが慰めでした。

ところがある日、両親は11歳のサハルをアサードと結婚させてしまいます。いやがるサハルを泣きながら見送ったゼインはそのまま家出。行くあてもなくバスに乗り、降りたのは遊園地。

仕事を探すも子どもは相手にされず、手にしていたわずかな金では食べ物を買うこともできず。途方に暮れた彼を助けて暮れたのは、レストランで働く移民のラヒルでした。ラヒルは自分の赤ん坊ヨナスの面倒を見てもらう代わりに、ゼインを自分たちの住むバラックに置いてやることに……。

© 2018MoozFilms/© Fares Sokhon
© 2018MoozFilms/© Fares Sokhon

学校へ通う子どもたちを送迎する車を見つめるゼインの羨ましげな眼差し。小さな弟や妹たちを引き連れて物売りをし、自分の背丈よりも大きな運搬用具を使いモノを必死に運ぶ姿。また、ラヒルが警察に突如捕まったことを知らず消えたと思い込み、赤ん坊を見捨てることもできずに世話をする。自分だけが生きるだけでも辛い環境で、妹や赤ん坊の面倒までみるゼインは、演技でここまでできるの? と思わせるほどリアルです。

それもそのはず、本作はドキュメンタリーではありませんが、物語の登場人物と似たような境遇にいるキャスティングをしたそう。実際に地獄のような環境を体験しているからこそ、訴えるものがまっすぐに観る者に伝わってくるのでしょう。

子どもを育てることもできず、愛を与えることもできない両親を告訴することを決意するゼイン。子が親を告訴するという設定が現実的であろうとなかろうと、私たちはゼインのような子どもたちが、この世に存在することを知ることがまず、必要なのかもしれません。 

作品詳細

  • 『存在のない子供たち』
  • 監督・脚本・主演:ナディーン・ラバキー 出演:ゼイン・アル=ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティフ・トレジャー・バンコレ、カウサル・アル=ハッダードほか。
  • 2019年7月20日(土)からシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
この記事の執筆者
生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画をはじめ、芸能記事や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。最近いちばんの興味は健康&美容。自身を実験台に体にイイコト試験中。主な媒体に『AERA』『週刊朝日』『朝日新聞』など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』ほか。 好きなもの:温泉、銭湯、ルッコラ、トマト、イチゴ、桃、シャンパン、日本酒、豆腐、京都、聖書、アロマオイル、マッサージ、睡眠、クラシックバレエ、夏目漱石『門』、花見、チーズケーキ、『ゴッドファーザー』、『ギルバート・グレイプ』、海、田園風景、手紙、万年筆、カード、ぽち袋、鍛えられた筋肉
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